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第1章 リラ・過去編
邂逅(カイコウ)①
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有名な貴族であるメイザース家で働いている人達は多くいます。
しかし使用人でメイザース家のもう1つの顔を知っているのは執事のロードさんと私のみ。
ロードさんは若い頃からメイザース家に仕えており、先代の時から"暗殺貴族"の仕事をサポートされていた方。
一方私はまだメイザース家に来て1年足らずの新人使用人。
何故新人の私がメイザース家の大きな秘密"暗殺貴族"について知っているのか。
まずはそのことについてのお話。
そう。それは今から約1年前のある出来事がきっかけでした。
その頃私は別のお屋敷の使用人として働いていたのです―…
【邂逅(カイコウ)】
冷たい―…
私は頬に冷たさを感じ、ゆっくりと瞳を開けた。
「ん……」
あれ…、私いつ寝たんだろう―…
ぼやけた頭で考えたが寝た記憶はない。
なんだか気だるくて体を起こせず、私は頬を床につけたまま視界を確認した。
そして目の前の靴に焦点があう。
「リラちゃん。おはよう」
ふと上から声が落ちてきて、私はその人物を確認する為頭をあげた。
「…ジェス…様…?」
まだぼんやりする頭でも、今しゃがみこんで私の顔を覗きこんでる人物が誰かは認識できた。
優しいライトグリーンの瞳に綺麗な金色の髪の毛―…
私の仕えてる屋敷の1人息子、ジェス様だ。
いつもの優しいそのジェス様の笑顔に私は一瞬ホッとした。が、すぐに自分の腕が自然な位置にないことに気づく。
そう。私の腕は後ろに回されキツく縛られていたのだ。
目の前のジェス様と自分の状態が脳内で噛み合わず私は混乱する。
「リラちゃん驚いた?」
「…ジェス様…これは一体…?」
私が困惑したままジェス様を見上げるとジェス様はニィと口を歪めた。
瞬間背中がゾクリと粟立つ。
「僕さぁ…そうゆう困った表情されちゃうと我慢できなくなるんだよねぇ」
そう言うジェス様の手にキラリと鋭利に光るものが見えた。
「っ……!」
"それ"を見た瞬間、スッと背中に冷たいものが通った気がした。
「おいおい…ジェス! まだ殺すなよ」
「ヤる事やって楽しんでからだろ?」
その声で周りに10人くらい男たちがいることに初めて気がついた。
男たちは瓦礫の山に座ってたり寄りかかってたりしてこちらを見ている。
「うるさいな。わかってるよ」
ジェス様は少し苛立った様子で男たちにそう怒鳴りつけると、パチンとナイフを2つ折りに閉じた。
「殺すって…」
「ん? リラちゃん、やっと置かれてる状況理解できた?」
ジェス様がいつも屋敷で見せる優しい笑顔で話しかける。
「じょ…冗談…なんです、よね?」
そうだ。冗談に決まっている。
ちょっと私を脅かしたくてしているに違いないんだ。
そうなんですよね?ジェス様?
私がジェス様の次の言葉を待っていると、優しい笑顔のままジェス様がゆっくりと私に顔を近づけた。
ほら、やっぱり冗談だ―
「いっ……!」
いきなり髪の毛を乱暴に掴かまれ、私の顔は上に引っ張られた。
「リラちゃんは本当に馬鹿だねぇ」
あぁ
夢であって
はやく覚めて
ジェス様は私の髪を掴んだまま薄気味悪い笑顔で語りかける。
それはいつも見ていたジェス様とはあまりにもかけ離れていて、今、目の前にいるのは全くの別人ではないかとさえ思う。いや、そうであって欲しい。
しかし私の思いを知ってか知らずか、ジェス様はいつもの優しい声音で話しかける。
「リラちゃんさぁ、ここ最近この街でおきてる連続婦女暴行殺人事件知ってるよね?」
その事件はこの街では知らない人はいない。4人被害者がでていて未だに犯人の目星が全くついてない事件だ。
私が小さく頷くとジェス様はニタァと口元を歪めて笑った。
その歪められた唇の意味を理解し、私は目を見開いた。
「ま…さか…」
「うん。そのまさかだよ」
「っ…こんなこと…お父上が悲しみます!」
私の言葉に一瞬その場は静まり返った。が、すぐに大きな笑い声が響いた。
「ククク…ジェスの親父が悲しむねぇ」
「はははっ! ありえねー!」
「本当にリラちゃんはわかってないねぇ。親父は僕が何をしてるかだいたい知ってるよ?」
「え……」
「だって困るだろ? 街中に僕の事が知れたら親父は子爵としての地位を失うんだから」
ジェス様のその言葉の意味。それは、つまり……
「こいつの親父この街の警察の上層部に賄賂渡してんだぜ」
「ジェスのお陰で俺達はヤリ放題ってわけ」
「お前ら感謝しろよ?」
ジェス様がパッと私の髪を離し、首だけを男達に向けてそう言った。
「わかってるよジェス様」
ぎゃははと男達が笑っている。私にはその声がどこか遠くで聞こえているかのように感じた。
普通の日常の世界からいきなり背中を押されて、地獄の谷に落とされた私には、その状況を現実のものとして受け入れる事ができなかったのかもしれない。
「さ、そろそろ楽しもうか? リラちゃん」
ジェス様の一言でこれから自分がされるであろう事を嫌でも想像してしまい、恐怖で体が凍りついた。
声が出ない。息が出来ない。
「あ…や……」
ジェス様の手が私に近づき、もう少しで触れるというその瞬間。
古い倉庫の大きな扉が錆び付いた音を響かせながらゆっくり開いた。
しかし使用人でメイザース家のもう1つの顔を知っているのは執事のロードさんと私のみ。
ロードさんは若い頃からメイザース家に仕えており、先代の時から"暗殺貴族"の仕事をサポートされていた方。
一方私はまだメイザース家に来て1年足らずの新人使用人。
何故新人の私がメイザース家の大きな秘密"暗殺貴族"について知っているのか。
まずはそのことについてのお話。
そう。それは今から約1年前のある出来事がきっかけでした。
その頃私は別のお屋敷の使用人として働いていたのです―…
【邂逅(カイコウ)】
冷たい―…
私は頬に冷たさを感じ、ゆっくりと瞳を開けた。
「ん……」
あれ…、私いつ寝たんだろう―…
ぼやけた頭で考えたが寝た記憶はない。
なんだか気だるくて体を起こせず、私は頬を床につけたまま視界を確認した。
そして目の前の靴に焦点があう。
「リラちゃん。おはよう」
ふと上から声が落ちてきて、私はその人物を確認する為頭をあげた。
「…ジェス…様…?」
まだぼんやりする頭でも、今しゃがみこんで私の顔を覗きこんでる人物が誰かは認識できた。
優しいライトグリーンの瞳に綺麗な金色の髪の毛―…
私の仕えてる屋敷の1人息子、ジェス様だ。
いつもの優しいそのジェス様の笑顔に私は一瞬ホッとした。が、すぐに自分の腕が自然な位置にないことに気づく。
そう。私の腕は後ろに回されキツく縛られていたのだ。
目の前のジェス様と自分の状態が脳内で噛み合わず私は混乱する。
「リラちゃん驚いた?」
「…ジェス様…これは一体…?」
私が困惑したままジェス様を見上げるとジェス様はニィと口を歪めた。
瞬間背中がゾクリと粟立つ。
「僕さぁ…そうゆう困った表情されちゃうと我慢できなくなるんだよねぇ」
そう言うジェス様の手にキラリと鋭利に光るものが見えた。
「っ……!」
"それ"を見た瞬間、スッと背中に冷たいものが通った気がした。
「おいおい…ジェス! まだ殺すなよ」
「ヤる事やって楽しんでからだろ?」
その声で周りに10人くらい男たちがいることに初めて気がついた。
男たちは瓦礫の山に座ってたり寄りかかってたりしてこちらを見ている。
「うるさいな。わかってるよ」
ジェス様は少し苛立った様子で男たちにそう怒鳴りつけると、パチンとナイフを2つ折りに閉じた。
「殺すって…」
「ん? リラちゃん、やっと置かれてる状況理解できた?」
ジェス様がいつも屋敷で見せる優しい笑顔で話しかける。
「じょ…冗談…なんです、よね?」
そうだ。冗談に決まっている。
ちょっと私を脅かしたくてしているに違いないんだ。
そうなんですよね?ジェス様?
私がジェス様の次の言葉を待っていると、優しい笑顔のままジェス様がゆっくりと私に顔を近づけた。
ほら、やっぱり冗談だ―
「いっ……!」
いきなり髪の毛を乱暴に掴かまれ、私の顔は上に引っ張られた。
「リラちゃんは本当に馬鹿だねぇ」
あぁ
夢であって
はやく覚めて
ジェス様は私の髪を掴んだまま薄気味悪い笑顔で語りかける。
それはいつも見ていたジェス様とはあまりにもかけ離れていて、今、目の前にいるのは全くの別人ではないかとさえ思う。いや、そうであって欲しい。
しかし私の思いを知ってか知らずか、ジェス様はいつもの優しい声音で話しかける。
「リラちゃんさぁ、ここ最近この街でおきてる連続婦女暴行殺人事件知ってるよね?」
その事件はこの街では知らない人はいない。4人被害者がでていて未だに犯人の目星が全くついてない事件だ。
私が小さく頷くとジェス様はニタァと口元を歪めて笑った。
その歪められた唇の意味を理解し、私は目を見開いた。
「ま…さか…」
「うん。そのまさかだよ」
「っ…こんなこと…お父上が悲しみます!」
私の言葉に一瞬その場は静まり返った。が、すぐに大きな笑い声が響いた。
「ククク…ジェスの親父が悲しむねぇ」
「はははっ! ありえねー!」
「本当にリラちゃんはわかってないねぇ。親父は僕が何をしてるかだいたい知ってるよ?」
「え……」
「だって困るだろ? 街中に僕の事が知れたら親父は子爵としての地位を失うんだから」
ジェス様のその言葉の意味。それは、つまり……
「こいつの親父この街の警察の上層部に賄賂渡してんだぜ」
「ジェスのお陰で俺達はヤリ放題ってわけ」
「お前ら感謝しろよ?」
ジェス様がパッと私の髪を離し、首だけを男達に向けてそう言った。
「わかってるよジェス様」
ぎゃははと男達が笑っている。私にはその声がどこか遠くで聞こえているかのように感じた。
普通の日常の世界からいきなり背中を押されて、地獄の谷に落とされた私には、その状況を現実のものとして受け入れる事ができなかったのかもしれない。
「さ、そろそろ楽しもうか? リラちゃん」
ジェス様の一言でこれから自分がされるであろう事を嫌でも想像してしまい、恐怖で体が凍りついた。
声が出ない。息が出来ない。
「あ…や……」
ジェス様の手が私に近づき、もう少しで触れるというその瞬間。
古い倉庫の大きな扉が錆び付いた音を響かせながらゆっくり開いた。
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