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第三章・前章、夏休み~校内大会・帝国編~
第九十八話:世界最強と言われる実力を(前編)
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「おはよ!」
「おはよう」
「おはよう。朝から元気だね」
そう挨拶をしあって、歩いていく。
あの後、何とか無事に寮に戻って来れたキソラは、登校の準備を手早く行い――途中、アークの置き手紙も確認し――、今は昇降口に向かっていた。
「ねぇ、覚えてる? この前話してた通り魔さ。捕まったみたいなんだよね」
「そうなの?」
ノエルの言葉に、ユーキリーファがぼんやりとしたまま返す。
「ま、詳しいことはキソラの方が知ってそうだけど」
「知ってることが無くもないけど、詳細についてはよく分かんないから、私には話せないし、そっちの聞きたい情報じゃないかも知れないけど?」
期待の眼差しを向けてくるノエルにそう返すキソラだが、彼女自身も今回の件に関しては分からないことの方が多いから――もし仮に話すつもりだったとしても――、話そうにも話せなかったりする。
「そっか。……って、え?」
「珍しい。キソラがよく知らないなんて」
ノエルもそうだが、ユーキリーファも珍しそうにキソラを見る。
二人にしてみれば、キソラが結界を利用して街を見ていることは知っているので、いつも通り、何か知っているかと思っていたのだ。
ただ、キソラが隠しているという可能性もあるが、それが嘘でないことは長年の付き合いから分かっていることなので、特に責めたりはしない。
「それより、試験課題。どれだけ出来た?」
「私は一教科、終わらせた」
「あー……どうしても、得意教科から終わらせちゃうよね」
今度はキソラからの問いに、ユーキリーファが先に答え、ノエルが遠い目をしながら返す。
「私、まだ一教科も終わってない。っていうか、手を付けられてない方の方が多い」
「何となく、そんな気はしてた。何か、今年はバタバタしてるもんね」
「今までで、一番忙しい?」
確かに、今までのキソラなら、試験課題の一つぐらいは終わらせていたが、ノエルたちの指摘通り、いろいろと慌ただしかったためか、今年は手を付けられていない。
「まあ、ね」
「聞き飽きたとは思うけど、無茶しないでよ。キソラが倒れても、あいつらとは違って、私たちは喜ばないんだから」
「うん、知ってる。それに、今の所そこまで言われるほどの酷使はしてないから」
――だから、大丈夫。
そう告げて、そのまま、キソラは昇降口へと歩いていく。
そんな彼女に肩を竦め、ノエルたちもキソラの隣へと駆け寄っていく。
「じゃあまずは――目の前にある、試験課題を片付けていくことを優先しましょうか」
先を行っていたキソラに追い付き、そう告げたノエルに対し、キソラはキソラでぎょっとする。
「課題未提出で、夏休みも学院に来たくはないでしょ?」
ノエルと反対側からユーキリーファがキソラに告げる。
「大丈夫。三人でやれば、早く終わる」
「何なら、アリシアたちも誘って、勉強会っていうのも良いかもね」
「え? ちょっ、待っ……」
はっきりと返事できない間に、規模だけが大きくなりそうで、キソラは戸惑うしかない。
だが、そんなキソラの様子に、ノエルとユーキリーファはくっくっと少しずつ笑い始める。
「ごめんごめん。けどさ、キソラ。気負いすぎても駄目なんだからね?」
「……そう、だね」
ノエルの言葉にキソラが頷けば、
「じゃあ、教室まで急ごう。そろそろ生徒会役員たちが来る頃でしょ」
「え、もうそんな時間!?」
慌てて時計塔に目を向けたキソラは悪くない。
「大丈夫だよ。ここまで来ておいて、遅刻するわけじゃないんだし」
そう言うユーキリーファも足を動かしている辺り、生徒会役員たちとあまり遭遇はしたくないらしい。
「言動が一致してないよ。ユーファ」
そんなユーキリーファに、ノエルと揃って苦笑いするキソラ。
「けど、うん。遅刻するよりはマシか」
「だね」
キソラがユーキリーファを追い掛ける形で歩き始めれば、ノエルも賛同するかのように歩き出す。
だが、三人は知らない。
そんな彼女たちを見ていた目があったことを――
☆★☆
「今日も無し、か」
あの日に別れたっきり、ウンディーネからの連絡は、ずっと無いままである。
魔力供給率自体も変化が無いことから、きっと無事では居るのだろうが、さすがにここまで音沙汰無しだと、不安にもなってくる。
それよりも、キソラはすぐ目の前にある状況をどうにかしないといけなかった。
「小娘。あの男はどこだ」
「……」
「もう一度聞く。あの男は今、どこにいる?」
目の前に現れたデュールの単刀直入な台詞に、キソラは亜空間へ手に持っていた荷物を放り込むと、肩を竦める。
「貴方の目的が分かってるっていうのに、そう簡単に言うと思う?」
そして、今まで通り、そう易々とアークの居場所を教えるつもりも無かった。
「ほぉ、この俺に逆らうのか」
「逆らってるつもりは無いよ。場所を言っていないだけ」
「……まぁいい。無理矢理にでも、口を割らせるだけだ」
「わぁ、随分な自信。何か簡単に言ってるけど、貴方に出来る? 契約者から聞いてないわけじゃないでしょ」
以前、会ったときに、キソラはデュールに空間魔導師について、契約者に聞いてみるように促していた。
「ああ、この世界では最強の魔導師みたいだな」
契約者の説明を要約したのだろうデュールに、「現時点で、だけどね」とキソラは付け加える。
「そんな最強の魔導師が、何であいつと組んでいる」
「誰と組もうが私の自由でしょ。それとも、アーク以外の別の誰かと組めと? 例えば貴方とか」
デュールを例えで出してみるが、最終的には冗談じゃない、とキソラは告げる。
「やり方は違えど、パートナーチェンジの要請は貴方で二人目だよ」
前回――イーヴィルの時と比べると、目的やら何やらが違っているが、誰に何をされ、何を言われようと、キソラはパートナーを変えるつもりはない。
「理解できんな」
「しなくて良いよ」
そもそも、(デュール相手に)理解してもらおうとは思っていない。
「だから、大人しく帰れ」
「奴の居場所を話せば、素直に帰ってやる」
それを聞いて、キソラは顔を引きつらせる。
「相棒のストーカーの言葉を、信じられるわけが無いだろうが」
「ほぉ、ストーカーと来たか」
どこか感心したように言うデュールだが、キソラはキソラで内心顔を顰めていた。
(やっぱり嫌いだ。こいつ)
何とも表現しにくいが、とにかくデュールに対しては、『嫌』という感情しか浮かばない。
「なら、やはり無理矢理にでも聞き出すしか無さそうだな」
「やれるものならやってみなさい。でも、私だって、そう簡単に口を開くつもりは無いから」
戦うことで聞き出すつもりらしいデュールに、キソラも構えることで応戦態勢に入る。
二人の周囲には、すでに『ゲーム』用の結界が自動的に張られているから、遠慮なく殺り合える。
「世界のルールが違う中で、貴方がどれだけ戦えるか見てあげる」
「随分、上から目線だな」
上から目線になってしまうのは仕方がない。世界レベルで見れば、キソラの方に地の利があるのは明らかなのだから。
もちろん、世界レベルで見れば、なので、学院の敷地内にいる『ゲーム』関係者でこの場所での戦闘経験があれば、学院の敷地内であるこの場所がキソラに対して、必ずしも有利になるとは限らない。
しかも、上空を自由に滑空する事も出来るアークやデュールのような、“異世界からの来訪者”であれば、戦闘可能フィールドは大幅に広がるわけで。
「うわ、ウザぇ」
まるで当てられるものなら当ててみろ、と言いたげに、空中を移動するデュールに、キソラは顔を引きつらせる。
こちらが空間魔導師と分かっていて挑発してくる者が居ないわけではないが、ここまで試すかのように挑発してきたのは、デュールぐらいじゃないのだろうか。
「ま、空中浮遊はそちらの専売特許じゃないわけだし」
――出来ないと思われていたら、心外だ。
そもそも、騎竜していたアルヴィスたちを相手に、(見た目は)空中浮遊しながら応戦していたのだから、キソラだけではなく、空間魔導師たちも出来なくはない。魔力面の問題さえ無ければ。
「降り注げ、“雷滝”」
雷の滝が飛行中のデュールへと放たれ、降り注ぐ。
「っ、あの小娘……!」
自身に降り注ぐ雷の滝を避けながら、舌打ち混じりにデュールは悪態をつく。
開始早々、キソラによる“雷滝”の影響で行動範囲が限定された以上、デュールとしては高度を下げるしかない。
「あれだけ自信満々みたいな言い方をしておきながら、こんな小娘相手にかなりの高度を取らないといけないとか、情けない」
「あ゛?」
挑発し返せば、苛立ったような声をデュールが放つ。
「そもそも、相手が空中戦出来ないのに、自分は空中戦をするとか、ふざけてるの? せめて最初は、試合条件ぐらい公平にしようと思わない?」
少しばかりの嘘を交えながら、口ではそう良いながらも、キソラは魔法を放つ手を止めない。
とにもかくにも、容赦が無かった。
「良いのか? 試合条件を一緒にして」
「何が言いたいのかな?」
「わざわざ全部言わせるまでもなく、分かってるんだろう? いくら強者であっても、その時の環境に作用されることを」
デュールの言い分にも一理ある。
いくら強いからと言って、その人の戦い方やフィールドによっては、得意不得意もある。
つまり、デュールはそういうことを言いたいのだろうが、管理下にある迷宮の守護者たちや各国に居る迷宮管理者に扱かれたことがあるキソラには、あまり意味が無かったりする。
(ま、空間魔導師は世界一強い魔導師集団でもあるだけで、本当に強い人は強いからなぁ)
ふと浮かんだ顔に、「最近、話してないなー」と思うキソラ。
(それに、相談してみないといけないこともあるし)
そんなことを考えていたためか、はっきり言って――油断していた。
「っ、と」
デュールの放ってきた魔法を、危機一髪で回避する。
「危なぁ……」
「仮にも戦闘中だというのに、他のことを考え事とは……随分と余裕だな」
避けなかったら、と魔法が激突した地面を見て安堵するキソラだが、デュールの正論とも言える言葉に否定はしない。
けれど、ふむ、と何を思ったのか、キソラはホーリーロードの姿を変える。
(ちょっとだけ、本気を出すか)
威力が威力なだけに、なるべく出さないようにはしていたが、相手がやはり“異世界からの来訪者”である以上、制限された力だけでは限界も見えてしまう。
それに何より――彼とて、こちらに本気を出してもらいたいはずなのだから。
「今の私は、まだツいているみたいだ」
「何を言って……」
「ここ最近、素直に戦えてる」
否が応でも本気を出さざるを得ない『奴ら』よりも、戦う中で次第に解放していく方が、気持ち的にもまだ楽で居られる。
「さっき私は空中戦をしていた貴方を不公平だと言ったけど、それは取り消すよ」
キソラの台詞に、デュールが内心訝りながらも、目を細める。
「貴方の得意とするフィールドでやってあげるよ。空中戦」
「おはよう」
「おはよう。朝から元気だね」
そう挨拶をしあって、歩いていく。
あの後、何とか無事に寮に戻って来れたキソラは、登校の準備を手早く行い――途中、アークの置き手紙も確認し――、今は昇降口に向かっていた。
「ねぇ、覚えてる? この前話してた通り魔さ。捕まったみたいなんだよね」
「そうなの?」
ノエルの言葉に、ユーキリーファがぼんやりとしたまま返す。
「ま、詳しいことはキソラの方が知ってそうだけど」
「知ってることが無くもないけど、詳細についてはよく分かんないから、私には話せないし、そっちの聞きたい情報じゃないかも知れないけど?」
期待の眼差しを向けてくるノエルにそう返すキソラだが、彼女自身も今回の件に関しては分からないことの方が多いから――もし仮に話すつもりだったとしても――、話そうにも話せなかったりする。
「そっか。……って、え?」
「珍しい。キソラがよく知らないなんて」
ノエルもそうだが、ユーキリーファも珍しそうにキソラを見る。
二人にしてみれば、キソラが結界を利用して街を見ていることは知っているので、いつも通り、何か知っているかと思っていたのだ。
ただ、キソラが隠しているという可能性もあるが、それが嘘でないことは長年の付き合いから分かっていることなので、特に責めたりはしない。
「それより、試験課題。どれだけ出来た?」
「私は一教科、終わらせた」
「あー……どうしても、得意教科から終わらせちゃうよね」
今度はキソラからの問いに、ユーキリーファが先に答え、ノエルが遠い目をしながら返す。
「私、まだ一教科も終わってない。っていうか、手を付けられてない方の方が多い」
「何となく、そんな気はしてた。何か、今年はバタバタしてるもんね」
「今までで、一番忙しい?」
確かに、今までのキソラなら、試験課題の一つぐらいは終わらせていたが、ノエルたちの指摘通り、いろいろと慌ただしかったためか、今年は手を付けられていない。
「まあ、ね」
「聞き飽きたとは思うけど、無茶しないでよ。キソラが倒れても、あいつらとは違って、私たちは喜ばないんだから」
「うん、知ってる。それに、今の所そこまで言われるほどの酷使はしてないから」
――だから、大丈夫。
そう告げて、そのまま、キソラは昇降口へと歩いていく。
そんな彼女に肩を竦め、ノエルたちもキソラの隣へと駆け寄っていく。
「じゃあまずは――目の前にある、試験課題を片付けていくことを優先しましょうか」
先を行っていたキソラに追い付き、そう告げたノエルに対し、キソラはキソラでぎょっとする。
「課題未提出で、夏休みも学院に来たくはないでしょ?」
ノエルと反対側からユーキリーファがキソラに告げる。
「大丈夫。三人でやれば、早く終わる」
「何なら、アリシアたちも誘って、勉強会っていうのも良いかもね」
「え? ちょっ、待っ……」
はっきりと返事できない間に、規模だけが大きくなりそうで、キソラは戸惑うしかない。
だが、そんなキソラの様子に、ノエルとユーキリーファはくっくっと少しずつ笑い始める。
「ごめんごめん。けどさ、キソラ。気負いすぎても駄目なんだからね?」
「……そう、だね」
ノエルの言葉にキソラが頷けば、
「じゃあ、教室まで急ごう。そろそろ生徒会役員たちが来る頃でしょ」
「え、もうそんな時間!?」
慌てて時計塔に目を向けたキソラは悪くない。
「大丈夫だよ。ここまで来ておいて、遅刻するわけじゃないんだし」
そう言うユーキリーファも足を動かしている辺り、生徒会役員たちとあまり遭遇はしたくないらしい。
「言動が一致してないよ。ユーファ」
そんなユーキリーファに、ノエルと揃って苦笑いするキソラ。
「けど、うん。遅刻するよりはマシか」
「だね」
キソラがユーキリーファを追い掛ける形で歩き始めれば、ノエルも賛同するかのように歩き出す。
だが、三人は知らない。
そんな彼女たちを見ていた目があったことを――
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「今日も無し、か」
あの日に別れたっきり、ウンディーネからの連絡は、ずっと無いままである。
魔力供給率自体も変化が無いことから、きっと無事では居るのだろうが、さすがにここまで音沙汰無しだと、不安にもなってくる。
それよりも、キソラはすぐ目の前にある状況をどうにかしないといけなかった。
「小娘。あの男はどこだ」
「……」
「もう一度聞く。あの男は今、どこにいる?」
目の前に現れたデュールの単刀直入な台詞に、キソラは亜空間へ手に持っていた荷物を放り込むと、肩を竦める。
「貴方の目的が分かってるっていうのに、そう簡単に言うと思う?」
そして、今まで通り、そう易々とアークの居場所を教えるつもりも無かった。
「ほぉ、この俺に逆らうのか」
「逆らってるつもりは無いよ。場所を言っていないだけ」
「……まぁいい。無理矢理にでも、口を割らせるだけだ」
「わぁ、随分な自信。何か簡単に言ってるけど、貴方に出来る? 契約者から聞いてないわけじゃないでしょ」
以前、会ったときに、キソラはデュールに空間魔導師について、契約者に聞いてみるように促していた。
「ああ、この世界では最強の魔導師みたいだな」
契約者の説明を要約したのだろうデュールに、「現時点で、だけどね」とキソラは付け加える。
「そんな最強の魔導師が、何であいつと組んでいる」
「誰と組もうが私の自由でしょ。それとも、アーク以外の別の誰かと組めと? 例えば貴方とか」
デュールを例えで出してみるが、最終的には冗談じゃない、とキソラは告げる。
「やり方は違えど、パートナーチェンジの要請は貴方で二人目だよ」
前回――イーヴィルの時と比べると、目的やら何やらが違っているが、誰に何をされ、何を言われようと、キソラはパートナーを変えるつもりはない。
「理解できんな」
「しなくて良いよ」
そもそも、(デュール相手に)理解してもらおうとは思っていない。
「だから、大人しく帰れ」
「奴の居場所を話せば、素直に帰ってやる」
それを聞いて、キソラは顔を引きつらせる。
「相棒のストーカーの言葉を、信じられるわけが無いだろうが」
「ほぉ、ストーカーと来たか」
どこか感心したように言うデュールだが、キソラはキソラで内心顔を顰めていた。
(やっぱり嫌いだ。こいつ)
何とも表現しにくいが、とにかくデュールに対しては、『嫌』という感情しか浮かばない。
「なら、やはり無理矢理にでも聞き出すしか無さそうだな」
「やれるものならやってみなさい。でも、私だって、そう簡単に口を開くつもりは無いから」
戦うことで聞き出すつもりらしいデュールに、キソラも構えることで応戦態勢に入る。
二人の周囲には、すでに『ゲーム』用の結界が自動的に張られているから、遠慮なく殺り合える。
「世界のルールが違う中で、貴方がどれだけ戦えるか見てあげる」
「随分、上から目線だな」
上から目線になってしまうのは仕方がない。世界レベルで見れば、キソラの方に地の利があるのは明らかなのだから。
もちろん、世界レベルで見れば、なので、学院の敷地内にいる『ゲーム』関係者でこの場所での戦闘経験があれば、学院の敷地内であるこの場所がキソラに対して、必ずしも有利になるとは限らない。
しかも、上空を自由に滑空する事も出来るアークやデュールのような、“異世界からの来訪者”であれば、戦闘可能フィールドは大幅に広がるわけで。
「うわ、ウザぇ」
まるで当てられるものなら当ててみろ、と言いたげに、空中を移動するデュールに、キソラは顔を引きつらせる。
こちらが空間魔導師と分かっていて挑発してくる者が居ないわけではないが、ここまで試すかのように挑発してきたのは、デュールぐらいじゃないのだろうか。
「ま、空中浮遊はそちらの専売特許じゃないわけだし」
――出来ないと思われていたら、心外だ。
そもそも、騎竜していたアルヴィスたちを相手に、(見た目は)空中浮遊しながら応戦していたのだから、キソラだけではなく、空間魔導師たちも出来なくはない。魔力面の問題さえ無ければ。
「降り注げ、“雷滝”」
雷の滝が飛行中のデュールへと放たれ、降り注ぐ。
「っ、あの小娘……!」
自身に降り注ぐ雷の滝を避けながら、舌打ち混じりにデュールは悪態をつく。
開始早々、キソラによる“雷滝”の影響で行動範囲が限定された以上、デュールとしては高度を下げるしかない。
「あれだけ自信満々みたいな言い方をしておきながら、こんな小娘相手にかなりの高度を取らないといけないとか、情けない」
「あ゛?」
挑発し返せば、苛立ったような声をデュールが放つ。
「そもそも、相手が空中戦出来ないのに、自分は空中戦をするとか、ふざけてるの? せめて最初は、試合条件ぐらい公平にしようと思わない?」
少しばかりの嘘を交えながら、口ではそう良いながらも、キソラは魔法を放つ手を止めない。
とにもかくにも、容赦が無かった。
「良いのか? 試合条件を一緒にして」
「何が言いたいのかな?」
「わざわざ全部言わせるまでもなく、分かってるんだろう? いくら強者であっても、その時の環境に作用されることを」
デュールの言い分にも一理ある。
いくら強いからと言って、その人の戦い方やフィールドによっては、得意不得意もある。
つまり、デュールはそういうことを言いたいのだろうが、管理下にある迷宮の守護者たちや各国に居る迷宮管理者に扱かれたことがあるキソラには、あまり意味が無かったりする。
(ま、空間魔導師は世界一強い魔導師集団でもあるだけで、本当に強い人は強いからなぁ)
ふと浮かんだ顔に、「最近、話してないなー」と思うキソラ。
(それに、相談してみないといけないこともあるし)
そんなことを考えていたためか、はっきり言って――油断していた。
「っ、と」
デュールの放ってきた魔法を、危機一髪で回避する。
「危なぁ……」
「仮にも戦闘中だというのに、他のことを考え事とは……随分と余裕だな」
避けなかったら、と魔法が激突した地面を見て安堵するキソラだが、デュールの正論とも言える言葉に否定はしない。
けれど、ふむ、と何を思ったのか、キソラはホーリーロードの姿を変える。
(ちょっとだけ、本気を出すか)
威力が威力なだけに、なるべく出さないようにはしていたが、相手がやはり“異世界からの来訪者”である以上、制限された力だけでは限界も見えてしまう。
それに何より――彼とて、こちらに本気を出してもらいたいはずなのだから。
「今の私は、まだツいているみたいだ」
「何を言って……」
「ここ最近、素直に戦えてる」
否が応でも本気を出さざるを得ない『奴ら』よりも、戦う中で次第に解放していく方が、気持ち的にもまだ楽で居られる。
「さっき私は空中戦をしていた貴方を不公平だと言ったけど、それは取り消すよ」
キソラの台詞に、デュールが内心訝りながらも、目を細める。
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