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第一章、始まり
第二十九話:墓参り
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「はぁ!? 休み!?」
少しばかりキソラに用があったアキトが教室に顔を出せば、彼女の友人たちに休んでいることを告げられ、思わず叫ぶような言い方をする。
「そうだよ」
「休暇届が出てる」
普通、それだけでは何のことかは分からないが、アキトには分かったらしい。
「あー、そういや今日だったか」
「前から聞こうと思ってたけど、何のこと?」
しまったな、と言いたげなアキトに、今来たらしいアリシアが彼の背後から尋ねる。
それに対してあまり驚きもせず、アキトは答える。
「キソラたち――エターナル兄妹の、両親の命日」
あの二人にとって、その時から今日に至るまで、兄妹二人きりの生活を送るための最初の分岐点。
二人が互いを守ろうとし、護ろうとする、全ての始まり。
☆★☆
ちゅんちゅんと鳥が囀り、白い雲が青空をゆっくりと流れていく。
「うん、晴れて良かった」
「だな。昨日と一昨日の大雨が嘘みたいだ」
花とお供え物を手に、キソラとノークは両親の眠る場所へと向かっていた。
時期が時期だけに、大雨に見舞われ、このままでは墓参りも不可能ではないかと危ぶんだが、朝起きて外を見てみれば、何事も無かったかのように太陽が姿を見せていた。
「でも、こうして二人での墓参りも来年が最後なんだよな」
「最後? 何で?」
「何で、ってお前、来年は受験生だろ」
確かにキソラの場合、来年は受験生になり、その後は王城での就職か、冒険者となるか、旅に出るか……など、進路を決めなくてはいけない。
ノークの時みたいに、騎士団や神殿、ギルドなどから何か言われるかもしれないが、相手が権力を行使してくれば、キソラとしても空間魔導師と迷宮管理者という権限を使うつもりではいる。
「まあ、そうなんだけど……本当にどうしよっかなぁ」
他の人たちとは違い、キソラにはそれなりに選ぶことが出来る。
収入を考えてみれば、王城か神殿方面が良いのだろうが、もちろんそこには政治や貴族たちの腹の探り合いなども関わり、何だかんだで拘束されるだろう。
その反面、ほとんどが自由行動な冒険者か旅人になるという選択肢は、収入方面が不安定となる(そもそも迷宮管理者という仕事も不安定だが)。
いっそのこと大学に進学しても、とも思うが、キソラの場合、基本的にノークの仕送りとギルド長、学院長、王弟の三人による支援金もある。だが、いつまでもそれに頼るわけに行かないのも事実である。
「まあ、ゆっくり考えろ」
「うん、そうする」
そう頷くキソラだが、自身が卒業した場合、寮にはいられなくなるため、アークの拠点も新たに探さなくてはいけない。
結局、やることだけはたくさんあるのだ。
「お、見えてきたな」
ノークの言葉で見渡せば、見覚えのある白が多く見え始める。
「おい、キソラ! ……って、まあいいか」
思わず走り出したキソラに声を掛けるノークだが、やれやれと肩を竦めながらも歩いていく。
(お父さん、お母さん。また今年も二人で来たよ)
花とお供え物を置き、二人で目を閉じ、手を合わせる。
墓地とはいえ、二人の両親の墓の下には遺骨も何もない。あるとすれば、亡くなったとされる迷宮にだろう。
それでも形だけは、とギルド長たちが二人のためにと墓を立てた。まるで、いつか忘れてしまうかもしれない友人たちが、この世界にきちんと存在していたことを示すかのように。
『っ、お父さん、お母さん!』
迷宮の罠に引っかかり、両親は迷宮の底へと落ちていく。
あの時に見たのは、夢なのか現実なのか。
キソラには分からないが、両親が亡くなったのは事実であり、気になることがあるのも、また事実である。
仮にも迷宮管理者をしていた母である。そんな人が、父も一緒だったとはいえ、予想していたであろう罠に掛かるだろうか? そして、あの迷宮は母にとって、未知の迷宮だったのだろうか。
(お願い。今度の調査、みんなを守って)
アークのことや新たな友人たちのことも報告したかったが、先にギルド長も心配している見慣れぬ迷宮への調査があることを報告する。
願わくば、調査が上手く行き、全員揃って帰還できること。
(あと、私ね――……)
最後にある報告をしてから目を開き、辺りを見回していれば、ノークも報告が済んだのか、目を開くと、そろそろ行くか? と確認してくる。
「うん。いろいろ報告出来たし」
「なら、行くか」
そのまま二人は帰るために歩き出す。
(迷宮のこと、兄さんに言わない方がいいよね)
反対する上に、絶対に行かせてくれないだろう。または、行かせはするものの付いてくる可能性もある。
ノークのことを思うなら、未知の迷宮へ行かなければいいのだ。
(でも――)
話を聞いた以上、このまま未知の迷宮を放置しておくわけにはいかない。
(それでも――)
やはり言うべきであろうか?
(どうする?)
キソラは自問自答を繰り返す。
「っ、」
ああもう、とキソラは思う。
ギルドで行くと言ってしまった。今更変更など出来るわけがない。
いっそのこと開き直るか? とも思うが、それはそれでキソラを悩ませる。
「うーん……」
「何、どうした」
ずっと隣で唸っていたためか、ノークの目が何とも言えなさそうな感情を示しながらも、彼は尋ねる。
「ああ、いや、その……」
さて、これは迷宮の件を言うチャンスである。
ノークがどんな風に返してこようと、キソラとしては、迷宮管理者として行かなくてはならない(と思い込むことにした)。
そして、軽く息を整え、口を開く。
「あの、ね、実はね……」
季節は初夏を過ぎて、少しずつ夏に近づこうとしている。これからどんどん暑くなってくるだろう。
若葉の生える木々の枝が風で揺れる中で、キソラから告げられたその内容に、ノークは大きく目を見開いた。
少しばかりキソラに用があったアキトが教室に顔を出せば、彼女の友人たちに休んでいることを告げられ、思わず叫ぶような言い方をする。
「そうだよ」
「休暇届が出てる」
普通、それだけでは何のことかは分からないが、アキトには分かったらしい。
「あー、そういや今日だったか」
「前から聞こうと思ってたけど、何のこと?」
しまったな、と言いたげなアキトに、今来たらしいアリシアが彼の背後から尋ねる。
それに対してあまり驚きもせず、アキトは答える。
「キソラたち――エターナル兄妹の、両親の命日」
あの二人にとって、その時から今日に至るまで、兄妹二人きりの生活を送るための最初の分岐点。
二人が互いを守ろうとし、護ろうとする、全ての始まり。
☆★☆
ちゅんちゅんと鳥が囀り、白い雲が青空をゆっくりと流れていく。
「うん、晴れて良かった」
「だな。昨日と一昨日の大雨が嘘みたいだ」
花とお供え物を手に、キソラとノークは両親の眠る場所へと向かっていた。
時期が時期だけに、大雨に見舞われ、このままでは墓参りも不可能ではないかと危ぶんだが、朝起きて外を見てみれば、何事も無かったかのように太陽が姿を見せていた。
「でも、こうして二人での墓参りも来年が最後なんだよな」
「最後? 何で?」
「何で、ってお前、来年は受験生だろ」
確かにキソラの場合、来年は受験生になり、その後は王城での就職か、冒険者となるか、旅に出るか……など、進路を決めなくてはいけない。
ノークの時みたいに、騎士団や神殿、ギルドなどから何か言われるかもしれないが、相手が権力を行使してくれば、キソラとしても空間魔導師と迷宮管理者という権限を使うつもりではいる。
「まあ、そうなんだけど……本当にどうしよっかなぁ」
他の人たちとは違い、キソラにはそれなりに選ぶことが出来る。
収入を考えてみれば、王城か神殿方面が良いのだろうが、もちろんそこには政治や貴族たちの腹の探り合いなども関わり、何だかんだで拘束されるだろう。
その反面、ほとんどが自由行動な冒険者か旅人になるという選択肢は、収入方面が不安定となる(そもそも迷宮管理者という仕事も不安定だが)。
いっそのこと大学に進学しても、とも思うが、キソラの場合、基本的にノークの仕送りとギルド長、学院長、王弟の三人による支援金もある。だが、いつまでもそれに頼るわけに行かないのも事実である。
「まあ、ゆっくり考えろ」
「うん、そうする」
そう頷くキソラだが、自身が卒業した場合、寮にはいられなくなるため、アークの拠点も新たに探さなくてはいけない。
結局、やることだけはたくさんあるのだ。
「お、見えてきたな」
ノークの言葉で見渡せば、見覚えのある白が多く見え始める。
「おい、キソラ! ……って、まあいいか」
思わず走り出したキソラに声を掛けるノークだが、やれやれと肩を竦めながらも歩いていく。
(お父さん、お母さん。また今年も二人で来たよ)
花とお供え物を置き、二人で目を閉じ、手を合わせる。
墓地とはいえ、二人の両親の墓の下には遺骨も何もない。あるとすれば、亡くなったとされる迷宮にだろう。
それでも形だけは、とギルド長たちが二人のためにと墓を立てた。まるで、いつか忘れてしまうかもしれない友人たちが、この世界にきちんと存在していたことを示すかのように。
『っ、お父さん、お母さん!』
迷宮の罠に引っかかり、両親は迷宮の底へと落ちていく。
あの時に見たのは、夢なのか現実なのか。
キソラには分からないが、両親が亡くなったのは事実であり、気になることがあるのも、また事実である。
仮にも迷宮管理者をしていた母である。そんな人が、父も一緒だったとはいえ、予想していたであろう罠に掛かるだろうか? そして、あの迷宮は母にとって、未知の迷宮だったのだろうか。
(お願い。今度の調査、みんなを守って)
アークのことや新たな友人たちのことも報告したかったが、先にギルド長も心配している見慣れぬ迷宮への調査があることを報告する。
願わくば、調査が上手く行き、全員揃って帰還できること。
(あと、私ね――……)
最後にある報告をしてから目を開き、辺りを見回していれば、ノークも報告が済んだのか、目を開くと、そろそろ行くか? と確認してくる。
「うん。いろいろ報告出来たし」
「なら、行くか」
そのまま二人は帰るために歩き出す。
(迷宮のこと、兄さんに言わない方がいいよね)
反対する上に、絶対に行かせてくれないだろう。または、行かせはするものの付いてくる可能性もある。
ノークのことを思うなら、未知の迷宮へ行かなければいいのだ。
(でも――)
話を聞いた以上、このまま未知の迷宮を放置しておくわけにはいかない。
(それでも――)
やはり言うべきであろうか?
(どうする?)
キソラは自問自答を繰り返す。
「っ、」
ああもう、とキソラは思う。
ギルドで行くと言ってしまった。今更変更など出来るわけがない。
いっそのこと開き直るか? とも思うが、それはそれでキソラを悩ませる。
「うーん……」
「何、どうした」
ずっと隣で唸っていたためか、ノークの目が何とも言えなさそうな感情を示しながらも、彼は尋ねる。
「ああ、いや、その……」
さて、これは迷宮の件を言うチャンスである。
ノークがどんな風に返してこようと、キソラとしては、迷宮管理者として行かなくてはならない(と思い込むことにした)。
そして、軽く息を整え、口を開く。
「あの、ね、実はね……」
季節は初夏を過ぎて、少しずつ夏に近づこうとしている。これからどんどん暑くなってくるだろう。
若葉の生える木々の枝が風で揺れる中で、キソラから告げられたその内容に、ノークは大きく目を見開いた。
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