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第二章、戦争
第七十話:国内・学院攻防戦XV(黒竜退治Ⅰ・到着)
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――冒険者ギルド方面。
空中に展開されていた多くの魔法陣はいつの間にか無くなっており、その代わりとばかりに現れた存在に、誰かが叫ぶ。
「何で竜がこんなところにいるんだよ!」
それは誰もが思った疑問だが、それに答えられる者はここにはいない。
「っ、まだ動ける者は一般市民のサポートを! ボクたちがあの黒竜の相手をしつつ、時間稼ぎをする!」
一瞬早く硬直から解けたリリゼールの言葉に、同じように固まっていた者たちが少しずつ動き出す。
「おい、リリ……」
「文句は後で引き受ける」
何か言いたそうなオーキンスを遮るように、リリゼールが亜空間から指の部分がない手袋を取り出し、装着しながら言う。
「守るのは、ボクの専門だ」
そして、黒竜に目を向けるリリゼールに呼応するかのように、黒竜の咆哮がその場に響いた。
☆★☆
「何で……」
近づくにつれて最前線に居ながらも感じた気配と聞こえてきた咆哮に、キソラは目を見開くも、歯を食いしばり、悔しそうな表情を滲ませる。
『とにかく急ごう。シルフィードたちも心配だ』
そう話しかけてくるイフリートは、現在“精霊憑依”中であり、転移で国内に移動した後、“精霊憑依”して移動した方が早いのではないか、となったのだ。
「っ、」
だが次の瞬間、反射的に体が動いていた。
嫌な予感しかしない。
(あれはヤバい! みんなっ……!)
シルフィードの素早さなど目ではないほどの素早さで、キソラはその場に向かう。
そして、少しずつ近づくにつれて彼女が見たのは……
「なっ……」
崩壊した建物と街、その原因であろう黒い竜――ドラゴン。
その足元には、冒険者や帝国騎士が倒れていた。
“精霊憑依”を解除したイフリートも、何でこんな奴がこんな所に、と言いたげな表情で黒竜を見ていた。
「っ、この――」
相棒の姿を杖から剣に変え、屋根伝いにドラゴンに向かって斬りつけるのだが――
(浅い!)
上手く味方側へと着地するキソラだが、その表情は厳しいままだった。
「キソラさん!?」
彼女が来たことに最初に気づいたのは、ギルド長だった。
「ご無事で何よりです、ギルド長」
口ではそう言いながらも、目はドラゴンに向けられたままである。
「ドラゴンを相手にするなんて、かなり無茶するね」
「この場にいる以上、あのドラゴンだけは、どうしても倒さないといけないので」
キソラの言葉に、ギルド長は尋ねる。
「知ってるの? あのドラゴンのこと」
「はい。名前はデス・イーヴィル・ドラゴン。別名、死を招く竜。以前、迷宮管理者同士で組んで攻略した塔の七十五階層にいたボスで、即死能力持ちです」
あの時は場所が迷宮内だったから良かったが、今は違う。これが迷宮内なら助かったかも知れないが、今は迷宮外であるからこそ、現時点で予想されるであろうドラゴンの能力は洒落にならない。
しかも、あれから数年が経っている。現時点でドラゴンの持つ能力の増減など、今のキソラに分かるはずがない。
「即死って……」
顔を引きつらせるギルド長。
「ですから、被害が広がる前にどうにかしないといけないんです」
オーキンスを筆頭とした、未だに諦めずに黒竜へ攻撃している冒険者たちを一瞥し、そう言いながらキソラは近くの屋根へと飛び上がる。
だが、いくら屋根の上にいるとはいえ、この位置から黒竜の顎が見えていることから、その大きさの差がいやでも分かるものだろう。
とりあえず、黒竜と対応するのに、一人ではどうにもならないので、キソラは四聖精霊たちに呼び掛ける。
「こちら、キソラ。タイミングが良かろうが悪かろうが、そのまま聞くように」
そう前置きしつつ、キソラは告げる。
「今から黒竜を――迷宮への送還か退治をしようと思う」
☆★☆
「あー……やっぱり、空間魔導師と四聖精霊たちの相手は難しかったか」
そう呟くのは、帝国師団長が一人、アルヴィス・ブラストレイドである。
キソラがあの場から去った後、残されたのは空間魔導師であるリックスとイフリート以外の四聖精霊たち、アルヴィスとニールら率いる帝国軍だけだった。
ただ、その後に何が起きたのかは分からない。気づいたら帝国軍全員、大地に叩きつけられていた。
空から地上まで、かなり高さがあったとは思うが、いつの間に地上にいたのだろうか――いや、落とされたのだろうか。
「命までを取ると、あいつがうるさいからな。その命までは奪わずにいてやる」
――だから、無駄にするなよ。
近くの建物の屋根の上へと降り立ち、アルヴィスたちを見下ろしながら、リックスはそう告げる。
「敵に情けを掛けられるとか、俺たちのプライドがズタズタなんだけど」
『命があり、話せるだけの余裕があることに感謝することだ。もし、主殿がこの場におり、お主らが瀕死の状態であれば、有無を言わずに治療させられることになったかもしれんのだが……どちらの方が、よりダメージが大きいのかの』
ニールの言葉に、ノームがそう返す。
確かに、瀕死に追い込んでくるほどの、戦った相手から治療されたなんて、何かに負けた気はするが。
(それでも……)
やはり甘いと思う。いくら空間魔導師や四聖精霊とはいえ、いつか復讐されるとは思わないのだろうか。
「復讐なら、俺たちは甘んじて受けてやる。そして、見事返り討ちにしてやるよ」
まるで心を読まれたかのようなタイミングで返されるが、それは世界最強と言われる魔導師だから言えることなのか。
「なぁ、俺はオーキンスたちと合流するが良いよな? お前らにこの場を任せても」
『えー。どうせならイフリートが戻ってくるまで、こっちに居てよ』
とりあえず、自分がこの場から離れても大丈夫だろうと判断したリックスがその旨を尋ねるが、シルフィードが拒否する。
「それって、キソラが戻ってくるまで待てってことかよ」
『治療と修復、誰がやっているのか、忘れてはおらぬよな?』
ノームからシルフィードへの援護射撃に、リックスは顔を引きつらせた。
一応、空間魔導師の中にも立ち位置や担当は決まっているので、それを考えるとリックスは文句は言えない。
「分かったよ! あの二人が戻るまでは、ここで待機しといてやる!」
半分自棄気味にリックスが叫ぶ。
そんな彼ににやりと笑みを浮かべるシルフィード。
そんな彼らのやり取りを見ていた帝国軍だが、唐突に何かを感じ取ったらしく、周囲に目を向ける四聖精霊たちに首を傾げる。
「レイ?」
近くにいた魔導師団長に声を掛ける。
「嫌な『気』がする」
「『気』?」
どこか嫌そうな顔をしているレイでさえ気づいているのだから、空間魔導師であるリックスが気づいてないはずがない。
彼に目を向ければ、四聖精霊たちにさっさと行け、と手で示していた。
そんな四聖たちを見送り、現在に至るわけなのだが。
「……」
アルヴィスはここまでの経緯を思い出し、息を吐いた。
エドワードたちが居るはずの方から見える黒い何かに、アルヴィスはリックスに目を向ける。
「お前は行かないのか」
「ん? 別に俺は必要ねぇだろ。お前らは知らないだろうが、向こうにはかなりの戦力があるからなぁ」
あちらに居るのは、オーキンスやリリゼールだけではない。人類最強とまで言われているギルド長や今向かわせた四聖精霊たちもいる。
少なくとも、戻ってくるまでの時間稼ぎにはなるはずだ。
(ん?)
そこでリックスはふと気づく。
(思ったよりも早かったな)
てっきり、もう少し掛かるかと思っていたが、どうやら終わらせてきたらしい。
(それとも、この気に感づいて戻ってきたのか)
本当の所は分からないが、頑張ったということで、後でたくさん労ってやろうとリックスは思った。
☆★☆
『んな無茶な!』
黒竜の咆哮に耳を塞ぎつつ、突如連絡してきたキソラから聞かされた内容に、シルフィードが思わずそう告げる。
シルフィードがやっているのは、黒竜から放たれるブレスの軌道を逸らすことで、基本的には空中で自然消滅させている。
『倒すのはともかく、管理下外の送還は……』
管理下の迷宮やダンジョンへ送還するならまだ良い。魔力消費も少なくて済むから。
だが、管理下以外の迷宮やダンジョンへ守護者たちを送還する際、普通に送還するよりも魔力消費が洒落にならない。
キソラの母親であり、先代迷宮管理者も魔力残量を考えて使用していたというのに、先程まで魔法を使いまくっていたキソラに、管理下外へ送還できるはずの魔力があるとは思えない。
『下手をすれば魔欠状態になり、少しの間、魔法すら使うことも出来なくなる可能性もあるのに、それでも行うと?』
静かに尋ねるウンディーネの声に、どうやら懸念していたのは自分だけではないと知り、シルフィードはキソラからの返答を待つ。
『――するよ』
(ああ、やっぱり)
予想通りの返答に、シルフィードはロングマフラーを口元まで引き上げる。
『ならさ、こうしよう? もし、キソラちゃんが魔欠になったら、学院だろうがどこだろうがボクたちがサポートするって』
文句は言わせない、とシルフィードが言えば、「ふふっ」と小さな笑い声が聞こえた。
『うん、それでいいよ』
(ああもう、この子は――)
だから、自分たちはこの子から目が離せないのだ。
『やれやれ、それじゃやるか。主、魔欠を防ぐために、念のため解放許可をくれ』
「うん、いいよ」
イフリートの要請に、これまた、あっさりと許可を出される。
けど、全員分かっている。
今この場に集まったことで、顔も表情も、その身に纏う装束すらも。
「今からやるのはただ一つ。黒竜による被害が、もうこれ以上広がらないようにするよ」
それは、迷宮管理者としての矜持か否か。
『うん』
『了解』
『ああ』
『全員、無理だけはしないようにの』
各々が返事をしたことで、キソラと四聖精霊vs黒竜の戦いは本格的に開始された。
空中に展開されていた多くの魔法陣はいつの間にか無くなっており、その代わりとばかりに現れた存在に、誰かが叫ぶ。
「何で竜がこんなところにいるんだよ!」
それは誰もが思った疑問だが、それに答えられる者はここにはいない。
「っ、まだ動ける者は一般市民のサポートを! ボクたちがあの黒竜の相手をしつつ、時間稼ぎをする!」
一瞬早く硬直から解けたリリゼールの言葉に、同じように固まっていた者たちが少しずつ動き出す。
「おい、リリ……」
「文句は後で引き受ける」
何か言いたそうなオーキンスを遮るように、リリゼールが亜空間から指の部分がない手袋を取り出し、装着しながら言う。
「守るのは、ボクの専門だ」
そして、黒竜に目を向けるリリゼールに呼応するかのように、黒竜の咆哮がその場に響いた。
☆★☆
「何で……」
近づくにつれて最前線に居ながらも感じた気配と聞こえてきた咆哮に、キソラは目を見開くも、歯を食いしばり、悔しそうな表情を滲ませる。
『とにかく急ごう。シルフィードたちも心配だ』
そう話しかけてくるイフリートは、現在“精霊憑依”中であり、転移で国内に移動した後、“精霊憑依”して移動した方が早いのではないか、となったのだ。
「っ、」
だが次の瞬間、反射的に体が動いていた。
嫌な予感しかしない。
(あれはヤバい! みんなっ……!)
シルフィードの素早さなど目ではないほどの素早さで、キソラはその場に向かう。
そして、少しずつ近づくにつれて彼女が見たのは……
「なっ……」
崩壊した建物と街、その原因であろう黒い竜――ドラゴン。
その足元には、冒険者や帝国騎士が倒れていた。
“精霊憑依”を解除したイフリートも、何でこんな奴がこんな所に、と言いたげな表情で黒竜を見ていた。
「っ、この――」
相棒の姿を杖から剣に変え、屋根伝いにドラゴンに向かって斬りつけるのだが――
(浅い!)
上手く味方側へと着地するキソラだが、その表情は厳しいままだった。
「キソラさん!?」
彼女が来たことに最初に気づいたのは、ギルド長だった。
「ご無事で何よりです、ギルド長」
口ではそう言いながらも、目はドラゴンに向けられたままである。
「ドラゴンを相手にするなんて、かなり無茶するね」
「この場にいる以上、あのドラゴンだけは、どうしても倒さないといけないので」
キソラの言葉に、ギルド長は尋ねる。
「知ってるの? あのドラゴンのこと」
「はい。名前はデス・イーヴィル・ドラゴン。別名、死を招く竜。以前、迷宮管理者同士で組んで攻略した塔の七十五階層にいたボスで、即死能力持ちです」
あの時は場所が迷宮内だったから良かったが、今は違う。これが迷宮内なら助かったかも知れないが、今は迷宮外であるからこそ、現時点で予想されるであろうドラゴンの能力は洒落にならない。
しかも、あれから数年が経っている。現時点でドラゴンの持つ能力の増減など、今のキソラに分かるはずがない。
「即死って……」
顔を引きつらせるギルド長。
「ですから、被害が広がる前にどうにかしないといけないんです」
オーキンスを筆頭とした、未だに諦めずに黒竜へ攻撃している冒険者たちを一瞥し、そう言いながらキソラは近くの屋根へと飛び上がる。
だが、いくら屋根の上にいるとはいえ、この位置から黒竜の顎が見えていることから、その大きさの差がいやでも分かるものだろう。
とりあえず、黒竜と対応するのに、一人ではどうにもならないので、キソラは四聖精霊たちに呼び掛ける。
「こちら、キソラ。タイミングが良かろうが悪かろうが、そのまま聞くように」
そう前置きしつつ、キソラは告げる。
「今から黒竜を――迷宮への送還か退治をしようと思う」
☆★☆
「あー……やっぱり、空間魔導師と四聖精霊たちの相手は難しかったか」
そう呟くのは、帝国師団長が一人、アルヴィス・ブラストレイドである。
キソラがあの場から去った後、残されたのは空間魔導師であるリックスとイフリート以外の四聖精霊たち、アルヴィスとニールら率いる帝国軍だけだった。
ただ、その後に何が起きたのかは分からない。気づいたら帝国軍全員、大地に叩きつけられていた。
空から地上まで、かなり高さがあったとは思うが、いつの間に地上にいたのだろうか――いや、落とされたのだろうか。
「命までを取ると、あいつがうるさいからな。その命までは奪わずにいてやる」
――だから、無駄にするなよ。
近くの建物の屋根の上へと降り立ち、アルヴィスたちを見下ろしながら、リックスはそう告げる。
「敵に情けを掛けられるとか、俺たちのプライドがズタズタなんだけど」
『命があり、話せるだけの余裕があることに感謝することだ。もし、主殿がこの場におり、お主らが瀕死の状態であれば、有無を言わずに治療させられることになったかもしれんのだが……どちらの方が、よりダメージが大きいのかの』
ニールの言葉に、ノームがそう返す。
確かに、瀕死に追い込んでくるほどの、戦った相手から治療されたなんて、何かに負けた気はするが。
(それでも……)
やはり甘いと思う。いくら空間魔導師や四聖精霊とはいえ、いつか復讐されるとは思わないのだろうか。
「復讐なら、俺たちは甘んじて受けてやる。そして、見事返り討ちにしてやるよ」
まるで心を読まれたかのようなタイミングで返されるが、それは世界最強と言われる魔導師だから言えることなのか。
「なぁ、俺はオーキンスたちと合流するが良いよな? お前らにこの場を任せても」
『えー。どうせならイフリートが戻ってくるまで、こっちに居てよ』
とりあえず、自分がこの場から離れても大丈夫だろうと判断したリックスがその旨を尋ねるが、シルフィードが拒否する。
「それって、キソラが戻ってくるまで待てってことかよ」
『治療と修復、誰がやっているのか、忘れてはおらぬよな?』
ノームからシルフィードへの援護射撃に、リックスは顔を引きつらせた。
一応、空間魔導師の中にも立ち位置や担当は決まっているので、それを考えるとリックスは文句は言えない。
「分かったよ! あの二人が戻るまでは、ここで待機しといてやる!」
半分自棄気味にリックスが叫ぶ。
そんな彼ににやりと笑みを浮かべるシルフィード。
そんな彼らのやり取りを見ていた帝国軍だが、唐突に何かを感じ取ったらしく、周囲に目を向ける四聖精霊たちに首を傾げる。
「レイ?」
近くにいた魔導師団長に声を掛ける。
「嫌な『気』がする」
「『気』?」
どこか嫌そうな顔をしているレイでさえ気づいているのだから、空間魔導師であるリックスが気づいてないはずがない。
彼に目を向ければ、四聖精霊たちにさっさと行け、と手で示していた。
そんな四聖たちを見送り、現在に至るわけなのだが。
「……」
アルヴィスはここまでの経緯を思い出し、息を吐いた。
エドワードたちが居るはずの方から見える黒い何かに、アルヴィスはリックスに目を向ける。
「お前は行かないのか」
「ん? 別に俺は必要ねぇだろ。お前らは知らないだろうが、向こうにはかなりの戦力があるからなぁ」
あちらに居るのは、オーキンスやリリゼールだけではない。人類最強とまで言われているギルド長や今向かわせた四聖精霊たちもいる。
少なくとも、戻ってくるまでの時間稼ぎにはなるはずだ。
(ん?)
そこでリックスはふと気づく。
(思ったよりも早かったな)
てっきり、もう少し掛かるかと思っていたが、どうやら終わらせてきたらしい。
(それとも、この気に感づいて戻ってきたのか)
本当の所は分からないが、頑張ったということで、後でたくさん労ってやろうとリックスは思った。
☆★☆
『んな無茶な!』
黒竜の咆哮に耳を塞ぎつつ、突如連絡してきたキソラから聞かされた内容に、シルフィードが思わずそう告げる。
シルフィードがやっているのは、黒竜から放たれるブレスの軌道を逸らすことで、基本的には空中で自然消滅させている。
『倒すのはともかく、管理下外の送還は……』
管理下の迷宮やダンジョンへ送還するならまだ良い。魔力消費も少なくて済むから。
だが、管理下以外の迷宮やダンジョンへ守護者たちを送還する際、普通に送還するよりも魔力消費が洒落にならない。
キソラの母親であり、先代迷宮管理者も魔力残量を考えて使用していたというのに、先程まで魔法を使いまくっていたキソラに、管理下外へ送還できるはずの魔力があるとは思えない。
『下手をすれば魔欠状態になり、少しの間、魔法すら使うことも出来なくなる可能性もあるのに、それでも行うと?』
静かに尋ねるウンディーネの声に、どうやら懸念していたのは自分だけではないと知り、シルフィードはキソラからの返答を待つ。
『――するよ』
(ああ、やっぱり)
予想通りの返答に、シルフィードはロングマフラーを口元まで引き上げる。
『ならさ、こうしよう? もし、キソラちゃんが魔欠になったら、学院だろうがどこだろうがボクたちがサポートするって』
文句は言わせない、とシルフィードが言えば、「ふふっ」と小さな笑い声が聞こえた。
『うん、それでいいよ』
(ああもう、この子は――)
だから、自分たちはこの子から目が離せないのだ。
『やれやれ、それじゃやるか。主、魔欠を防ぐために、念のため解放許可をくれ』
「うん、いいよ」
イフリートの要請に、これまた、あっさりと許可を出される。
けど、全員分かっている。
今この場に集まったことで、顔も表情も、その身に纏う装束すらも。
「今からやるのはただ一つ。黒竜による被害が、もうこれ以上広がらないようにするよ」
それは、迷宮管理者としての矜持か否か。
『うん』
『了解』
『ああ』
『全員、無理だけはしないようにの』
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