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第一章 出会い編
呪いの力
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食事を終えた後、リスティーナは先程の恥ずかしさもあり、彼の顔を見れなかった。ルーファスの命令で人払いをしたため、スザンヌもいなくなってしまい、室内には沈黙が流れる。
リスティーナは俯きながら、食後のお茶を飲んでいると、
「リスティーナ姫。俺は面倒な長話は好きではないから、早速本題に入らせてもらうが…、」
「は、はい!」
リスティーナは慌てて居住まいを正した。ドキドキと緊張しながら彼の答えを待つ。
「昨日の俺は…、明らかに様子がおかしかっただろう。…言い訳に聞こえるかもしれないがあれには理由があったんだ。君にはそれを知る権利がある。だが、俺は別に強制はしない。君が知りたいというのなら話すが、知りたくないのなら無理に聞く必要はない。君はどうしたい?」
それはずっとリスティーナも気になっていた事だった。リスティーナは思わず彼を見つめる。
わざわざ私の意思を確認してくれるなんて…。私を格下の存在として扱うでもなく、道具か物のように見るでもなくまるで一人の人間として尊重された気がして、胸がじんわりと熱くなった。
やっぱり、彼はとても優しくて、誠実な方だ。
「知りたいです。理由をお聞かせ下さい。」
「…分かった。」
ルーファスはゆっくりと頷いた。そして、話し始めた。
「俺が呪いにかかっているのは君も知っているだろうが…、俺の呪いの力がどんなものかは知っているか?」
「い、いえ…。その…、噂でしか聞いたことがないので実際の所はほとんど何も…。」
「まあ、そうだろうな。俺の呪いの力は周りの人間はほとんど知らない者が多い。当事者である俺ですら、よく分かっていないのだからな。ただ、一つだけいえることは、俺はこの呪いによって、特殊な能力が使えるということだ。」
「特殊な能力?」
「君もその目で見た筈だ。イグアスが俺を殴った時、何故か殴ったあいつが投げ飛ばされて池に落ちただろう。それから、池に沈んだイグアスが地面に掬い上げられた。あれは、俺が力を使ったからだ。」
「や、やっぱり、そうなのですか?何となく、そんな気はしていたのですが…、もしかして、あれは魔術を使って…?」
だけど、あの時、ルーファスは杖も魔道具も持っていなかった。魔術師は通常、杖や魔石や道具を使わないと術が発動できない。それに、詠唱もしていなかった筈…。
「あれが魔術かどうかは俺にも分からない。だが、俺のこの力は道具を使わなくてもできる。だから、あれは魔術ではなく、呪いによる力だと思う。まあ、あくまでも俺の考えだからそれが正しいとは限らないが。」
「呪いによる力…。」
確かにあんな強力な魔術は見たことがない。王宮の魔術師でも難しいかもしれない。それを彼は見事に一人でやってみせたのだ。杖も詠唱も使うことなく。
「す、凄いですね…。どんな仕組みかは分かりませんがあまりにも一瞬の事だったから私、びっくりしてしまいました。でも、その力のお蔭で殿下は怪我をせずにすんだのですね。」
こう言っては何だがイグアスは自業自得だ。先に手を出したのはあちらなのだから。
しかも、相手は実の兄で病み上がりにも関わらずだ。少し諫めただけで手を上げるだなんてどう考えてもあちらが悪い。
正直、リスティーナはイグアスが池に落ちたのを見て、少しだけ胸がスッとした。絶対にそんな事は口に出せないが。
「あ…、じゃあ、もしかして、あの黒い霧も…?」
リスティーナはハッと思い出した。リスティーナが彼に触ろうした時に強く拒絶をされたあの夜…、彼の手から黒い霧のようなものが放たれたことを…。
「ああ。そうだ。あれは、吸ったり、触れたりすると、気絶はするが身体に害はない。睡眠薬のようなものだ。」
確かにあの時、黒い霧に視界が覆われたと思ったら、目の前が真っ暗になり、気付けば意識を失っていた。そして、彼の言う通り、身体には何の変化もなかったので本当に一時的に気絶をしていただけだった。
「そんな事までできるのですか?本当に魔法みたいですね。」
「ただ、この呪いの力は欠点がある。俺が意識してもしていなくても勝手に起こるんだ。イグアスが俺を殴った時のように相手が敵意を持って俺に攻撃をするとその倍の力で相手に攻撃が跳ね返ってしまう。
反転返しの力、とでもいうべきか…。だから、不意打ちの攻撃でも俺は怪我をせずに仕掛けた相手が大怪我をするということが今まで何度もあった。」
攻撃を跳ね返す力…。そういえば、イグアスはあの時、ルーファスを殴ったと同時に勢いよく後ろに吹き飛び、池に落ちていた。まるで突風に吹き飛ばされたの様な勢いで。
ただ、跳ね返すだけの力なら、顔を殴られた衝撃で地面に倒れ込む程度ですんだ筈。
あそこまで吹き飛ばされて、池に落ちる程の威力はない筈だ。
けれど、ルーファスの力はただ攻撃を跳ね返すだけでなく、倍の力で攻撃を跳ね返してしまうのだという。それなら、イグアスがあれだけ派手な返り討ちに遭ったのも当然だ。
リスティーナはふと、彼の噂の一部を思い出した。
ルーファス王子の周囲の人間が突然死したり、大怪我をした人が大勢いるという黒い噂…。
まさか、あの噂の真相って…、
「あの…、殿下。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ。」
ルーファスは紅茶が入ったカップを手に取った。
「あの…、実は私…、殿下の噂の事で気になっていることがあるんです。殿下の周りでは次々と人が亡くなったり、大怪我をした人が大勢いると…。もしかして、それって…、殿下に危害を加えようとした人達なのではありませんか?」
カップに口をつけて紅茶を飲んでいたルーファスの指がピクリ、と震えた。
「…何故、そう思う?」
「今のお話を聞いたからです。噂では、殿下が彼らを呪ったのだと言われていますが本当は違うのではないかと思って…、」
ルーファスはカップを置くと、感情の読めない表情を浮かべ、冷ややかな声で言った。
「何を勘違いしているのか知らないが、その噂は間違っていない。俺はこの呪いの力でたくさんの人間を死に追いやってきた。…全て本当の事だ。」
そう言って、目を伏せる彼の表情は一瞬だけ苦し気に歪められていた。
ああ。まただ。また、あの苦しそうな表情…。知っている。私はこの表情を見たことがある。あの日の夜にも、そして、さっき侍女を追い払った時も…。同じ表情を浮かべていた。
リスティーナは確信した。
「例え、本当の事だったとしても…!それは殿下が望んだことではないのでしょう?
何か…、理由があったのではありませんか?」
「…理由?そんなものある訳がないだろう。第一、俺が望んだことではない等どうしてそう言い切れる?
俺の噂を知っているなら、俺がどんな人間か知っているだろう。他人を呪い殺しても平気な顔をしている血も涙もない残虐な男。俺を悪魔の様だと呼ぶ奴らもいる位だ。そんな男に今更何を…、」
「いいえ!殿下は理由もなく、人を殺すような方ではありません!」
リスティーナは強く、きっぱりと彼の言葉を否定した。ルーファスは目を見開いた。
「殿下は残虐な方でもないし、悪魔のような人でもありません!むしろ、その逆です!
私は…、殿下程、優しい方に出会ったことはありません。殿下は自分が傷ついていても、相手を気遣うことができる方です。そんなあなたが…、理由もなく、人を傷つける筈がありません。だから、私は…、あの噂には何か理由があったのではないかと思ったのです。」
リスティーナはルーファスの目を逸らさずに真っ直ぐに見つめた。
「殿下…。私に本当の事を話しては下さいませんか?私…、本当の事が知りたいのです。」
知りたい。もっと、彼の事が知りたい。何を考えているのか。何があったのか…。
それは、リスティーナが初めてといっていい程に抱いた貪欲な願い…。ここまで、強く何かを求めたのは初めての事だった。
ルーファスは暫くリスティーナから目を離さずに黙ったままだった。が、やがて、重たい口をゆっくりと開いた。
「仮に理由があったとしても…、それを知った所で何になる。俺が人を殺したのは変わらない事実だ。」
「それでも、私は知りたいのです。」
あなたのことを…。それは心の中で思った事で口に出すことはなかった。
ルーファスは一瞬、考え込むように黙り込んだがやがて、ぽつりと話し出した。
リスティーナは俯きながら、食後のお茶を飲んでいると、
「リスティーナ姫。俺は面倒な長話は好きではないから、早速本題に入らせてもらうが…、」
「は、はい!」
リスティーナは慌てて居住まいを正した。ドキドキと緊張しながら彼の答えを待つ。
「昨日の俺は…、明らかに様子がおかしかっただろう。…言い訳に聞こえるかもしれないがあれには理由があったんだ。君にはそれを知る権利がある。だが、俺は別に強制はしない。君が知りたいというのなら話すが、知りたくないのなら無理に聞く必要はない。君はどうしたい?」
それはずっとリスティーナも気になっていた事だった。リスティーナは思わず彼を見つめる。
わざわざ私の意思を確認してくれるなんて…。私を格下の存在として扱うでもなく、道具か物のように見るでもなくまるで一人の人間として尊重された気がして、胸がじんわりと熱くなった。
やっぱり、彼はとても優しくて、誠実な方だ。
「知りたいです。理由をお聞かせ下さい。」
「…分かった。」
ルーファスはゆっくりと頷いた。そして、話し始めた。
「俺が呪いにかかっているのは君も知っているだろうが…、俺の呪いの力がどんなものかは知っているか?」
「い、いえ…。その…、噂でしか聞いたことがないので実際の所はほとんど何も…。」
「まあ、そうだろうな。俺の呪いの力は周りの人間はほとんど知らない者が多い。当事者である俺ですら、よく分かっていないのだからな。ただ、一つだけいえることは、俺はこの呪いによって、特殊な能力が使えるということだ。」
「特殊な能力?」
「君もその目で見た筈だ。イグアスが俺を殴った時、何故か殴ったあいつが投げ飛ばされて池に落ちただろう。それから、池に沈んだイグアスが地面に掬い上げられた。あれは、俺が力を使ったからだ。」
「や、やっぱり、そうなのですか?何となく、そんな気はしていたのですが…、もしかして、あれは魔術を使って…?」
だけど、あの時、ルーファスは杖も魔道具も持っていなかった。魔術師は通常、杖や魔石や道具を使わないと術が発動できない。それに、詠唱もしていなかった筈…。
「あれが魔術かどうかは俺にも分からない。だが、俺のこの力は道具を使わなくてもできる。だから、あれは魔術ではなく、呪いによる力だと思う。まあ、あくまでも俺の考えだからそれが正しいとは限らないが。」
「呪いによる力…。」
確かにあんな強力な魔術は見たことがない。王宮の魔術師でも難しいかもしれない。それを彼は見事に一人でやってみせたのだ。杖も詠唱も使うことなく。
「す、凄いですね…。どんな仕組みかは分かりませんがあまりにも一瞬の事だったから私、びっくりしてしまいました。でも、その力のお蔭で殿下は怪我をせずにすんだのですね。」
こう言っては何だがイグアスは自業自得だ。先に手を出したのはあちらなのだから。
しかも、相手は実の兄で病み上がりにも関わらずだ。少し諫めただけで手を上げるだなんてどう考えてもあちらが悪い。
正直、リスティーナはイグアスが池に落ちたのを見て、少しだけ胸がスッとした。絶対にそんな事は口に出せないが。
「あ…、じゃあ、もしかして、あの黒い霧も…?」
リスティーナはハッと思い出した。リスティーナが彼に触ろうした時に強く拒絶をされたあの夜…、彼の手から黒い霧のようなものが放たれたことを…。
「ああ。そうだ。あれは、吸ったり、触れたりすると、気絶はするが身体に害はない。睡眠薬のようなものだ。」
確かにあの時、黒い霧に視界が覆われたと思ったら、目の前が真っ暗になり、気付けば意識を失っていた。そして、彼の言う通り、身体には何の変化もなかったので本当に一時的に気絶をしていただけだった。
「そんな事までできるのですか?本当に魔法みたいですね。」
「ただ、この呪いの力は欠点がある。俺が意識してもしていなくても勝手に起こるんだ。イグアスが俺を殴った時のように相手が敵意を持って俺に攻撃をするとその倍の力で相手に攻撃が跳ね返ってしまう。
反転返しの力、とでもいうべきか…。だから、不意打ちの攻撃でも俺は怪我をせずに仕掛けた相手が大怪我をするということが今まで何度もあった。」
攻撃を跳ね返す力…。そういえば、イグアスはあの時、ルーファスを殴ったと同時に勢いよく後ろに吹き飛び、池に落ちていた。まるで突風に吹き飛ばされたの様な勢いで。
ただ、跳ね返すだけの力なら、顔を殴られた衝撃で地面に倒れ込む程度ですんだ筈。
あそこまで吹き飛ばされて、池に落ちる程の威力はない筈だ。
けれど、ルーファスの力はただ攻撃を跳ね返すだけでなく、倍の力で攻撃を跳ね返してしまうのだという。それなら、イグアスがあれだけ派手な返り討ちに遭ったのも当然だ。
リスティーナはふと、彼の噂の一部を思い出した。
ルーファス王子の周囲の人間が突然死したり、大怪我をした人が大勢いるという黒い噂…。
まさか、あの噂の真相って…、
「あの…、殿下。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ。」
ルーファスは紅茶が入ったカップを手に取った。
「あの…、実は私…、殿下の噂の事で気になっていることがあるんです。殿下の周りでは次々と人が亡くなったり、大怪我をした人が大勢いると…。もしかして、それって…、殿下に危害を加えようとした人達なのではありませんか?」
カップに口をつけて紅茶を飲んでいたルーファスの指がピクリ、と震えた。
「…何故、そう思う?」
「今のお話を聞いたからです。噂では、殿下が彼らを呪ったのだと言われていますが本当は違うのではないかと思って…、」
ルーファスはカップを置くと、感情の読めない表情を浮かべ、冷ややかな声で言った。
「何を勘違いしているのか知らないが、その噂は間違っていない。俺はこの呪いの力でたくさんの人間を死に追いやってきた。…全て本当の事だ。」
そう言って、目を伏せる彼の表情は一瞬だけ苦し気に歪められていた。
ああ。まただ。また、あの苦しそうな表情…。知っている。私はこの表情を見たことがある。あの日の夜にも、そして、さっき侍女を追い払った時も…。同じ表情を浮かべていた。
リスティーナは確信した。
「例え、本当の事だったとしても…!それは殿下が望んだことではないのでしょう?
何か…、理由があったのではありませんか?」
「…理由?そんなものある訳がないだろう。第一、俺が望んだことではない等どうしてそう言い切れる?
俺の噂を知っているなら、俺がどんな人間か知っているだろう。他人を呪い殺しても平気な顔をしている血も涙もない残虐な男。俺を悪魔の様だと呼ぶ奴らもいる位だ。そんな男に今更何を…、」
「いいえ!殿下は理由もなく、人を殺すような方ではありません!」
リスティーナは強く、きっぱりと彼の言葉を否定した。ルーファスは目を見開いた。
「殿下は残虐な方でもないし、悪魔のような人でもありません!むしろ、その逆です!
私は…、殿下程、優しい方に出会ったことはありません。殿下は自分が傷ついていても、相手を気遣うことができる方です。そんなあなたが…、理由もなく、人を傷つける筈がありません。だから、私は…、あの噂には何か理由があったのではないかと思ったのです。」
リスティーナはルーファスの目を逸らさずに真っ直ぐに見つめた。
「殿下…。私に本当の事を話しては下さいませんか?私…、本当の事が知りたいのです。」
知りたい。もっと、彼の事が知りたい。何を考えているのか。何があったのか…。
それは、リスティーナが初めてといっていい程に抱いた貪欲な願い…。ここまで、強く何かを求めたのは初めての事だった。
ルーファスは暫くリスティーナから目を離さずに黙ったままだった。が、やがて、重たい口をゆっくりと開いた。
「仮に理由があったとしても…、それを知った所で何になる。俺が人を殺したのは変わらない事実だ。」
「それでも、私は知りたいのです。」
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