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第二章 相思相愛編
晩餐の誘い
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リスティーナは薬草湯に浸かりながら、ホッと息を吐いた。温かい…。
お湯に浸かりながら、昨夜の情事を思い出す。
前回は一回だけだったのに、昨日は三回もしてしまった。
一回で終わるかと思いきや、ルーファス様に「もう一回いいか?」と言われたら、断る事なんてできなかった。…でも、まさか三回もすることになるなんて思わなかった。
ルーファス様って見た目は穏やかで紳士なのに、夜はあんなに激しくなるんだ。
昨夜の彼の熱のある視線や吐息を思い出すだけで赤面してしまう。細く見えるけど、意外と逞しく、力もあるし…。
「ッ…!」
バシャ、と水音を立てて、リスティーナは自分の顔にお湯をかけた。
ふと、胸元に散らされた赤いキスマークに目を落とす。昨日、ルーファスに跡をつけたいと言われ、意味がよく分からないまま頷くと、胸元に吸い付かれ、チリッとした痛みがしたかと思ったら、彼が口づけた所に赤い跡が残った。それが鬱血跡であり、俗にいうキスマークだということを昨日、初めて知った。
リスティーナはまともな性教育を受けなかったし、男性は苦手だったことから男女の色恋にも疎いせいでそういった知識は基本的な事しか知らない。せいぜい、どうやったら、子供ができるのかという知識しか持ち合わせていなかった。ルーファスも本を読んでやり方を覚えただけで実践するのは初めてだと言っていた。初めてなのにキスマークをつけることに成功したのが嬉しいのかその後も執拗にキスマークをつけられてしまった。
それがまるで彼の物だという証そのもののような気がして、リスティーナもそれを受け入れた。
が、その後の事は全然考えていなかった。
「今日は、首元を隠せる服にしよう…。」
リスティーナはそう決意した。いざとなったら、スカーフで隠せばいい。
そう考えながら、風呂から上がった。
「リスティーナ様。今晩、ルーファス殿下から夕食のお誘いがきていますが…、どうしますか?」
「え!?ルーファス様から?」
リスティーナは刺繍をする手を止め、顔を上げた。
ルーファスからの誘いに胸が高鳴る。スザンヌにルーファスからのカードを渡された。
白地に金色の文字で書かれた美しいカード。
男性が書いたとは思えない程、繊細で綺麗な字だった。微かに睡蓮の香りがする。
ドレスと塗り薬を贈ってくれた時に添えられたカードと全く同じ字だ。わざわざカードまでくれるなんて…。ルーファス様の性格が表れている気がする。リスティーナは思わずフフッと口元が綻んだ。
断るという選択肢はそもそもなかった。
リスティーナの伝言を承ったスザンヌはその場を下がった。その後、なかなか帰ってこなかったスザンヌにどうしたのだろう?と思いながらもリスティーナは刺繍を続けた。
「ということで…、料理長。リスティーナ様は野菜や果物が好きみたいなので料理は野菜メインでお願いします。」
「お任せください!」
料理長はやる気に満ちた様子で頷いた。料理長といっても、厨房を任されているのはこの女料理長だけだ。以前は他にも料理人がいたが、皆ルーファスを恐れて辞めていく者が後を絶たず、残ったのがこの女料理人だけだった。今でも王宮から通いで手伝いに来てくれる料理人はいるが、実質厨房を取り仕切っているのはこの女料理長だ。料理人として、優秀であるにも関わらず、女という理由だけで馬鹿にされていた彼女の料理を認めてくれたのがルーファスだった。それ以来、料理長もルカ達と同様にルーファスに仕える数少ない使用人の一人だった。
「ですが、いいのですか?殿下は野菜が苦手なのに…。」
「いいんですよ。殿下がリスティーナ様好みの料理を作るようにと指示しているんですから。…まあ、これ見た時、一瞬だけ表情が固まってましたけどね。」
ルカは料理長にそう答え、リスティーナの好きな料理をメモした紙を渡した。
料理長はメモに目を通した。
「…見事に殿下の嫌いな物ばかりですね。」
「そもそも、殿下は野菜全般が苦手なので、野菜中心の料理となるとそうなるのは当たり前だと思いますけど。」
「本当に大丈夫なんですか?今までだって私が殿下の野菜嫌いを克服できるようなレシピを作っても殿下は全然食べてくれなかったのに…。」
そうなのだ。ルーファスは実はかなり偏食で野菜全般が苦手だった。そもそも、食事をするのが苦手なんじゃないかと思う程、ほとんど食事をしない。だから、あんな枯れ木のような身体をしているのだ。
「大丈夫ですよ。本人がそれでいいと言ってるんですから。それに、リスティーナ様の侍女の話だと、あの人、リスティーナ様の前だと野菜を食べているらしいですよ。」
「え!?嘘でしょう!?私達がどれだけ説得しても頑として食べなかったあの殿下が!?」
料理長はこれはチャンスだと思った。
「つまり、リスティーナ様を使えば、殿下の野菜嫌いを克服できるかもしれないってことですね!?」
「そういう事です。この際、リスティーナ様に協力してもらいましょう!で、じゃんじゃん野菜を食べて貰って殿下の野菜嫌いをなくすんです!主治医の先生も栄養と睡眠はしっかりとらないと治るものも治らないと言ってましたからね!」
「素晴らしいです!リスティーナ様に喜んで貰うのが第一ですが、殿下の野菜嫌いもこれで改善するのでしたらこんなに嬉しい事はありません!では、早速下ごしらえを…!」
料理長はそう言って、腕を捲った。
そんな二人のやり取りを兜を被った騎士の格好をした男が静観し、そのまま静かにその場を立ち去った。
「もう少し摘んでおこうかしら?リスティーナ様なら、この白い薔薇が似合いそうだわ。」
庭の薔薇を摘んでいるリリアナに騎士の男が近付いた。
「リリアナ。」
「わ!びっくりしたー。ロイドじゃない。相変わらず、あなたって気配がないのね。」
足音も気配もなく、突然、現れた男にリリアナは驚いて振り返った。ロイドと呼ばれた男はリリアナに言った。
「それは今日の晩餐会の…?」
「そうよ。リスティーナ様に似合うかなと思って…。あの方は赤い薔薇よりも淡い色が似合うかと思って。」
「殿下の新しい側室か。あの殿下が女性に心を許すとはな。その側室、本当に信用できるのか?」
「何て事を言うの!ロイド!リスティーナ様を悪く言うだなんて私が許さなくてよ!」
リリアナはロイドをキッ!と睨みつけた。
「その側室は元々、一国の王女だろう。殿下に近付いたのだって何か目的があるのではないのか?今までだってそんな女ばかりだったじゃないか。」
「あんな最低な人達と一緒にしないで!リスティーナ様はそんな方ではないわ!」
「何故、そこまで言い切れる。お前達、あまりにも警戒心がないんじゃないか?殿下に何かあったら…、」
「ロイド!あなたの殿下への忠誠心はよく分かっているわ。でも!リスティーナ様をよく知りもしないで決めつけないで頂戴!リスティーナ様はね…、殿下を見ても怯えないし、化け物を見るような目で見なかったわ。それどころか、殿下を一人の人間として尊重してくれた。殿下だけじゃない。私の事も…、蔑んだ目で見ることなく、私という存在を受け入れてくれたのよ。私が殿下の使用人でよかったと言って下さったの。そんな素晴らしい方を悪く言うなんて…!」
「煩いぞ。お前達。」
「殿下!?」
リリアナがロイドに詰め寄っていると、ルーファスが現れた。驚く二人にルーファスは近づくと、
「何をそんなに騒いでいる。」
「も、申し訳ありません。殿下。実は…、」
事の顛末をリリアナは白状した。
「成程。そういえば、ロイドはまだリスティーナと会ったことがなかったな。」
「俺は殿下のご命令には従います。ですが、あまり他人に心を許されるのは危険かと…。その王女だって、ローザ嬢のように裏で何を考えているのか分かったものでは…、」
「ロイド。口を慎め。」
低く、怒りを孕んだ声にロイドはビクッとした。こんなに怒っているルーファスを見るのは初めてだった。
「今後、二度とそのような事を口にするな。二度目はない。分かったな?」
「…申し訳ありません。以後、気を付けます。」
ロイドは深々と頭を垂れた。
「ロイド。お前が女を信用できないという気持ちは俺にも分かる。今までの俺の周りの女は全員、俺を欺き、裏切っていたからな。俺も以前はそうだった。女という理由だけで拒否し、遠ざけて、決して心を許そうとしなかった。だが…、今は違う。」
ロイドは顔を上げ、ルーファスを見つめた。
「彼女に出会ってから、それは間違いだったと気付かされた。お前がリスティーナを信用できないというのなら、それを咎めはしない。だが、彼女を傷つける真似は俺が許さない。これは、命令だ。いいな?」
「殿下のご命令とあらば…、従います。」
ロイドはルーファスの言葉に従った。だが、その心はまだモヤモヤとした感情が渦巻いていた。ルーファスはそれに気付いたのか、ロイドに提案をした。
「丁度いい機会だ。ロイド。迎えにはルカを遣わそうかと思っていたが、今回はお前にその役目を任せる事にする。」
「は?」
ロイドは突然の命令に虚を突かれたように声を上げた。
「お前がリスティーナを迎えに行くといい。」
「殿下。少しよろしいでしょうか?」
「すぐ行く。」
その時、ロジャーがルーファスを呼びにやってきた。ルーファスはロイドに背を向け、その場を立ち去った。
「爺。リスティーナの迎えはロイドに任せることにした。」
「ロイドに?…ああ。成程。承知しました。」
ロジャーは一瞬、怪訝な顔をしたがすぐに納得がいった様に頷いた。
「殿下もロイドの気持ちには気づいていたようですね。確かに私共が説明するより、リスティーナ様に直接お会いする方が話が早いでしょう。リスティーナ様の人柄を知れば、あのロイドも殿下の言った意味がよく分かる事でしょうし。」
「そうだといいがな。それより、爺。例の調査はどうなっている?」
「もう少し、時間がかかりそうです。早くて、数日中には報告書が届くかと。ああ。それと…、殿下から頼まれていた巫女の一族に関する文献や資料が先程、届いた所です。」
「そうか。分かった。」
「しかし、どうしてあのような物を?リスティーナ様について調査することに関してもですが、急に巫女について調べようとするだなんて…。あれ程、殿下は巫女に否定的でしたのに…。」
ルーファスはローザの一件もあって、巫女という存在に否定的だった。
ルーファスが巫女に詳しいのは全てローザから聞かされたものだった。だが、巫女の歴史や神聖力について全てを知っているわけではない。そもそも、巫女という存在自体が謎に包まれているのだ。
ルーファスはまだ知らないことが多すぎる。それに、確かめたいこともあった。
その為にも、一から巫女について調べていく必要がある。
「少し…、気になる事があってな。」
ルーファスはロジャーにそう答えると、部屋に戻った。
お湯に浸かりながら、昨夜の情事を思い出す。
前回は一回だけだったのに、昨日は三回もしてしまった。
一回で終わるかと思いきや、ルーファス様に「もう一回いいか?」と言われたら、断る事なんてできなかった。…でも、まさか三回もすることになるなんて思わなかった。
ルーファス様って見た目は穏やかで紳士なのに、夜はあんなに激しくなるんだ。
昨夜の彼の熱のある視線や吐息を思い出すだけで赤面してしまう。細く見えるけど、意外と逞しく、力もあるし…。
「ッ…!」
バシャ、と水音を立てて、リスティーナは自分の顔にお湯をかけた。
ふと、胸元に散らされた赤いキスマークに目を落とす。昨日、ルーファスに跡をつけたいと言われ、意味がよく分からないまま頷くと、胸元に吸い付かれ、チリッとした痛みがしたかと思ったら、彼が口づけた所に赤い跡が残った。それが鬱血跡であり、俗にいうキスマークだということを昨日、初めて知った。
リスティーナはまともな性教育を受けなかったし、男性は苦手だったことから男女の色恋にも疎いせいでそういった知識は基本的な事しか知らない。せいぜい、どうやったら、子供ができるのかという知識しか持ち合わせていなかった。ルーファスも本を読んでやり方を覚えただけで実践するのは初めてだと言っていた。初めてなのにキスマークをつけることに成功したのが嬉しいのかその後も執拗にキスマークをつけられてしまった。
それがまるで彼の物だという証そのもののような気がして、リスティーナもそれを受け入れた。
が、その後の事は全然考えていなかった。
「今日は、首元を隠せる服にしよう…。」
リスティーナはそう決意した。いざとなったら、スカーフで隠せばいい。
そう考えながら、風呂から上がった。
「リスティーナ様。今晩、ルーファス殿下から夕食のお誘いがきていますが…、どうしますか?」
「え!?ルーファス様から?」
リスティーナは刺繍をする手を止め、顔を上げた。
ルーファスからの誘いに胸が高鳴る。スザンヌにルーファスからのカードを渡された。
白地に金色の文字で書かれた美しいカード。
男性が書いたとは思えない程、繊細で綺麗な字だった。微かに睡蓮の香りがする。
ドレスと塗り薬を贈ってくれた時に添えられたカードと全く同じ字だ。わざわざカードまでくれるなんて…。ルーファス様の性格が表れている気がする。リスティーナは思わずフフッと口元が綻んだ。
断るという選択肢はそもそもなかった。
リスティーナの伝言を承ったスザンヌはその場を下がった。その後、なかなか帰ってこなかったスザンヌにどうしたのだろう?と思いながらもリスティーナは刺繍を続けた。
「ということで…、料理長。リスティーナ様は野菜や果物が好きみたいなので料理は野菜メインでお願いします。」
「お任せください!」
料理長はやる気に満ちた様子で頷いた。料理長といっても、厨房を任されているのはこの女料理長だけだ。以前は他にも料理人がいたが、皆ルーファスを恐れて辞めていく者が後を絶たず、残ったのがこの女料理人だけだった。今でも王宮から通いで手伝いに来てくれる料理人はいるが、実質厨房を取り仕切っているのはこの女料理長だ。料理人として、優秀であるにも関わらず、女という理由だけで馬鹿にされていた彼女の料理を認めてくれたのがルーファスだった。それ以来、料理長もルカ達と同様にルーファスに仕える数少ない使用人の一人だった。
「ですが、いいのですか?殿下は野菜が苦手なのに…。」
「いいんですよ。殿下がリスティーナ様好みの料理を作るようにと指示しているんですから。…まあ、これ見た時、一瞬だけ表情が固まってましたけどね。」
ルカは料理長にそう答え、リスティーナの好きな料理をメモした紙を渡した。
料理長はメモに目を通した。
「…見事に殿下の嫌いな物ばかりですね。」
「そもそも、殿下は野菜全般が苦手なので、野菜中心の料理となるとそうなるのは当たり前だと思いますけど。」
「本当に大丈夫なんですか?今までだって私が殿下の野菜嫌いを克服できるようなレシピを作っても殿下は全然食べてくれなかったのに…。」
そうなのだ。ルーファスは実はかなり偏食で野菜全般が苦手だった。そもそも、食事をするのが苦手なんじゃないかと思う程、ほとんど食事をしない。だから、あんな枯れ木のような身体をしているのだ。
「大丈夫ですよ。本人がそれでいいと言ってるんですから。それに、リスティーナ様の侍女の話だと、あの人、リスティーナ様の前だと野菜を食べているらしいですよ。」
「え!?嘘でしょう!?私達がどれだけ説得しても頑として食べなかったあの殿下が!?」
料理長はこれはチャンスだと思った。
「つまり、リスティーナ様を使えば、殿下の野菜嫌いを克服できるかもしれないってことですね!?」
「そういう事です。この際、リスティーナ様に協力してもらいましょう!で、じゃんじゃん野菜を食べて貰って殿下の野菜嫌いをなくすんです!主治医の先生も栄養と睡眠はしっかりとらないと治るものも治らないと言ってましたからね!」
「素晴らしいです!リスティーナ様に喜んで貰うのが第一ですが、殿下の野菜嫌いもこれで改善するのでしたらこんなに嬉しい事はありません!では、早速下ごしらえを…!」
料理長はそう言って、腕を捲った。
そんな二人のやり取りを兜を被った騎士の格好をした男が静観し、そのまま静かにその場を立ち去った。
「もう少し摘んでおこうかしら?リスティーナ様なら、この白い薔薇が似合いそうだわ。」
庭の薔薇を摘んでいるリリアナに騎士の男が近付いた。
「リリアナ。」
「わ!びっくりしたー。ロイドじゃない。相変わらず、あなたって気配がないのね。」
足音も気配もなく、突然、現れた男にリリアナは驚いて振り返った。ロイドと呼ばれた男はリリアナに言った。
「それは今日の晩餐会の…?」
「そうよ。リスティーナ様に似合うかなと思って…。あの方は赤い薔薇よりも淡い色が似合うかと思って。」
「殿下の新しい側室か。あの殿下が女性に心を許すとはな。その側室、本当に信用できるのか?」
「何て事を言うの!ロイド!リスティーナ様を悪く言うだなんて私が許さなくてよ!」
リリアナはロイドをキッ!と睨みつけた。
「その側室は元々、一国の王女だろう。殿下に近付いたのだって何か目的があるのではないのか?今までだってそんな女ばかりだったじゃないか。」
「あんな最低な人達と一緒にしないで!リスティーナ様はそんな方ではないわ!」
「何故、そこまで言い切れる。お前達、あまりにも警戒心がないんじゃないか?殿下に何かあったら…、」
「ロイド!あなたの殿下への忠誠心はよく分かっているわ。でも!リスティーナ様をよく知りもしないで決めつけないで頂戴!リスティーナ様はね…、殿下を見ても怯えないし、化け物を見るような目で見なかったわ。それどころか、殿下を一人の人間として尊重してくれた。殿下だけじゃない。私の事も…、蔑んだ目で見ることなく、私という存在を受け入れてくれたのよ。私が殿下の使用人でよかったと言って下さったの。そんな素晴らしい方を悪く言うなんて…!」
「煩いぞ。お前達。」
「殿下!?」
リリアナがロイドに詰め寄っていると、ルーファスが現れた。驚く二人にルーファスは近づくと、
「何をそんなに騒いでいる。」
「も、申し訳ありません。殿下。実は…、」
事の顛末をリリアナは白状した。
「成程。そういえば、ロイドはまだリスティーナと会ったことがなかったな。」
「俺は殿下のご命令には従います。ですが、あまり他人に心を許されるのは危険かと…。その王女だって、ローザ嬢のように裏で何を考えているのか分かったものでは…、」
「ロイド。口を慎め。」
低く、怒りを孕んだ声にロイドはビクッとした。こんなに怒っているルーファスを見るのは初めてだった。
「今後、二度とそのような事を口にするな。二度目はない。分かったな?」
「…申し訳ありません。以後、気を付けます。」
ロイドは深々と頭を垂れた。
「ロイド。お前が女を信用できないという気持ちは俺にも分かる。今までの俺の周りの女は全員、俺を欺き、裏切っていたからな。俺も以前はそうだった。女という理由だけで拒否し、遠ざけて、決して心を許そうとしなかった。だが…、今は違う。」
ロイドは顔を上げ、ルーファスを見つめた。
「彼女に出会ってから、それは間違いだったと気付かされた。お前がリスティーナを信用できないというのなら、それを咎めはしない。だが、彼女を傷つける真似は俺が許さない。これは、命令だ。いいな?」
「殿下のご命令とあらば…、従います。」
ロイドはルーファスの言葉に従った。だが、その心はまだモヤモヤとした感情が渦巻いていた。ルーファスはそれに気付いたのか、ロイドに提案をした。
「丁度いい機会だ。ロイド。迎えにはルカを遣わそうかと思っていたが、今回はお前にその役目を任せる事にする。」
「は?」
ロイドは突然の命令に虚を突かれたように声を上げた。
「お前がリスティーナを迎えに行くといい。」
「殿下。少しよろしいでしょうか?」
「すぐ行く。」
その時、ロジャーがルーファスを呼びにやってきた。ルーファスはロイドに背を向け、その場を立ち去った。
「爺。リスティーナの迎えはロイドに任せることにした。」
「ロイドに?…ああ。成程。承知しました。」
ロジャーは一瞬、怪訝な顔をしたがすぐに納得がいった様に頷いた。
「殿下もロイドの気持ちには気づいていたようですね。確かに私共が説明するより、リスティーナ様に直接お会いする方が話が早いでしょう。リスティーナ様の人柄を知れば、あのロイドも殿下の言った意味がよく分かる事でしょうし。」
「そうだといいがな。それより、爺。例の調査はどうなっている?」
「もう少し、時間がかかりそうです。早くて、数日中には報告書が届くかと。ああ。それと…、殿下から頼まれていた巫女の一族に関する文献や資料が先程、届いた所です。」
「そうか。分かった。」
「しかし、どうしてあのような物を?リスティーナ様について調査することに関してもですが、急に巫女について調べようとするだなんて…。あれ程、殿下は巫女に否定的でしたのに…。」
ルーファスはローザの一件もあって、巫女という存在に否定的だった。
ルーファスが巫女に詳しいのは全てローザから聞かされたものだった。だが、巫女の歴史や神聖力について全てを知っているわけではない。そもそも、巫女という存在自体が謎に包まれているのだ。
ルーファスはまだ知らないことが多すぎる。それに、確かめたいこともあった。
その為にも、一から巫女について調べていく必要がある。
「少し…、気になる事があってな。」
ルーファスはロジャーにそう答えると、部屋に戻った。
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