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第二章、戦争

第四十三話:ギルド会議Ⅳ(定めた方向性は)

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 その後は今までの逸れっぷりが嘘かのように、不思議と会議はスムーズに進んだ。
 フィアーレたち魔導師ギルド側ではキソラの言った通り、ノーブルの我が儘を視野に入れながら話し合いが進められていき、ギルド長たち冒険者ギルド(とりあえず、そう纏めることにした)側も話し合いを進めていった。

「さて、誰のギルドがノーブルあいつの所に向かわせるか、か」

 レグルスが溜め息混じりに告げ、魔導師ギルド組を一瞥する。

「僕は獣人とドワーフの所は嫌です」

 口を開けば断固拒否状態のノーブルに、溜め息を吐くフィアーレたち。

「レグルスの所もガルシアの所も駄目なら、お前さんは人間族あいつのとこだな」

 やれやれと言いたげに、ライトニングがそう告げる。

「じゃあ、私はガルシアさんのところへ向かわせることにします」
「なら、うちはレグルスのとこか」

 自ら申し出たフィアーレに、ライトニングもそう返す。

「じゃあ、こっちは受け持ってくれる分、防衛範囲を広げることにするよ」

 ラグナの言葉に頷くライトニングとフィアーレ。
 キソラは、といえば、面々の話を聞きながら、決まったことを少しずつ纏めていく。

「ギルド長。魔導師ギルド組は決まったみたいです」
「え、そうなの?」

 キソラはそれに頷くと、告げる。

「うちの所にノーブルさんのギルド、ガルシアさんの所にフィアーレさんのギルド、レグルスさんの所に精霊長様のギルドが来るみたいです」
「あの坊主は?」
「ラグナさんの所は、防衛範囲を拡大してくれるみたいです」

 キソラの返事を受け、ふむ、と三人は思案する。

「じゃあ、こっちは逆でいいですよね?」
「そうなるだろ」
「じゃなければ、またヒステリーを起こしかねん」

 確認するギルド長に対し、レグルスとガルシアがそう返す。
 ノーブルに関しては今更だが、間違ってはいないので、キソラを含めた面々は肯定も否定もしない。

「精霊長様、魔導師ギルドへ向かわせるギルドがそれぞれ決まりました」
「ん、そうか」
「それで、どんな組み合わせになったんですか?」

 えっと、とキソラは告げる。

「うちとノーブルさんの所、レグルスさんと精霊長様の所、ガルシアさんとフィアーレさんの所がそれぞれペアとなってますね」
「わー、僕だけハブられたー」

 わざとらしく泣き真似をするラグナに、「貴方はその分、防衛を頑張ってください」とぞんざいに返すキソラ。

「え、まさか、今励ましてくれたの? ねぇ、励ましてくれたの?」
「いや、今のは励ましたというよりは……」

 慰めたという方が近い気がするが、分かっててやってる節のあるラグナに、フィアーレは苦笑した。

「では次に、防衛範囲についてですね。ラグナさんが防衛範囲を広げてくれる以上、精霊長様たちも広げられると思っても構わないんですよね?」
「ああ。チームごとに位置させれば、何とかなるだろう」
「我がギルドも、そのつもりです。ライトニングさんたちと共通のチームを作れば、範囲は広がるかと」

 キソラの問いに、ライトニングとフィアーレがそう返す。

「だったら、いくつかの合同チームを作るか?」
「仮に合同チームを作って、範囲を広げたとして……それでも、人数制限がある以上、本拠地を離れるのはあまり誉められた手ではありません」

 キソラの出していた国内地図に、合同チーム編成の場合の範囲が表示されるが、どうにもラグナ・ノーブルを除く各本拠地が手薄になる。

「しかも、前線に出るであろう者たちへの援軍や食料、物資関係も計算に入れなくてはいけません。上のことだから考えてはいるんでしょうが、私たちの分も、となれば……」
「何か、次から次へと問題が出てくるよねー」

 ギルド長の言い分に、ラグナがやれやれと言いたげに、息を吐く。

「……なら、通してみますか?」
「キソラさん?」

 何を言い出すんですか、とギルド長が不思議そうに目を向ける。

「陛下に話を通してみますか? この後の残り時間次第では、登城するつもりなので」
「だがそれは、お前さんにとって、一種の賭けだよな」

 レグルスの確認に、そうなりますね、とキソラは頷く。

「まあ、防衛範囲の件とかの確認を含めて、空間魔導師として行くつもりですし、『内部防衛は各ギルドの長に頼んでおきます・・・・・・・』と言うつもりです」
「いや、さすがに国王陛下相手に嘘つかなくても……」
「嘘も方便。一々うるさい貴族たちが中には居るんだし、変に目を付けられたら、さっき連絡があった通り、利用されかねないよ?」

 キソラが登城し、話す予定の内容を言えば、そこまでしなくてもとギルド長が返すものの、時には嘘をつく必要もあるのだとラグナが告げる。

「まあ、一貴族が嬢ちゃんをどうこうできるわけ無いし、そもそも保護者三人が黙ってないだろ」

 ライトニングの言葉に、保護者の一人であるギルド長に面々が目を向ける。

「な、何ですかっ……大体、私たちよりも先にノークくんが暴れ出します」
「あー……」
「確かに……」

 ギルド長の言い分に、思わず納得するノーブル以外のギルド長とギルドマスターたち。
 キソラがノークを大切に思っているように、ノークもキソラを大切に思っているのだ。そのため、キソラに何かあれば、一番最初に飛び出しそうなのは、ノークだというのも予想が付く。

「では、陛下への件については、彼女に一任しておくことにしましょう」

 上手く誤魔化せますよね、とフィアーレに視線で問われ、困った表情をしながらも頷くキソラ。

「俺たちはどうせ口出し出来なきゃ、サポートやフォローすらも出来ねぇからな」

 しっかりやれよ、とレグルスが暗に告げれば、

「分かってます。お気持ちだけ受け取っておきますね」

 と、キソラは返した。

「それにしても……よくよく考えたら、戦争なんてしていれば、次第に攻撃力と防御力は下がるし、体力・魔力に道具類もいつか底を突くんですよね」
「その辺は戦争に限らず、迷宮やダンジョン、モンスターとの戦闘も同じだよね」

 微妙にだが、再び逸れだしたのを見て、国内地図に目を向けながら、ふと思ったことを口にするキソラに、ギルド長が同意しながら、そう付け加える。

「そこでです。帝国あちらさんから援軍が来られても迷惑だし、私の力をフルに使おうと思います」
「え゛っ」

 キソラの宣言にも聞こえる言葉に、面々は思わず変な声を上げた。

「フィールドが上空の場合は、私と四聖精霊メインで、空からの侵入組を撃退します」
「地の場合は?」
「皆さんでお願いします」

 暗にそこまで押しつけないでください、とキソラは返す。

「でも、国全体の結界と迷宮やダンジョン用の結界、迷宮やダンジョンの維持に四聖精霊たちに対する魔力供給……キソラさん、正直魔力持つの?」

 心配そうなギルド長に、それを聞いたフィアーレも心配そうな目を向け、ライトニングは訝る。

「問題ありません。制御装置をいくつか外したり、壊せば余裕です」
「うん、本当に余裕そうだね。いくつ壊すのかは気になるけど」

 とはいえ、キソラの制御装置はアクセサリーや指輪の宝石みたいなものばかりで、外そうと思えば外せ、壊そうとすれば簡単に壊れるものばかりである。

「ちょい待ち。嬢ちゃん、あいつらは魔力供給なんて必要ないはずだ。何でそんなことしている」
「迷宮維持のためです。四聖精霊の面々は、迷宮の守護者でもあります。現時点で私の管理下の迷宮及びダンジョンの守護者・ボスには、私の魔力供給が行われているんですよ」

 これは迷宮管理者となった者たちが行う代々のことなので、キソラとて無視するわけにはいかないのだ。

「四聖精霊たちだけを特別扱いするわけにはいきません。もし、そんなことをしたら他の守護者たちから暴動が起きます」

 一対多ですよ? と、さすがのキソラでも、大勢いる守護者やボスを相手にはしたくない。
 空間魔法使っても勝てる気がしないのは、守護者たちの方が長生きで無駄に経験があるからなのだろうか。

「で、話を戻しますが、私の力をフルに使う、というのは空間魔導師としてではなく、迷宮管理者としての力をフルに使うという意味です」
「つまり、迷宮の守護者やモンスターたちを使うということか」

 レグルスの言葉に、キソラは首肯した。

「それ、職権乱用じゃない?」
「今更何言ってるんですか。今更」
「大事なことでもないから、二回も言わなくていいよ……」

 何だか、立場が代わってきている気がする。
 思わずそう感じるギルド長。
 いや、実際はキソラの方が地位やら立場やらを考慮すれば上なのだが、キソラ本人がその扱いをほとんど拒否している上に(それでも、利用するときは利用するが)、ギルド長を含めた三人を親同然に接しているため、彼女たち兄妹に対するその感覚が薄くなっているのだ。

「じゃあ次に、対空中戦要員である四聖の配置場所です」
「ああ、そうだな。問題は……イフリートか」

 キソラの言葉に同意しつつ、ライトニングが問題になるであろう四聖精霊の名前を上げる。

「火の四聖精霊ですか」
「下手に配置して、二次災害を起こされても困るからな」

 言わずもがな、二次災害というのは火事のことである。

「上空とはいえ、小さな火が大きな火に化けることはあるからな」

 ガルシアの妙に説得力のある言い方に、何故か納得する面々。
 なお、ガルシアがそう言ったのは経験からであり、新人鍛冶師の何人かは火の温度などを間違ったりして、暴発させている。

「とりあえず、大森林付近はノーム当たりに命じておきます」
「ああ。あいつは森や地が近ければ、強いからな」

 ライトニングが納得するように頷く。

「やっぱり、ウンディーネは水辺の方が良いですかね?」
「む……」

 国内地図を見ながら、ライトニングが思案する。
 火災発生の心配を無くしたいのなら、イフリートを水辺あたりに配置させるべきなのだが、攻撃も防御も全力で行わさせるのなら、ウンディーネの方が適任である。

「では、我々の所に来てもらいましょう」
「妖精の水か」
「はい。そうすれば、ラグナくんたちの近くにある水場に、向かわせることが出来ますから」

 なるほど、と納得するキソラとライトニング。

「後はシルフィードですね」
「ああ。特にシルフィードは空中ほど得意としているフィールドは無いからな」
「じゃあ、精霊長様とガルシアさんのところへ向かわせます」

 そして、了解の意を示す面々。

「ただ、無理無茶だけはするなよ? 無理だと判断したら、供給は止めて、あいつらに切り替えさせろ」
「分かってますよ」

 それでも心配そうなライトニングとギルド長、フィアーレに、キソラは信用無いなぁ、と思いながら苦笑いする。

「それでは、これにてギルド会議を終了させてもらいます。他に何か言いたいことなど無ければ、解散とさせてもらいます」

 キソラの確認に、ギルド長とギルドマスターの面々は、首を横に振ったりすることで、特に無いことを示す。

「それでは、皆さん。長時間、ご苦労様でした」
「ん、ご苦労さん」
「ご苦労様です」
「初議長、ご苦労でした」
「ご苦労」
「ご苦労様でした」
「ご苦労さん」
「初議長、ご苦労様ー」

 キソラの労いに対し、レグルスにフィアーレ、ギルド長にライトニング、ノーブル、ガルシア、ラグナの順で、面々は労い返す。

「はい。では、私はお先に失礼します」

 面々の労いを受け取り、キソラは一足先に議場を後にした。
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