上 下
4 / 100

#4 一年A組、瀬戸翔吾 その1

しおりを挟む
 今日は部活初日から、一週間顔を出さなかった部室へ向かってる。
当然、鞄の中には退部届けが入っている。
『一週間もありゃあ、あいつの方もとっくに退部届けを出してるだろう』
一週間退部届けを出さなかったのは、俺がもし先に出してしまうと、一緒に入ったもう一人のやつが、出しにくいと思ったからだ。
たった二人の同期だ、それ位気を使ってやっても良いと思った。

「失礼します」と声をかけてドアを開けると誰もいなかった。
それどころか、前回来た時より部屋が小綺麗になっている。
『なんだやればできるじゃん』
部屋の中を見渡していると、隣の美術室が開いて誰かやってくる。
「瀬戸くんっ!」
二年の先輩だった。

「良かった、今日は来てくれたんだ」
「あ…でも…」
口籠る俺に、先輩は直ぐ察したらしかった。
「判ってるよ。君も辞めるんだろう?仕方ないさ、先輩達があんな感じだからね、見限るのも当然だ…だからせめて彼女も説得してくれないか?」
察しの良い先輩で助かったと、鞄の中から退部届けを出そうとした手が止まった。

「……?……」
俺、何か聞き間違えた?
先輩、今彼女って言ったよな?

俺は、何と質問して良いのか困って言いあぐねていると、先輩は少し申し訳ない顔で話してくれる。
「君と一緒に入ってくれた三ツ木くんなんだけどね、彼女あれから毎日来てくれるんだよ」
「えっ!?あいつ来てるんですか?」
俺は思ってもみなかった事に驚いて、つい素っ頓狂な声を出してしまった。

「ああ、本来ならね、彼女みたいに掃除や雑用を率先してやってくれる子は有難いんだけど…」
先輩の話によれば、あれから彼女は部活のある日は毎日来て、細々とした雑用をしたり、掃除をしたりと、色々働いてくれているらしい。

「君も気付いたでしょ?ここは美術部なんて名ばかりで、素行の悪い先輩達の溜まり場なんだよ。実際に描いてるのは二年の僕らだけで、先輩達は部費で散財してるんだ」
二年の先輩は悔しそうに話してくれた。
来年三年生が卒業したら、今二年生の三人しかいなくなる。仮に新入部員が入らず同好会になっても止めたくないので、今はこの不条理な状況を甘んじて受け入れているのだそうだ。

「ウチの部、三年以外女子がいないだろ?新しい子が入って来ると片っ端から退屈紛れに先輩達が手を出すんだよ」
先輩の言葉に耳を疑った。
「手を…出す?」
「うん、あそんで、飽きたら捨てるで…今までいた女子のうち、手を付けられていない子なんていないと思う」
俺は呆れて何も言えなかった。
真面じゃないだろうとは思ってたが、そこまでクズだったなんて!
「そうなるって判ってたのに黙って見てたんですか!?」
俺は思わず声を荒げて、先輩に詰め寄ってしまった。その勢いでビックリした先輩が後退りする。

「あ…すいません」
俺は慌てて謝った。
「いや、いいよ、君の言う通りだ。でも僕たちだって黙って傍観していた訳じゃない。彼女達には何度も忠告したんだ。でも、訊いてもらえなかったんだよ」
確かに、女の子にすれば付き合っている彼氏を悪く言われればいい気はしない。
寧ろ自分達の仲を引き裂くと云う刺激が恋愛熱に拍車をかけ、意地でも別れようとしなくなる。目の前の恋愛がこの世の全てであるかの様に、のめり込み相手の男子に傾倒する。
全ての夢が覚めるのは、大概悲惨な現実がその身に起きた時だ。
両思いだと信じていた相手から、突然飽きたと云う理由で自分達の関係はお仕舞いだと告げられる。

恋愛熱に浮かされていた女の子にとっては、まさに青天の霹靂、寝耳に水だったことだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...