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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~
第百十話:夏季大会について
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はぁ~、とキソラは重い空気と共に、溜め息を吐いた。
それを見た友人たちは、というと――
「これはまた、何て言うか……」
「また無茶ぶり?」
キソラが放ついつも以上の負のオーラに、さすがのノエルたちも話を聞かざるを得ない。
「ふふ、仕事が増えたわ……これで完全に私の夏休みは消滅したの……ふふ……」
「……」
完全に壊れたかのような発言をするキソラに、ノエルたちはその内容に思わず黙り込んでしまう。
「何だ。校内大会の出場でも決まったのか。それとも、その可能性があるのか」
先回しにしていても意味がないとアキトが尋ねるが、キソラの目が虚ろ状態になったことで、「そうなんだな」と判断する。
「キソラの今状況って、纏めるとこうよね」
1、隣国|(帝国)へ向かう王族の付き添い。
2、国内大会の会場選び(下見から決定まで一任)。
3、1と2の準備(と『ゲーム』対応)
4、校内大会への出場(の、可能性大)。←New
アリシアが簡単に纏めてみたが、言うのは簡単でも、やる方にとっては溜まったものではない。
「その校内大会ってのは、どんなものなんだ?」
今年になって転入してきたジャスパーが校内大会について知っているわけもなく、不思議そうに尋ねる。
「文字通り、校内で開かれる武術大会ね」
「基本的に、戦闘能力があれば誰でも出場可能。名前としても、『ミルキアフォーク武術大会』とは言ってるけど、魔導科の生徒も多く出ることから、今じゃ『ミルキアフォーク魔導武術大会』が正式名称になってる。なお、観覧は中継もあるから自由」
「あと、個人戦の部と団体戦の部があって、団体戦は五人一組の編成での対戦となる。五人一組であれば、編成自体はクラスや学年、科を越えても大丈夫だけど、剣だけとか魔法だけのチームとかはあまりお勧めしない。バランスが良い方が、作戦の幅とかも広がるからね」
「なるほどな」
ノエルとユーキリーファ、キソラの説明に、ジャスパーが納得したかのように頷く。
「そもそも、それって必ず参加なの? 校内大会が国内大会と関連してる以上、その関係者であるキソラが出るのは何か間違ってない?」
アリシアの言葉にも一理ある。
国内大会側の関係者であるキソラが校内大会に下手に出場して勝ったりすれば、国内大会にも出場せざるを得なくなる。
さらに、空間魔導師である彼女が国内大会に出るとなれば、それに文句を言う連中が出てくるのは分かりきっている。
けれど、現実というのは容赦ないもので。
「うん、アリシアの言い分は間違ってないけど、結果からすれば、そうみたい。出場者募ってはいるけど、募集期限当日までに出場者が誰も居なかったら、全科強制全員参加の可能性大なのよ? そんなの最悪でしょ」
「うげ……」
まさかそこまでだとは思わず、顔を顰めたり、引きつらす面々。
「しかも、初戦でいきなり私や生徒会、風紀と当たりたくはないでしょ?」
「当たり前のことを言わないでちょうだい」
空間魔導師としてだけではなく、高位ランカーの冒険者と戦えるほどの実力もあるキソラと、学院トップクラスの実力を持つ生徒会・風紀委員会の面々。
初戦でそんな彼女たちと当たれば、相手への同情は凄いものだろう。
「けど、俺たち同学年組としては、やっぱりキソラとは当たりたくないな」
「そうね。一年や三年よりも接する機会がある分、この子の実力は把握できるから、どれだけヤバいのかも理解しているわけだし」
何らかのハンデを付けたり、手加減されることは予想済みだが、それでも勝てない可能性があるのに、何故負け戦をしなければならないのだ。
「うん。だから、自分から出場しに行く人一人が居れば、私の出場はその時点で無くなります。まあ、私と戦いたいなら、話は別だけどね」
「どこに居んだよ、そんな奴……」
アキトがうわぁ、と言いたげな顔をするが、以前、予期せぬことだったとはいえ、嬉々として空間魔導師であるキソラと戦った奴が居たことに関しては、この際無視をしておく。
「ま、自分の実力を知るって言う目的で出場するっていうのも良いと思うから、試しに誰か出てみたら? もしかしたら、国内大会の代表になれるかもよ?」
「前者はともかく、後者はお断りしたいところね」
「うん、キソラの居る学校の生徒だって言うだけで注目されそう」
「そう?」
冗談混じりにキソラは言うが、その状況を想像したのか、思い浮かんだのか。ノエルとユーキリーファがそれだけは嫌だ、と告げる。
「つか、そもそも現役の空間魔導師が現在進行形で居る学校の奴らだぞ。あちこちから集まってる中で注目されないわけがないだろ」
『打倒ミルキアフォーク』というわけではないのだろうが、そう思う所やそんな空気は少なからずあることだろう。
「私が出たりする訳じゃないのになぁ。……うん、何かごめんなさい」
「別に、キソラが謝るようなことじゃないでしょ」
何となく謝っておいた方が良いかなぁ、とキソラは謝罪を口にするが、アリシアが「それは違う」と返す。
「そもそも、あんたなんか関係ないと言えるぐらいの強さの持ち主が行けば済む話でしょ。そうすれば、キソラとその出場者の強さはまた別だと言えるわけだし」
「アリシア……」
「だから、生徒会とか風紀に行かせておけばいいのよ」
途中まで感謝しそうだったのに、その二組の名前が出ただけでキソラの顔が歪む。
「そーですか」
「何よ。私、変なこと言った?」
事情を知らなさそうなアリシアに、ノエルたちは苦笑しながら説明する。
「生徒会や風紀っていうよりは、それぞれの頭が問題なんだよ」
「何で」
「キソラはあの二人のこと、苦手だから」
「そうなの?」
今ではノーク経由で知り合った関係だと説明できるが、当時の状況を簡単に説明すれば、「先輩に頼まれて、時折妹さんの様子を見ていたのが、現在の生徒会長と風紀委員長」である。
「ほら、あの二人。顔も良いから、二人が気にしているキソラにファンだった女子たちが嫉妬しちゃってね」
「しかも、キソラはキソラで私たちを巻き込まないように距離を置いたらから、孤立するし。悪循環」
「うわぁ……」
「特に酷かったのは中等部の時だったから、尚更だったな」
一つのきっかけとなった初等部の時からの流れだったらともかく、思春期といういろいろな感情が渦巻く中等部時代は、良いことも嫌なことも引っ括めていろんなことがあった。
いくらキソラが無視を貫こうが、彼らに少なからず憧れや好意を持っていた女子たちの嫉妬は凄まじく、兄や空間魔導師であることを利用したんじゃないか、というものまであったほどだ。
「それでも、私たちは張り付いていたわけだけど」
――きっとあの子なら、どんな噂や言い方をされたとしても、キソラを一人にはしないだろうから。
そう思ったからこそ、今この場にいない彼女の代わりに――いや、彼女の分まで、キソラと一緒に居ると決めたのだ。
「そういえば、今年は一緒に行けそう?」
「どうだろう? 大会運営の後始末とか、学校祭の準備とか無茶な要求が来なければ行けるだろうけど……」
「駄目になるフラグだな」
「言わないでちょうだい……」
自分で言っていながら何となく察していたというのに、まるで確定させるかのようにはっきり言うのは止めてほしい。
「ま、後始末ぐらいなら兄さんに丸投げするつもりだから、何とか空けとくわ」
「ん、でも、無理は禁物」
「分かってるよ」
ユーキリーファの言葉にキソラはそう返すが、彼女がそれを守ったことなど無いに等しい。
「一体、何の話なの?」
空気的にも話に入れずにいたアリシアとジャスパーが不思議そうに目を向ける。
「本来ならこの場にいたはずの一人の話だよ」
「この場にいた……?」
「……」
アキトが説明するも、二人は疑問から顔を見合わせ、キソラは無言を通す。
「そう。大切な私たちの友人」
今も忘れることのない、そして、この中でも特に――キソラに、一つの分岐点を作った少女。
「……」
しんみりしたような空気が漂う中、今まで黙り込んでいたキソラが口を開こうと――
「見つけたわよ、アリシア・ガーランド!!」
――したのだが、「ばーん!」と効果音が付きそうな登場の仕方をしたテレスに、名前を出されたアリシアは彼女を責めるような、呆れたような、何とも言えない目を向ける。
「……一体、何の用なの」
若干暗かった空気を壊してくれたのはありがたいが、望んでいた壊し方とは違うために、アリシアは早急に用件を尋ねる。
「聞いて喜びなさい。貴女を私の仲間にしてあげるわ!」
胸を張って、嬉々として言うテレスに、キソラたちは「あー」と言いたげに二人に目を向ける。
一方で、大体予想つきながらも何の仲間かは分からないが、アリシアは、といえば――
「え、嫌」
間髪入れず、お断りの意を示していた。
「そう。貴女ならきっと受けてくれると思っ……え?」
「だから、嫌。断るわ」
うんうん、と頷きながら、納得するような素振りをした後、勢いよくアリシアに目を向けるテレスに、アリシアは再び同じことを口にする。
「な、何でよ!」
「逆に聞くけど、何で私が一発で受けると思ったのかしら?」
最初に会ったときも思ったが、どうやらテレスはアリシアに関しては勘違いや早とちりが全面に出るらしい。
「相変わらずだね。あの二人は」
「というか、そっちでもこんな感じなの?」
目の前で繰り広げられる光景に、クラスが違うキソラとノエル、ユーキリーファは、アリシアたちと同じクラスのアキトたちに尋ねる。
「まあ、間違ってないな」
「フィクシアが、何とかほぼ一方的にガーランドに話し掛けようとするんだが、上手いことあしらわれてる」
「何とか、ほぼ、なんだね」
この時点で、あの二人がどのようなやり取りしているのか、察せられる。
「だって、見てる方からすると、その言い方しか出来ないぞ? 一日の大半は話しかけようかどうか迷ってるだけだし」
「で、一日が終わると、今日も話せなかったって、落ち込むんだ」
「ああ」
アリシアを前にすると、いつも通りではいられないテレスと、何だかんだでテレスには文句を良いながらも付き合ってあげているアリシア。
あれが、仲が良いと言わずして、何と言うのか。
「そろそろ、テレスさんも報われてもいいと思うんだけどなぁ」
「ちょっとそれ、私に折れろと言いたいの?」
どうやら、こちらの話も聞いていたらしいアリシアが、ムッとした様子で、キソラに尋ねる。
「いや、そうじゃなくて。テレスさんに話す機会を与えても良いんじゃないかなって」
「というか、もうここに来れば良いじゃん。アリシアが居る率も高いんだし、いちいち捜す必要は無いでしょ」
キソラとノエルの言葉に、納得できなさそうな顔をしながらも、アリシアは「そうね」と告げる。
「貴女の矜持が許せば、だけど」
「アリシア……」
「またそんなこと言って」と面々は思うが、それがアリシアなのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
「好きにすれば? でも、私は校内大会に出ないから」
まるで宣言のようにも聞こえるアリシアの言葉に、テレスは諦めたのか、肩を落として教室を出ていく。
「次からはここに来るのかな?」
「さあね。でも、本人はアリシアに構ってほしいだろうから、来るでしょ」
ユーキリーファの疑問にノエルが返すが、それを聞いたアリシアが顔を歪める。
「私は嫌なんだけど」
「無理に話せとは言ってないじゃん。会話だって、その場その場によるものだから、臨機応変に、だよ」
「臨機応変に、ね……」
キソラの言葉に、アリシアが息を吐く。
「……ま、度が過ぎなければ、私も文句は言わないんだけどね」
「……?」
アリシアの呟きは聞こえなかったのか、面々は不思議そうな顔をするが、彼女から視線を向けられたキソラは首を傾げる。
「それじゃ、俺たちも教室に戻るか」
「そうね」
「そうだな」
時間を確認したアキトがそう告げ、アリシアとジャスパーが同意するように頷く。
移動教室ではないが、次の授業の準備のことを考えると、そろそろ戻っておいた方がいいのだろう。
そんな彼らを見送り、キソラは外へと目を向ける。
ようやく時間が出来たのか、あらかじめこちらの予定を予測したり、調べたりした上で時間を作っておいたのか。
今日の夜に会えないかと、そんな連絡を朝一で寄越してきたシオンに軽く殺意を抱きつつ、キソラは嫌な予感をひしひしと感じながらも、溜め息を吐きたくなった。
(……結界、貼らなきゃなぁ)
シオン以外に誰が何しに来るとかの予定はないが、彼の職業上、唐突に誰かが訪れたり、話を聞かれては厄介極まりない。
もちろん、二人っきりなのか、第三者を挟むのかで使用する結界の系統を変えなければならないのだが、それでも駄目だった場合は最悪ノークや保護者トリオに泣きつけば、何とかなるだろう。
(頼むから、これ以上、仕事を増やすような用件は持ってこないでほしいなぁ)
もし、これで持ってきたら、とりあえず一発殴ろうと決めつつ、キソラは次の授業で使う教科書を取り出すのだった。
それを見た友人たちは、というと――
「これはまた、何て言うか……」
「また無茶ぶり?」
キソラが放ついつも以上の負のオーラに、さすがのノエルたちも話を聞かざるを得ない。
「ふふ、仕事が増えたわ……これで完全に私の夏休みは消滅したの……ふふ……」
「……」
完全に壊れたかのような発言をするキソラに、ノエルたちはその内容に思わず黙り込んでしまう。
「何だ。校内大会の出場でも決まったのか。それとも、その可能性があるのか」
先回しにしていても意味がないとアキトが尋ねるが、キソラの目が虚ろ状態になったことで、「そうなんだな」と判断する。
「キソラの今状況って、纏めるとこうよね」
1、隣国|(帝国)へ向かう王族の付き添い。
2、国内大会の会場選び(下見から決定まで一任)。
3、1と2の準備(と『ゲーム』対応)
4、校内大会への出場(の、可能性大)。←New
アリシアが簡単に纏めてみたが、言うのは簡単でも、やる方にとっては溜まったものではない。
「その校内大会ってのは、どんなものなんだ?」
今年になって転入してきたジャスパーが校内大会について知っているわけもなく、不思議そうに尋ねる。
「文字通り、校内で開かれる武術大会ね」
「基本的に、戦闘能力があれば誰でも出場可能。名前としても、『ミルキアフォーク武術大会』とは言ってるけど、魔導科の生徒も多く出ることから、今じゃ『ミルキアフォーク魔導武術大会』が正式名称になってる。なお、観覧は中継もあるから自由」
「あと、個人戦の部と団体戦の部があって、団体戦は五人一組の編成での対戦となる。五人一組であれば、編成自体はクラスや学年、科を越えても大丈夫だけど、剣だけとか魔法だけのチームとかはあまりお勧めしない。バランスが良い方が、作戦の幅とかも広がるからね」
「なるほどな」
ノエルとユーキリーファ、キソラの説明に、ジャスパーが納得したかのように頷く。
「そもそも、それって必ず参加なの? 校内大会が国内大会と関連してる以上、その関係者であるキソラが出るのは何か間違ってない?」
アリシアの言葉にも一理ある。
国内大会側の関係者であるキソラが校内大会に下手に出場して勝ったりすれば、国内大会にも出場せざるを得なくなる。
さらに、空間魔導師である彼女が国内大会に出るとなれば、それに文句を言う連中が出てくるのは分かりきっている。
けれど、現実というのは容赦ないもので。
「うん、アリシアの言い分は間違ってないけど、結果からすれば、そうみたい。出場者募ってはいるけど、募集期限当日までに出場者が誰も居なかったら、全科強制全員参加の可能性大なのよ? そんなの最悪でしょ」
「うげ……」
まさかそこまでだとは思わず、顔を顰めたり、引きつらす面々。
「しかも、初戦でいきなり私や生徒会、風紀と当たりたくはないでしょ?」
「当たり前のことを言わないでちょうだい」
空間魔導師としてだけではなく、高位ランカーの冒険者と戦えるほどの実力もあるキソラと、学院トップクラスの実力を持つ生徒会・風紀委員会の面々。
初戦でそんな彼女たちと当たれば、相手への同情は凄いものだろう。
「けど、俺たち同学年組としては、やっぱりキソラとは当たりたくないな」
「そうね。一年や三年よりも接する機会がある分、この子の実力は把握できるから、どれだけヤバいのかも理解しているわけだし」
何らかのハンデを付けたり、手加減されることは予想済みだが、それでも勝てない可能性があるのに、何故負け戦をしなければならないのだ。
「うん。だから、自分から出場しに行く人一人が居れば、私の出場はその時点で無くなります。まあ、私と戦いたいなら、話は別だけどね」
「どこに居んだよ、そんな奴……」
アキトがうわぁ、と言いたげな顔をするが、以前、予期せぬことだったとはいえ、嬉々として空間魔導師であるキソラと戦った奴が居たことに関しては、この際無視をしておく。
「ま、自分の実力を知るって言う目的で出場するっていうのも良いと思うから、試しに誰か出てみたら? もしかしたら、国内大会の代表になれるかもよ?」
「前者はともかく、後者はお断りしたいところね」
「うん、キソラの居る学校の生徒だって言うだけで注目されそう」
「そう?」
冗談混じりにキソラは言うが、その状況を想像したのか、思い浮かんだのか。ノエルとユーキリーファがそれだけは嫌だ、と告げる。
「つか、そもそも現役の空間魔導師が現在進行形で居る学校の奴らだぞ。あちこちから集まってる中で注目されないわけがないだろ」
『打倒ミルキアフォーク』というわけではないのだろうが、そう思う所やそんな空気は少なからずあることだろう。
「私が出たりする訳じゃないのになぁ。……うん、何かごめんなさい」
「別に、キソラが謝るようなことじゃないでしょ」
何となく謝っておいた方が良いかなぁ、とキソラは謝罪を口にするが、アリシアが「それは違う」と返す。
「そもそも、あんたなんか関係ないと言えるぐらいの強さの持ち主が行けば済む話でしょ。そうすれば、キソラとその出場者の強さはまた別だと言えるわけだし」
「アリシア……」
「だから、生徒会とか風紀に行かせておけばいいのよ」
途中まで感謝しそうだったのに、その二組の名前が出ただけでキソラの顔が歪む。
「そーですか」
「何よ。私、変なこと言った?」
事情を知らなさそうなアリシアに、ノエルたちは苦笑しながら説明する。
「生徒会や風紀っていうよりは、それぞれの頭が問題なんだよ」
「何で」
「キソラはあの二人のこと、苦手だから」
「そうなの?」
今ではノーク経由で知り合った関係だと説明できるが、当時の状況を簡単に説明すれば、「先輩に頼まれて、時折妹さんの様子を見ていたのが、現在の生徒会長と風紀委員長」である。
「ほら、あの二人。顔も良いから、二人が気にしているキソラにファンだった女子たちが嫉妬しちゃってね」
「しかも、キソラはキソラで私たちを巻き込まないように距離を置いたらから、孤立するし。悪循環」
「うわぁ……」
「特に酷かったのは中等部の時だったから、尚更だったな」
一つのきっかけとなった初等部の時からの流れだったらともかく、思春期といういろいろな感情が渦巻く中等部時代は、良いことも嫌なことも引っ括めていろんなことがあった。
いくらキソラが無視を貫こうが、彼らに少なからず憧れや好意を持っていた女子たちの嫉妬は凄まじく、兄や空間魔導師であることを利用したんじゃないか、というものまであったほどだ。
「それでも、私たちは張り付いていたわけだけど」
――きっとあの子なら、どんな噂や言い方をされたとしても、キソラを一人にはしないだろうから。
そう思ったからこそ、今この場にいない彼女の代わりに――いや、彼女の分まで、キソラと一緒に居ると決めたのだ。
「そういえば、今年は一緒に行けそう?」
「どうだろう? 大会運営の後始末とか、学校祭の準備とか無茶な要求が来なければ行けるだろうけど……」
「駄目になるフラグだな」
「言わないでちょうだい……」
自分で言っていながら何となく察していたというのに、まるで確定させるかのようにはっきり言うのは止めてほしい。
「ま、後始末ぐらいなら兄さんに丸投げするつもりだから、何とか空けとくわ」
「ん、でも、無理は禁物」
「分かってるよ」
ユーキリーファの言葉にキソラはそう返すが、彼女がそれを守ったことなど無いに等しい。
「一体、何の話なの?」
空気的にも話に入れずにいたアリシアとジャスパーが不思議そうに目を向ける。
「本来ならこの場にいたはずの一人の話だよ」
「この場にいた……?」
「……」
アキトが説明するも、二人は疑問から顔を見合わせ、キソラは無言を通す。
「そう。大切な私たちの友人」
今も忘れることのない、そして、この中でも特に――キソラに、一つの分岐点を作った少女。
「……」
しんみりしたような空気が漂う中、今まで黙り込んでいたキソラが口を開こうと――
「見つけたわよ、アリシア・ガーランド!!」
――したのだが、「ばーん!」と効果音が付きそうな登場の仕方をしたテレスに、名前を出されたアリシアは彼女を責めるような、呆れたような、何とも言えない目を向ける。
「……一体、何の用なの」
若干暗かった空気を壊してくれたのはありがたいが、望んでいた壊し方とは違うために、アリシアは早急に用件を尋ねる。
「聞いて喜びなさい。貴女を私の仲間にしてあげるわ!」
胸を張って、嬉々として言うテレスに、キソラたちは「あー」と言いたげに二人に目を向ける。
一方で、大体予想つきながらも何の仲間かは分からないが、アリシアは、といえば――
「え、嫌」
間髪入れず、お断りの意を示していた。
「そう。貴女ならきっと受けてくれると思っ……え?」
「だから、嫌。断るわ」
うんうん、と頷きながら、納得するような素振りをした後、勢いよくアリシアに目を向けるテレスに、アリシアは再び同じことを口にする。
「な、何でよ!」
「逆に聞くけど、何で私が一発で受けると思ったのかしら?」
最初に会ったときも思ったが、どうやらテレスはアリシアに関しては勘違いや早とちりが全面に出るらしい。
「相変わらずだね。あの二人は」
「というか、そっちでもこんな感じなの?」
目の前で繰り広げられる光景に、クラスが違うキソラとノエル、ユーキリーファは、アリシアたちと同じクラスのアキトたちに尋ねる。
「まあ、間違ってないな」
「フィクシアが、何とかほぼ一方的にガーランドに話し掛けようとするんだが、上手いことあしらわれてる」
「何とか、ほぼ、なんだね」
この時点で、あの二人がどのようなやり取りしているのか、察せられる。
「だって、見てる方からすると、その言い方しか出来ないぞ? 一日の大半は話しかけようかどうか迷ってるだけだし」
「で、一日が終わると、今日も話せなかったって、落ち込むんだ」
「ああ」
アリシアを前にすると、いつも通りではいられないテレスと、何だかんだでテレスには文句を良いながらも付き合ってあげているアリシア。
あれが、仲が良いと言わずして、何と言うのか。
「そろそろ、テレスさんも報われてもいいと思うんだけどなぁ」
「ちょっとそれ、私に折れろと言いたいの?」
どうやら、こちらの話も聞いていたらしいアリシアが、ムッとした様子で、キソラに尋ねる。
「いや、そうじゃなくて。テレスさんに話す機会を与えても良いんじゃないかなって」
「というか、もうここに来れば良いじゃん。アリシアが居る率も高いんだし、いちいち捜す必要は無いでしょ」
キソラとノエルの言葉に、納得できなさそうな顔をしながらも、アリシアは「そうね」と告げる。
「貴女の矜持が許せば、だけど」
「アリシア……」
「またそんなこと言って」と面々は思うが、それがアリシアなのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
「好きにすれば? でも、私は校内大会に出ないから」
まるで宣言のようにも聞こえるアリシアの言葉に、テレスは諦めたのか、肩を落として教室を出ていく。
「次からはここに来るのかな?」
「さあね。でも、本人はアリシアに構ってほしいだろうから、来るでしょ」
ユーキリーファの疑問にノエルが返すが、それを聞いたアリシアが顔を歪める。
「私は嫌なんだけど」
「無理に話せとは言ってないじゃん。会話だって、その場その場によるものだから、臨機応変に、だよ」
「臨機応変に、ね……」
キソラの言葉に、アリシアが息を吐く。
「……ま、度が過ぎなければ、私も文句は言わないんだけどね」
「……?」
アリシアの呟きは聞こえなかったのか、面々は不思議そうな顔をするが、彼女から視線を向けられたキソラは首を傾げる。
「それじゃ、俺たちも教室に戻るか」
「そうね」
「そうだな」
時間を確認したアキトがそう告げ、アリシアとジャスパーが同意するように頷く。
移動教室ではないが、次の授業の準備のことを考えると、そろそろ戻っておいた方がいいのだろう。
そんな彼らを見送り、キソラは外へと目を向ける。
ようやく時間が出来たのか、あらかじめこちらの予定を予測したり、調べたりした上で時間を作っておいたのか。
今日の夜に会えないかと、そんな連絡を朝一で寄越してきたシオンに軽く殺意を抱きつつ、キソラは嫌な予感をひしひしと感じながらも、溜め息を吐きたくなった。
(……結界、貼らなきゃなぁ)
シオン以外に誰が何しに来るとかの予定はないが、彼の職業上、唐突に誰かが訪れたり、話を聞かれては厄介極まりない。
もちろん、二人っきりなのか、第三者を挟むのかで使用する結界の系統を変えなければならないのだが、それでも駄目だった場合は最悪ノークや保護者トリオに泣きつけば、何とかなるだろう。
(頼むから、これ以上、仕事を増やすような用件は持ってこないでほしいなぁ)
もし、これで持ってきたら、とりあえず一発殴ろうと決めつつ、キソラは次の授業で使う教科書を取り出すのだった。
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