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第一章 出会い編

否定

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部屋に戻ったリスティーナの姿にスザンヌや他の侍女達は悲鳴を上げた。
スザンヌ以外の侍女達はルーファスの姿に顔を引き攣らせて後退った。
スザンヌは姫様!と叫んで泣きそうな表情でリスティーナに駆け寄ろうとした。

「ど、どうなさったのですか!?その格好は!……ヒッ!?る、ルーファス殿下!?」

スザンヌは初め、リスティーナしか目に入っていなかったがリスティーナを抱いている人物がルーファスであることに気付くとピタッと立ち止まり、あからさまに顔を引き攣らせた。
リスティーナは事情を説明しようと口を開きかけるが、それより早くにルーファスが部屋の隅で怯えている侍女達に声を掛けた。

「すぐに湯浴みの準備をしろ。」

「は、はい!」

侍女達はガタガタと身を震わせながら、真っ青な顔で入浴の準備に取り掛かった。

「リスティーナ姫。君に話したいことがある。落ち着いてからで構わないから、少しだけ時間をくれないか?」

「は、はい!勿論です!」

リスティーナはルーファスの言葉にコクコクと頷いた。

「まずは、入浴と着替えが先だ。…彼女は足腰を痛めている。扱いには気を付けろ。」

ルーファスはそう言って、一番近くにいたスザンヌにリスティーナを託した。
スザンヌはバッとリスティーナを奪い返すようにしてルーファスから引き離した。

「スザンヌ…?」

「さ、さあ。姫様。こちらです。」

そんなスザンヌの行動に首を傾げるリスティーナだったが、スザンヌは顔を青褪め、引き攣った笑みを浮かべながらリスティーナの背を押した。

「わ、私がリスティーナ様のお世話をします!あ、あなた達はここで待っていて頂戴!」

「いえ!あ、あたしがリスティーナ様の背中を流します!」

「なっ!?ず、ずるいですよ!一人だけ逃げるなんてそうはさせません!……じゃなくて!やっぱり、ここは一番下っ端のあたしがリスティーナ様のお世話をするべきで…!」

リスティーナが浴室に向かうと、部屋にいたリスティーナ専属の侍女達が言い争いを始めた。
こんな事は初めてでリスティーナは呆気にとられた。
女官長からリスティーナの世話係として紹介された侍女はこの三人だった。
彼女達はさすが後宮に仕える侍女であるだけあって、仕事は丁寧で早かった。
メイネシア国の侍女達と違って、リスティーナを軽んじたり、馬鹿にしたり、見下した目を向けることもない。

ただ、彼女達はいつも事務的な態度で淡々としていたので、どこかよそよそしさがあった。
彼女達の仕事に不満はない。ただ、リスティーナはそんな彼女達に距離感を感じてしまい、心を許せるのはスザンヌしかいなかった。
態度はよそよそしくてもいつも冷静で動じる様子もなく、仕事の役割もしっかりしてそつなくこなしていた侍女達がこんな風に取り乱すなんて初めてだ。今まで仕事を押し付け合ったり、取り合ったりすることは一度もなかったのに…。
侍女達の態度にリスティーナが不思議そうにしていると、

「…お前達はここに残れ。彼女の事はその侍女に任せる。」

ルーファスが三人の侍女にその場に残るように命令し、スザンヌを指差した。
ルーファスの言葉に絶望したかのように項垂れる侍女達の様子が気になりながらもリスティーナはスザンヌに手を引かれてそのまま浴室に入って行った。



「ひ、姫様…。そ、そのお姿は…、やっぱり…、」

スザンヌはリスティーナの身体を洗う際にその身体に残された情事の跡を目にして、愕然とした表情を浮かべた。
リスティーナの裸を見れば、何があったのかは一目瞭然だ。

「ま、まさか…、あの王子、姫様を無理矢理手籠めにして…?」

そうぼそり、と呟いたかと思うと、スザンヌは堪えきれないとでもいいたげに怒りを顕わにして叫んだ。

「し、信じられませんわ!あの、ケダモノ王子!い、幾ら姫様がお美しいからといって、こんなのあんまりです!」

「す、スザンヌ!」

リスティーナはそんなスザンヌに焦った。誤解だとか、ルーファスに対してケダモノと呼ぶ等失礼だとか色々と言いたいことはあるのにそれを言うより早くにスザンヌが唐突にボロッと泣き出した。

「初夜の日にあれだけ姫様を虚仮にしておきながら、やることだけはやるだなんて…!
何て野蛮で身勝手な男なんでしょう!あんまりですわ!
この国の王子とはいえ、こんな無体な真似をなさるなんて酷すぎます!
うっ…、うっ…!どうして、姫様ばかりがこんな目に…!それも全部、あの屑な国王と性悪なレノア様のせいです!姫様程の美貌なら、もっとふさわしい方がいらっしゃるのに…!なのに、あんな呪われた醜い王子などにこんな辱めを受けるなんて…!」

「…めて。スザンヌ。」

「これだから、王族の人間は信用ならないのです!ルーファス殿下もあの国王と同じ碌でもない男で…、」

「違う!殿下はそんな方ではないわ!あの方がお父様と同じな訳ない!」

スザンヌの言葉にリスティーナは思わず声を荒げて強く否定した。
いつも大人しく、控えめで自己主張のしないリスティーナがこんなに大きな声を出すことはほとんどない。スザンヌはそんなリスティーナに驚いて、涙が止まった。

「殿下はお優しい方よ…。それに、あの方は醜くなんてない。」

スザンヌは唖然として口を半開きにして固まった。

「ひ、姫様…。も、もしかして、ショックのあまり、正気を失って…?」

「いいえ!違うわ。私は正気よ。それに…、私は確かに昨晩、殿下と…、その…、そういう事をしたわ。怖かったし、とても痛かったけど…、私…、嫌ではなかったの…。」

「は、はいい!?しょ、正気ですか!?姫さ、ま…?」

スザンヌは驚きすぎて、リスティーナに再度、問い返したが、その時のリスティーナの頬が赤らんだ表情を見て、それ以上は何も言えなかった。あんぐりと口を開けてこちらを見つめるスザンヌに微笑んで、リスティーナはスザンヌの手を取ると、

「スザンヌ。あなたが私を心配して、こうして、私の為に怒ってくれるのはとても嬉しいわ。
でも…、殿下はあなたが思っている様な人じゃない。だから…、もう殿下の事をそんな風に言わないで。」

「姫様…。」

スザンヌはそんなリスティーナにそれ以上は何も言わなかった。
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