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第二章 相思相愛編

ルーファスの本心

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「お湯加減は如何ですか?リスティーナ様。」

「丁度いいわ。ありがとう。リリアナ。」

「とんでもございません。」

リスティーナはお湯に浸かりながら、ホッと息を吐いた。ルーファスに今日はもう遅いから、泊まっていけばいいと言われ、その好意に甘えることにした。
今夜も…、私、ルーファス様と…。そう考えるだけでポッと頬が赤くなってしまう。
思わず頬に両手を当てた。ドキドキして、心臓が壊れそう。
でも、ちっとも嫌じゃない。むしろ…、彼に求められることがこんなにも嬉しい。視界に映るキスマークにそっと優しく触れる。
リスティーナは彼の事を考えながら、そっと目を閉じた。





「……。」

ルーファスはサイコロを持ち、それをじっと見つめていた。
ルーファスがリスティーナを遊戯に誘ったのは理由があった。ある事を確かめたかったからだ。
俺の推測が正しければ、彼女は…、その疑念は確信に変わりつつあった。

騙すようなやり口に心が痛んだが、それよりも彼女を知りたいという気持ちの方が強かった。
そして、リスティーナがサイコロを振ってすぐにルーファスは驚愕した。
リスティーナがサイコロを振ると、二つとも六の数字を出したのだ。つまり、一番強い数字を片方だけでなく、両方のサイコロどちらも出したということだ。
これが一回だけだったら、ただの偶然とも思えるかもしれない。
だが、リスティーナはその後も立て続けに同じ結果を出し続けたのだ。
連続で強い数字を出し続けているのだから、リスティーナが勝てたのは当然の結果だった。
リスティーナはたまたま勝てたといっているが、そんな訳ない。

サイコロの数を出す時、角度や投げ方によっては賽の目をコントロールすることは可能だ。
だが、リスティーナを見る限り、そういった技術を身に着けている様には見えなかった。
サイコロに細工がされているわけでもない。その後も幾つか他の遊戯もやってみたが、どれも同じ結果だった。普通では有り得ない強さだ。
恐らく、賭博場に行けば、リスティーナは瞬く間に注目の的になり、一夜で大金を手にすることができるだろう。それ程の運の強さを持っていた。

他の人間が見たら、ただ単純に賭け事に強い女だと感心するだけだろう。だが、ある一部の人間にこれを見られたら…、ルーファスはサイコロをそっと元の位置に戻した。
チラッと窓の外に目を向ける。この王宮では宮廷専属の占い師もいる。
彼らは毎日の天気や運勢を占っている。宮廷占い師の占いによると、明日の天気は晴れだと言っていたそうだ。
だが、リスティーナは真逆の事を言っていた。ルーファスは窓の外に視線を向けた。夜空には星が浮かんでいて、雨が降りそうな天気には見えない。雨が降る前日には、雲が陰り、月や星が見えない筈だ。

ルーファスは元々、占いは信じていない。リスティーナには占いが好きだと言ったが、それは嘘だった。
呪いに罹った当初、占い師に診てもらったのは事実だが、彼らの言葉は胡散臭く、信用できなかった。
ローザもよく占いをしていたし、実際によく当たっていた。
さすがは巫女様だと周囲から崇められる程には。だが、ルーファスはどうしても占いを好きにはなれなかった。勿論、ローザの占いも。

このカードはローザが置いていったものだった。リスティーナにはローザの話はしていたが、何となく、これがローザの物だと話したくなかった。
スッと立ち上がり、机の引き出しから小さい手帳を取り出す。
そこに文字を書きこんでいく。太陽の形をしたペンダント、太陽の刺繍、何も文字が書かれていない謎の本、占いやまじないに通じた一族、魔力なし、甘い匂い、そして、天性の勘ともいえる勝負運の強さ。条件は揃っている。
ルーファスの脳裏にローザの言葉が甦った。

『ルーファス。あたしね…、巫女の力を持っているのよ。』

そう言って、どこか誇らしげに胸を張るローザの姿を思い出す。
確かにローザは巫女の証である桃色の瞳を持っていた。対して、リスティーナの瞳の色は森の緑を連想させるエメラルドグリーンの色だ。だが…、
不意に浴室から出てくる気配を感じ、ルーファスはパタン、と手帳を閉じた。

「ルーファス様。あの…、お風呂先に頂きました。」

声に振り返れば、そこには湯浴みをすませたリスティーナがいた。
潤んだ瞳、上気した頬、しっとりと濡れた髪…。リスティーナが近付くと、ふわっと甘い花の匂いがした。それを嗅ぐだけでドクン!と心臓が脈打ち、欲望に支配されそうになる。
彼女を自分の物にしたい、壊れる位に滅茶苦茶にしてしまいたい。
そんな思いに駆られてしまいそうになる。思わず手が伸びる。
リスティーナは何も知らずにキョトンとルーファスを見つめている。リスティーナの透き通った瞳を見て、ハッとした。慌てて手を下ろす。

「ルーファス様?」

「…何でもない。俺も入ってくるから、好きに過ごしてくれ。夜食と飲み物を用意させたら、良かったら食べるといい。」

「ありがとうございます。」

ルーファスの欲望に気付かないリスティーナは笑顔でお礼を言った。その笑顔にまたしても彼女を襲いそうになり、グッと堪えた。



「わあ…!オレンジ!」

リスティーナは用意された果物にオレンジがあるのを見て、はしゃいだ。
一口、口に入れる。甘い果汁が口の中に広がった。美味しい…!もう一つ手に取る。
私がオレンジを好きだと言ったから、わざわざ用意してくれたんだ。
リスティーナはルーファスの気遣いにまたしても胸がときめいた。
どうしよう。私、どんどんルーファス様を好きになっていってる気がする。
これ以上、あの方を好きになってしまったら…、私、どうなってしまうのだろう。
リスティーナはそっと心臓を抑えた。暫く、リスティーナは胸のドキドキがおさまらなかった。
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