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1 日向と怜の出逢い編
会いたい‥‥
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夏休みも終わり少し秋めいた頃、留美と耕造が週末にパーティに呼ばれたか何かで、外出して行った。
「パパ、ママ、いってらっしゃーい!」と見送った後、菜穂はすぐに日向の部屋に向かった。
「お兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
「今日はパパもママも多分夕方までは帰って来ないから、あたしと出かけてよ!」
「え? 大丈夫かな‥‥」
日向は未だに両親を恐れている。特に母親の再婚相手の耕造からは‥‥言うことを聞かなければ酷い目にあうので、何も言えない。
「菜穂には近づくな」
そう言われた耕造の冷たい目が忘れられない。もし菜穂と外出して見つかったら‥‥と思うと、苦しくて吐き気がしてくる。
「お兄ちゃん‥‥やっぱり‥‥ダメ?」菜穂が不安そうに聞く。
「‥‥そうだね‥‥でも‥‥ずっと家にいるのも退屈?」
「うん、暇」
「そうか‥‥」
「お兄ちゃん、ママが作ってくれたお昼ご飯、タッパーに入れて持っていってお弁当にすればバレないよ」
そこがバレなくても見つかったら終わりなのだが、と日向が思う。
「ねぇ一生のお願いだからぁー!!」
そこまで言われると、と思い日向は
「わかったよ」と言った。
チラシを見せてくれた菜穂。最近出来たアスレチック施設のようだ。
「あたし、ここに行きたいんだけど危ないから駄目だって言われた。トランポリンやりたい」
ここなら室内だから、多分見つからなさそうだ。そう思った日向は菜穂をその施設に連れて行くことにした。
「わぁーーー!!!」
と言いながらアスレチックに向かって走っていく菜穂。
なかなかアクティブな遊びをさせてもらえなかったのか、本当に喜んで遊ぶ菜穂を見て日向も笑顔になる。
自分ばかりこんな目に、と思っていたこともあったが‥‥菜穂だって、ああ見えて色々と我慢させられていたんだろうなと日向は感じた。
「お兄ちゃん、一緒にこのゲームやろうよー!」
「え? できるかなぁ」
「はい! スタート!」
「うわっ‥‥これついていけないよ」
「お兄ちゃん! 光ったらすぐ押さないと!」
「えぇ‥‥」
そう言いながらも菜穂が楽しそうに遊んでいるのを見て、日向も楽しくなってきた。
「菜穂、もう一回!」
「え? 弱いもんお兄ちゃん‥‥ま、仕方ないなぁー」
近くの広場でこっそりタッパーに入れてきた母の昼食を2人で食べた。
秋晴れでちょうど良い季節。日向は菜穂と話しながらのんびり過ごしていた。時々菜穂が走り回っている。
そして菜穂が家族としていてくれて良かったと日向は思うのだった。無邪気で可愛い菜穂を見ているだけで嬉しい。家族の幸せってこういうことなんだ。
「お兄ちゃん泣いてるの?」
「え? ああ‥‥何でもないよ」
たった一人の妹と外で過ごせただけで、こんなにも感極まってしまうなんて。今日が終わればまた僕は‥‥あの部屋で孤独に過ごすのだろうか。今日が終われば僕は‥‥菜穂のこんな笑顔を守ってあげられない‥‥僕にもっと勇気があればいいのに。
怜さんのように‥‥
怜さんのように‥‥
堂々としていて、格好よくて、優しくて‥‥
怜さんのように‥‥なりたい。
というより
怜さんに‥‥会いたい。
こんなに楽しい日があると僕は‥‥翌日が来るのが怖いんだ。
この幸せな時間がそう長く続かないってわかっているから‥‥
いつもみたいに怜さんの店に行けばいいんだけど‥‥
明日の夕方までなんて‥‥待てないよ‥‥
会いたい‥‥
会いたい‥‥
会いたいよ‥‥
怜さん‥‥
怜さん‥‥
「お兄ちゃん‥‥」
僕の様子がおかしいのに気づいたのか、菜穂が心配そうにしている。
いけない、菜穂を不安にさせちゃ駄目だ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
立ち上がって前を見たその先に、
‥‥怜さんがいた。
「れ‥‥怜さん!」
会いたいと思ってた怜さんがいた。
目から涙が流れてくる。どうしよう‥‥
菜穂が僕の方を見ている。
だけど‥‥気づいたら僕は怜さんへ向かって走っていた。
「あれ? ひなじゃないか」
怜さんが気づいてこちらに来る。僕は泣いているのが恥ずかしくて俯く。
「誰? このおじさん」と菜穂。
「あ‥‥菜穂、僕が‥‥とてもお世話になっている人だよ。怜さんっていうんだ。怜さん、僕の妹の菜穂」
「そうか、よろしくな、菜穂ちゃん」と怜が笑顔になる。
「おじさん! お兄ちゃん泣かせないでよ」と菜穂。
「いや‥‥菜穂。違うんだよ。僕は怜さんに会えて嬉しくて‥‥うぅ‥‥」
「おいひな、泣くほど嬉しいって‥‥大丈夫か?」と怜が言う。
「会いたかったんだよ‥‥怜さんに会いたいって思ってたら‥‥本当に会えた‥‥!」
「そうか」と怜が言い、日向を抱いて背中をポンポンとする。
「お兄ちゃんのパパみたい‥‥」と菜穂。
「ハハ、そうか」と怜。
「お兄ちゃんとは家ではほとんど会えないの。だから、お兄ちゃんは別にパパとママがいると思ってた」
「そうなのか‥‥?」
「うん、あたしのパパとママは‥‥お兄ちゃんのこと‥‥」
それ以上のことは言えず菜穂は黙ってしまった。
何となく日向の家庭事情が複雑そうだと感じた怜。6年前の大雨の日に「帰りたくない」と言ってたのも‥‥そういうことか。
「菜穂ちゃんはお兄ちゃんが好きか?」と怜。
「うん! パパとママがいない時にこっそり会うの。お兄ちゃんあたしのいうこと聞いてくれるし」
「いいお兄ちゃんで良かったな」
優しそうな怜に兄がしがみついているのを見て、何となく羨ましく思った菜穂。
「あたしもぎゅーして」と怜に言った。
「フフ‥‥いいよ」
菜穂が怜に飛びつく。
「いいなぁ、お兄ちゃんにこんなに優しそうなおじさんがいて」
「そうか?」と怜。
「おじさん‥‥あたしとも仲良くしてくれる?」
「え? まぁいいけど‥‥」
「じゃ、番号教えて」菜穂がスマホを取り出す。
連絡先交換をして菜穂は満足そうだった。
「ひな‥‥大丈夫か」
まだ完全に泣き止んでいない日向に小声で怜が言う。
「うん‥‥大丈夫‥‥そろそろ帰らないと叱られる‥‥」
辛そうな日向の顔を見て、怜はどうしても放っておけないと思ってしまう。だが、家庭事情にあまり首を突っ込んでしまうのも良くないかもしれないが‥‥どうしたものか。
「怜さん‥‥菜穂と家に帰って、その後親が帰って来たら‥‥会いにいってもいい?」
泣き止みそうなのに、また今にも泣き出しそうな表情をしている日向に怜は、
「おいで、待ってるから」と言った。
※※※
怜のバーの2階で日向は初めて自分の家庭のことを話した。菜穂の父親が母親の再婚相手であること、そして自分は今でも両親に対して何も言えないこと。菜穂には近づくな、と言われていることなど‥‥
「そうだったのか、あの大雨の時から何かあったんだなと思ってはいたが‥‥それは辛かったな」と怜。
「怜さんがいなかったら僕はどうなっていたか‥‥毎日怖くて‥‥もう全部が壊れてしまいそうだった。怜さんと会って初めて僕は誰かに甘えてもいいんだって思って‥‥甘えちゃった」
甘えた顔が可愛い、そんな日向の肩を怜が優しく抱き寄せてくれた。
「菜穂がスマホを持ってるなんて知らなかった‥‥きっと僕とは連絡を取らないように言われているんだろうな。見つかったら怒られるんだ‥‥怒られるだけならまだいい方かもしれないけど‥‥」
「まさか‥‥ひな‥‥」
日向が自分のお腹のあたりを触る。
怜が服の下を見るとうっすらではあるが、アザが残っていた。
「時々思い出しちゃうかな‥‥最近は相手にもされなくなったから、何もないんだけど」
「ひな‥‥!」
怜が日向をぎゅっと抱き締める。
「れ‥‥怜さん?」
「よく‥‥ここまで頑張ったな‥‥あの時から、俺が想像していたよりもひなはこんなにも苦しい思いをしていて‥‥毎日生きてたんだな」
「怜さん‥‥泣いてるの‥‥?」
「お前と会えて‥‥俺だってたくさん救われたんだ。ひなの笑った顔を見るのが嬉しくてな‥‥俺もまぁ色々あったからな。でも‥‥ひなに比べたら大したことじゃないさ。ひなは‥‥ひなは‥‥俺が守ってやるからさ‥‥」
「怜さん‥‥怜さん‥‥!」
その日のキスは涙が混じっていたのか、少しだけしょっぱい味がした。けれどそんなことはどうでも良いくらい‥‥2人は激しく求め合っていた。
「パパ、ママ、いってらっしゃーい!」と見送った後、菜穂はすぐに日向の部屋に向かった。
「お兄ちゃん!」
「ん? どうした?」
「今日はパパもママも多分夕方までは帰って来ないから、あたしと出かけてよ!」
「え? 大丈夫かな‥‥」
日向は未だに両親を恐れている。特に母親の再婚相手の耕造からは‥‥言うことを聞かなければ酷い目にあうので、何も言えない。
「菜穂には近づくな」
そう言われた耕造の冷たい目が忘れられない。もし菜穂と外出して見つかったら‥‥と思うと、苦しくて吐き気がしてくる。
「お兄ちゃん‥‥やっぱり‥‥ダメ?」菜穂が不安そうに聞く。
「‥‥そうだね‥‥でも‥‥ずっと家にいるのも退屈?」
「うん、暇」
「そうか‥‥」
「お兄ちゃん、ママが作ってくれたお昼ご飯、タッパーに入れて持っていってお弁当にすればバレないよ」
そこがバレなくても見つかったら終わりなのだが、と日向が思う。
「ねぇ一生のお願いだからぁー!!」
そこまで言われると、と思い日向は
「わかったよ」と言った。
チラシを見せてくれた菜穂。最近出来たアスレチック施設のようだ。
「あたし、ここに行きたいんだけど危ないから駄目だって言われた。トランポリンやりたい」
ここなら室内だから、多分見つからなさそうだ。そう思った日向は菜穂をその施設に連れて行くことにした。
「わぁーーー!!!」
と言いながらアスレチックに向かって走っていく菜穂。
なかなかアクティブな遊びをさせてもらえなかったのか、本当に喜んで遊ぶ菜穂を見て日向も笑顔になる。
自分ばかりこんな目に、と思っていたこともあったが‥‥菜穂だって、ああ見えて色々と我慢させられていたんだろうなと日向は感じた。
「お兄ちゃん、一緒にこのゲームやろうよー!」
「え? できるかなぁ」
「はい! スタート!」
「うわっ‥‥これついていけないよ」
「お兄ちゃん! 光ったらすぐ押さないと!」
「えぇ‥‥」
そう言いながらも菜穂が楽しそうに遊んでいるのを見て、日向も楽しくなってきた。
「菜穂、もう一回!」
「え? 弱いもんお兄ちゃん‥‥ま、仕方ないなぁー」
近くの広場でこっそりタッパーに入れてきた母の昼食を2人で食べた。
秋晴れでちょうど良い季節。日向は菜穂と話しながらのんびり過ごしていた。時々菜穂が走り回っている。
そして菜穂が家族としていてくれて良かったと日向は思うのだった。無邪気で可愛い菜穂を見ているだけで嬉しい。家族の幸せってこういうことなんだ。
「お兄ちゃん泣いてるの?」
「え? ああ‥‥何でもないよ」
たった一人の妹と外で過ごせただけで、こんなにも感極まってしまうなんて。今日が終わればまた僕は‥‥あの部屋で孤独に過ごすのだろうか。今日が終われば僕は‥‥菜穂のこんな笑顔を守ってあげられない‥‥僕にもっと勇気があればいいのに。
怜さんのように‥‥
怜さんのように‥‥
堂々としていて、格好よくて、優しくて‥‥
怜さんのように‥‥なりたい。
というより
怜さんに‥‥会いたい。
こんなに楽しい日があると僕は‥‥翌日が来るのが怖いんだ。
この幸せな時間がそう長く続かないってわかっているから‥‥
いつもみたいに怜さんの店に行けばいいんだけど‥‥
明日の夕方までなんて‥‥待てないよ‥‥
会いたい‥‥
会いたい‥‥
会いたいよ‥‥
怜さん‥‥
怜さん‥‥
「お兄ちゃん‥‥」
僕の様子がおかしいのに気づいたのか、菜穂が心配そうにしている。
いけない、菜穂を不安にさせちゃ駄目だ。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
立ち上がって前を見たその先に、
‥‥怜さんがいた。
「れ‥‥怜さん!」
会いたいと思ってた怜さんがいた。
目から涙が流れてくる。どうしよう‥‥
菜穂が僕の方を見ている。
だけど‥‥気づいたら僕は怜さんへ向かって走っていた。
「あれ? ひなじゃないか」
怜さんが気づいてこちらに来る。僕は泣いているのが恥ずかしくて俯く。
「誰? このおじさん」と菜穂。
「あ‥‥菜穂、僕が‥‥とてもお世話になっている人だよ。怜さんっていうんだ。怜さん、僕の妹の菜穂」
「そうか、よろしくな、菜穂ちゃん」と怜が笑顔になる。
「おじさん! お兄ちゃん泣かせないでよ」と菜穂。
「いや‥‥菜穂。違うんだよ。僕は怜さんに会えて嬉しくて‥‥うぅ‥‥」
「おいひな、泣くほど嬉しいって‥‥大丈夫か?」と怜が言う。
「会いたかったんだよ‥‥怜さんに会いたいって思ってたら‥‥本当に会えた‥‥!」
「そうか」と怜が言い、日向を抱いて背中をポンポンとする。
「お兄ちゃんのパパみたい‥‥」と菜穂。
「ハハ、そうか」と怜。
「お兄ちゃんとは家ではほとんど会えないの。だから、お兄ちゃんは別にパパとママがいると思ってた」
「そうなのか‥‥?」
「うん、あたしのパパとママは‥‥お兄ちゃんのこと‥‥」
それ以上のことは言えず菜穂は黙ってしまった。
何となく日向の家庭事情が複雑そうだと感じた怜。6年前の大雨の日に「帰りたくない」と言ってたのも‥‥そういうことか。
「菜穂ちゃんはお兄ちゃんが好きか?」と怜。
「うん! パパとママがいない時にこっそり会うの。お兄ちゃんあたしのいうこと聞いてくれるし」
「いいお兄ちゃんで良かったな」
優しそうな怜に兄がしがみついているのを見て、何となく羨ましく思った菜穂。
「あたしもぎゅーして」と怜に言った。
「フフ‥‥いいよ」
菜穂が怜に飛びつく。
「いいなぁ、お兄ちゃんにこんなに優しそうなおじさんがいて」
「そうか?」と怜。
「おじさん‥‥あたしとも仲良くしてくれる?」
「え? まぁいいけど‥‥」
「じゃ、番号教えて」菜穂がスマホを取り出す。
連絡先交換をして菜穂は満足そうだった。
「ひな‥‥大丈夫か」
まだ完全に泣き止んでいない日向に小声で怜が言う。
「うん‥‥大丈夫‥‥そろそろ帰らないと叱られる‥‥」
辛そうな日向の顔を見て、怜はどうしても放っておけないと思ってしまう。だが、家庭事情にあまり首を突っ込んでしまうのも良くないかもしれないが‥‥どうしたものか。
「怜さん‥‥菜穂と家に帰って、その後親が帰って来たら‥‥会いにいってもいい?」
泣き止みそうなのに、また今にも泣き出しそうな表情をしている日向に怜は、
「おいで、待ってるから」と言った。
※※※
怜のバーの2階で日向は初めて自分の家庭のことを話した。菜穂の父親が母親の再婚相手であること、そして自分は今でも両親に対して何も言えないこと。菜穂には近づくな、と言われていることなど‥‥
「そうだったのか、あの大雨の時から何かあったんだなと思ってはいたが‥‥それは辛かったな」と怜。
「怜さんがいなかったら僕はどうなっていたか‥‥毎日怖くて‥‥もう全部が壊れてしまいそうだった。怜さんと会って初めて僕は誰かに甘えてもいいんだって思って‥‥甘えちゃった」
甘えた顔が可愛い、そんな日向の肩を怜が優しく抱き寄せてくれた。
「菜穂がスマホを持ってるなんて知らなかった‥‥きっと僕とは連絡を取らないように言われているんだろうな。見つかったら怒られるんだ‥‥怒られるだけならまだいい方かもしれないけど‥‥」
「まさか‥‥ひな‥‥」
日向が自分のお腹のあたりを触る。
怜が服の下を見るとうっすらではあるが、アザが残っていた。
「時々思い出しちゃうかな‥‥最近は相手にもされなくなったから、何もないんだけど」
「ひな‥‥!」
怜が日向をぎゅっと抱き締める。
「れ‥‥怜さん?」
「よく‥‥ここまで頑張ったな‥‥あの時から、俺が想像していたよりもひなはこんなにも苦しい思いをしていて‥‥毎日生きてたんだな」
「怜さん‥‥泣いてるの‥‥?」
「お前と会えて‥‥俺だってたくさん救われたんだ。ひなの笑った顔を見るのが嬉しくてな‥‥俺もまぁ色々あったからな。でも‥‥ひなに比べたら大したことじゃないさ。ひなは‥‥ひなは‥‥俺が守ってやるからさ‥‥」
「怜さん‥‥怜さん‥‥!」
その日のキスは涙が混じっていたのか、少しだけしょっぱい味がした。けれどそんなことはどうでも良いくらい‥‥2人は激しく求め合っていた。
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