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#79話 太陽がいっぱい 2

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 それは周りにいる他の部員にもよく聞こえるような大きな声だった。

「とにかくこっちへ来い!」




「ど…どうしよう稲垣くん…」
笹森杏果が慌てて声をかけてきた。
瀬戸先輩を予想以上に怒らせてしまったからだ。

先輩が、ナンパに来た男たちを咎めなかった部長を責めた時、自分が無理にお願いをしたのだと笹森は執り成したが、
「これは俺たち3年が考える事だ。お前たちは遠慮しろ」
初めて見た先輩の怒りに満ちた表情に圧倒されて僕たちはその場から離れた。

「お前が変なこと考えるからだろ…」
稲垣撫菜は困った顔をしながら頭をポリポリ掻いている。
「稲垣くんだって賛成したじゃん!あの二人最近おかしいからこの合宿でなんとかよりを戻してもらおうって!」
「よりを戻すって…まだ別れた訳じゃないだろ」
「あの二人見てたら時間の問題だよ!傍にいたいのが見てて丸わかりなのに…お互いに相手を避けてるじゃない…」

確かに、あの二人のことは僕も気になっていた。
だから笹森から今回の提案があった時賛成した。
必ず同じ時間、海にいる時仕掛けるたかったから、
あの変な時間割りも敢えて持ちかけたんだ。

「まさかあんなに怒るなんてなあ…」
真っ赤な顔して凄い形相だった…
パラソルの下で話してる二人を見ながら僕は笹森に訊いた。

「なんで部長に
あんな水着を着せたんだ?」
いきなり的外れな質問をされたと思ったのか、笹森が不思議そうな顔をする。

「だって部長によく似合ってたし、あれくらい肌が見えてる方が瀬戸先輩も部長に欲情するかと思って」
「よ…欲情って!」
突然何を言い出すのかと焦った。

「大事なことでしょ?いきなり襲うのも勘弁だけど、そう思ってもらえないのは興味ないからでしょ?」
「いや…それは…」
女の子の笹森に、どう答えていいのか僕は言葉に詰まった。
困ってパラソルの様子を見て僕は慌てて走った。



「どう云う事か説明しろ」
「ご…ごめんなさい…」
真古都は俺が被せたバスタオルにくるまって声を震わせている。
「お前は部長だろう。笹森が無理を言ってもそれを止めるのがお前の役目だ」
「はい…」
掠れそうな声が返ってくる。
「今回は何もないと思うがウチの女子に何かあったらどうするんだ!」
「…は…い…」


俺は胃の辺りに溜まったどうしようもない怒りを捲し立てた。
自分の怒りの原因がそんな事じゃないのはわかってる。
あんな…申し訳程度にしか隠されてない姿で他の男と一緒にいたから…
俺は…なんて狭量な男なんだ!


「そんな格好…」
よこしまな気持ちがつい口から出た…


「…っ……」
詰まらせた声が聞こえたかと思ったら、真古都が立ち上がった。
「ご…ごめんなさい…
に…似合いもしないのに…水着なんて…
みっともないとこ見せて…
ホントに…ごめんなさい…
だけど…あの…」
真古都はそのまま合宿所の方へ走って行った…


「先輩!」
後ろを向くと、息を切らせて走ってきた稲垣がいた。

「何してるんですか!早く追いかけて!」
俺は一瞬稲垣が言ってる事に戸惑った。

「今、部長泣いてましたよね!どんなに厭な事があっても僕たちの前じゃ絶対泣いたことないんですよ!」
稲垣が凄い剣幕ではなしている。
「ここは僕たちがいますから、早く部長追いかけて下さい!あの涙は泣かせた先輩にしか止められないの判ってるでしょう!」
脳天が割れるほど殴られたような衝撃だった。

「…悪いっ」

そのことばと同時に俺は走り出した。
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