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#39 起死回生の一手

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 変な噂はどう云う訳だか、あっと云う間に広がるみたいだ。

「霧嶋くんが告白したけど振られたらしい」
「霧嶋が保健室に女を連れ込んで迫ってたみたいだ」

色々言われてるが、当の本人は相変わらず真古都の周りをベタベタと、金魚のフンみたいに張り付いている。

『そうか…ダメだったのか…』

真古都の、男への不信感は可成り強い…
霧嶋に先を越された焦りと、
霧嶋がダメでどこか安堵する気持ち…
それでも、結局のところダメな理由はやっぱりそこなのかと思うと…

『ダメだ!益々うまくいく気がしない!』



「ねぇ真古都さん、今度のお休みどっか行こう?」
「他の人と行ってくれば?」
「真古都さんと行きたい!」

霧嶋のヤツは開き直ったのか、真古都への態度を隠そうともせず、人前であろうが気にせず抱きついている。

あの前向きさは買ってやるが、あんなものを始終見せつけられてる俺は不愉快だ!

「もう、いい加減にしろよ霧嶋。真古都が困ってるだろっ」
俺は二人の間に割って入った。
「真古都、部長が呼んでたぞ、行ってこい」
「えーっ!何だろう、ありがとう」
霧嶋と引き離したくて部長の所へ行かせた。

「あれ?先輩一年の可愛い女の子に告白されて、付き合うことにしたんじゃないんですか?」
なんだ?
どうしてコイツがそんな事知ってるんだ?
「彼女、気に入った人が出来たから、告白するって触れ回ってましたよ。一年の中でも可成り美人だし、自信満々だったからてっきりそうなると思ってたのに」
霧嶋があからさまに残念そうな顔をした。

「いくら可愛かろうが、好きでもないヤツと付き合う程俺は無責任じゃないんで、彼女には丁寧に断わったよ」
「チッ!」
霧嶋が舌打ちする。

「大体、どう云うつもりなんです⁉
先輩だからって、ヒトの恋愛を邪魔しないでくださいよ!
僕は先輩とは違うんです!
傷が癒えるのを待つより
僕が彼女の傷を癒したい‼
それになんです!
真古都さんの名前呼び捨てにして‼」

霧嶋が捲し立てて文句を言ってくる。

「うーん…その事なんだけど
何もしないでお前に取られるのは
癪に障るからな。
俺は俺のやり方でいくよ」
俺は霧嶋に言った。
「それに、付き合いが長い分
俺の方は彼女からの信頼度は高いし」

「何ですかそれ…
いいですよ!だからって、
僕だって譲る気はありませんから!
先輩だからって絶対渡しませんよ!」

「悪いな…俺も同じ台詞をお前に返すわ」

今度は俺が霧嶋に宣戦布告をした!



「えっと、ホットケーキのケーキセット。
紅茶で、キーマンのストレート」
「じゃあ、それ二つね」
コイツは紅茶が好きだ。
いつも幸せそうな顔で飲んでる。
俺はその顔を見るのが好きだし、
ずっとそんな顔をさせてやりたいと思う…

「霧嶋、随分お前に懐いてるみたいだが、気をつけないと噂の的になるぞ」
俺は遠回しにくっつくなと言った。
「うん、でもきっと今だけだよ。
あれだけモテるんだから、そのうち可愛い彼女さんが出来るって…
男の子なんてそんなもんでしょ」

“男の子なんてそんなもん”
真古都はほんきでそう思っている。
「わたしも付き合えない理由、ちゃんと言ってあるし、可愛い女の子の方がいいに決まってるもの」
『俺にはお前だって可愛いよ!』

男がそんなヤツばかりじゃないと、
真古都を信じさせる事が出来るなら
俺は…きっと何でもするだろうな…



「ねぇ、聞いて聞いて!」
クラスの女子が、教室へ入って来るなり他の女子を集めて騒いでいる。
「今さ、裏庭通ったら霧嶋くんが女の子とキスしてるんだよ!」
「えーっ!この間振られたばっかりなのに?」
「相手誰なんだろう?」
「やっぱり手が早いのかな?」
「霧嶋くんとのキスなら、わたしもされたいなぁ~」


『霧嶋のヤツっ!』


俺は慌てて真古都の元に向かった。
霧嶋が真古都を頰へ、事あるごとにキスをしているのは知っていた。
その度に俺は腸が煮えくり返る思いだった!
真古都は付き合うつもりはないと言っていたが、女に長けた霧嶋の事だ何も知らない真古都を、上手く言いくるめるのは時間の問題だ!

それよりも、こんな事が続けば必ず相手が真古都だとしれ渡る…


「おいっ真古都!」
俺は真古都を近くにあった準備室にいれた。


「どう云う事だ?
裏庭でお前らがキスしてたと、クラスの女子が騒いでたが、そんなに学校中の噂になりたいのか‼」


俺は真古都を壁際に追いやり詰め寄った。
「えっ…えっ⁉……」
真古都はこんな大事になるとは思ってなかったのだろう、酷く困惑している。


「付き合う気が無いのなら、霧嶋と一緒にいる時は気をつけろ!直ぐに噂の的になるぞ」
俺は自分の顔を彼女の顔に近づけて言った。
「ごめんなさい…わたしが軽率だった…」


真古都の腕を握っている手に力がこもる。


その時
準備室のドアが開く音がした。


誰か来る!


「たしか準備室ここにあった筈なんだよ」
「この辺だっけ?」


パーティションの向こう側で、何か捜している女子の話し声がする。


俺は…覚悟を決めた!


掴んでいた腕を引き寄せ、
真古都を自分の胸の中へ強く抱き締めた。


《真古都、俺に話を合わせろ》
俺は真古都の耳元で彼女だけに聞こえる声で話しかけた。
《えっ?》
《いいから!》


「真古都、好きだ」
《早く合わせて!》
「わ…わたしも瀬戸くんが好き…」
「もう我慢出来ない、お前の全てを俺にくれ」
「瀬戸くん…う…嬉しい」


「やだぁ!あれって美術部の二年だよね?」
「去年の文化祭でベストカップルとかって、校内新聞に載ってた人だ」
「やっぱりあの二人付き合ってたんだよ!」
「告白現場見たの初めて!」

女の子たちはあたふたしながら、準備室を出て行った。


『上手くいった…』


「せっ…瀬戸くん…ど…どうしよう…」
状況が上手く飲み込めず、俺に抱かれながら不安気にしているコイツが物凄く可愛かった。


「俗に云う、交際発覚ってやつだな…」
「????」


「まぁ、当分お前、
俺の彼女ってことだ…よろしくな」
「えっ?えっ?」


真古都は、まだ頭がついてこない様子だ。


「霧嶋のこともあるし、暫くはちょうどいいだろうそれとも何?
俺が彼氏じゃ役不足なのか?」
「そっ…そんな事ないです‼」
「だったらもっと嬉しそうな顔しろよ」
真古都は顔を真っ赤にしながら頷いている。


真古都を騙してるみたいで少し気はひけたが、こうして俺たちは〔恋人〕と云う関係になった。



    
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