上 下
67 / 100

#67話 真古都の意外な過去

しおりを挟む
 「ドライバーの城之内じょうのうちさん。
一緒に組んで作業するから、仕事は彼から教わってね。」
真古都の母親から、一緒に仕事をする先輩を紹介された。
「瀬戸翔吾です。よろしくお願いします」
俺は瀬戸に頭を下げて挨拶する。

「いやぁ、真古ちゃんの友達だって?
こっちこそ助かるよ。バイトに逃げられて困ってたんだ」
一緒に組む先輩は人当たりの良さそうな人だった。

車の中で、城之内さんから仕事の手順を教わる。
レンタルの観葉植物を交換する時は、大きくて重いので特に注意するように言われる。
実際にやってみると、大きな鉢物だけでなく、小さなポット苗も数が多いとそれなりに大変だった。
『結構肉体労働だな』

「お疲れ、初日から大物ばかりで大変だったろう?大丈夫か?」
店に帰る車の中で城之内さんが訊いて来た。

「思ってたより力仕事でしたけど大丈夫です。
やれます」
俺は先輩に伝えた。

「真古ちゃんと同じ美術部だって訊いたから勤まるか心配してたんだが、お前さんなら大丈夫そうだ!明日からも頼むな」
「はい!」
俺は役に立ててるようで安心した。
使い物にならないなんて言われたら、真古都に会わせる顔がない…

「そういやぁ友達だって訊いてたけど、お前さん真古ちゃんの彼氏か?」
突然の質問で、一気に心臓が跳ね上がる。

「えっ?」
なんて答えたらいいんだ?
「なんだ、違ったか」
「いえっ!違いません!」
ここはしっかり肯定しとかないと!
一人でも多く俺が彼氏だと認知してもらっていて損はない。

「やっぱりそうか。真古ちゃんの様子からそんな感じがしたんだ。男嫌いのあの子がやたらお前さんを心配してたからな」
俺は顔から火が出る思いだった。

「前はダメだったけど、今回は彼氏だからな俺も安心したよ」
……前?

「あ…あの前って」
俺はどうしても気になって訊いてみた。
「悪い!失言だった」
城之内さんはつい口を滑らせた事を気にしてる。

「大丈夫です!ただどうしても気になるので、差支えなければ相手が誰か教えてもらえませんか?」
暫く黙って考え込んでいた城之内さんが、俺があまりに必死で頼むのでやっと口を開いてくれた。

「小さい頃から、花とか、植物が好きでウチによく通って来る男の子がいたんだよ…」

城之内さんの話しによれば、その男の子は真古都より二つほど年上で、多分それが初恋なんじゃないかと言っていた。

ところが、小学校に入って朝顔の種蒔きの時、平気でミミズを掴める真古都を、クラスの男子が何人かで酷く嘲笑して苛めたらしい。
あまり苛めが辛くて暫く学校に行けない程だったという。

真古都の男嫌いも、それが発端じゃないかとも言っていた。
仲の良かったその男の子ともそれが原因で距離をおくようになったそうだ…

『二つ上の男子…』
俺はその相手に、一人だけ心当たりがあった…

「もしかして…そいつ、天宮神ていいませんか?」
俺はまさかと思いながらも訊いてみた。
「なんだ、知ってたのか」
城之内さんは少し安心した顔になった。

やっぱり…
何となくそんな感じはあった。
真古都もあのクズを初恋だと言ってたから、
自分でも気づいて無かったんだろう…
去年の夏、天宮先輩が告白の相手を夏祭りに誘うのを、妙に羨ましそうに話していた顔を思い出す。

俺は心のどこかで安堵していた。
あの人が相手では、
俺は敵わないかもしれなかった…

「お帰りなさい」
真古都が心配そうな顔をして待っていた。
その顔を見たら、慣れないバイトでの疲れなんてどうでもよくなった。


そうだ、今は俺がコイツの彼氏だ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...