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第3章 テルビス編
満ちる時①
しおりを挟む天使は太陽の下で祝福の微笑みを携える
悪魔は月明かりの下で不気味に高らかに笑う
そして私は月に侵された太陽のもとで―……
【満ちる時】
「日食?」
リラは朝食のスープをゴクンと飲み込んでテオに言葉を返した。
「そうッスよ! 確か明後日ッス。リラ知らないんすか?」
信じられないといった風に問うテオにリラは少し遠慮がちに頷いた。
「最近その話題で新聞やニュースで持ちきりッスよ! しかも今回は皆既日食で太陽が全部隠れるんス!」
「そ、そうなんだ…」
「リラは疎いッスね~」
「う……」
状況的に慣れない土地へ来てそれどころじゃなかったとは言え、確かにテオの言うとおりだ。
「時は凄いスピードで流れてるんすよ! 流れを読まないとあっという間に置いてかれるッス!」
「お前が興味あるのはゴシップとかだけだろ」
最もらしい事を言うテオにすかさず他の使用人からツッコミが入った。
「た、たまにはちゃんと政治や世の中の動きとか見てるッスよ」
「じゃあ、この街の副町長の名前は?」
「あ―……」
言葉の出てこないテオに他の使用人はほらな。と言って笑ってみせた。
「ぐ……リラは知ってるッスか?」
「あ…えっと…」
「リラはまだこっちに来たばかりだけどお前はずっとこの街で育ってるだろ」
リラが答えられないでいると他の使用人が助け舟を出してくれた。
「う…ごもっともッス」
シュンとうなだれるテオが何だか可愛いくてリラは小さく笑った。とその時、なかなか朝食を食べ終わらない使用人達を呼びにキリィが現れた。
「ほらほら! 朝食の時間は終わりですよ!」
使用人達ははい。と返事をして自分達の使った食器をバタバタと片付け始めた。
「日食かぁ…」
リラはそう小さく呟くと自分も食器を片づけ、仕事場へと向かっていった。
*******
「日食もうすぐだよな」
ラリウスの部屋でくつろいでいたマディーナは、ワイングラスを傾けながら部屋の主にそう問いかけた。
「えぇ、そうですね」
ラリウスはソファーに座るマディーナの向かい側に座り、同じくワイングラスを傾け返事した。
「ん。このワイン美味いな」
マディーナはグラスを空けると、ボトルを手に取る。
ラリウスが注ぎますよ。とボトルに手を伸ばしたがマディーナはそれをやんわりと断り、自分でグラスにワインを注いだ。
注がれた赤い液体が見慣れたもののはずなのに、何故か毒々しく感じ、ラリウスは少し苦い顔をした。
「お前もいるか?」
「いえ、私は大丈夫です」
「そ。…んでやっぱ地下に籠もるのか?」
「えぇ。しきたり…。いえ、契約事項ですので」
「そうかぁ…。日食見れないなんて勿体ないな」
「少し残念な気もしますが、こればかりは仕方ないですからね」
メイザース家では、日食が始まり終わるまで契約主が1人きりで地下部屋にいなければならない。と言う決まり事が代々伝えられてきた。
それは日食の間、堕天の力が一時的に強まり不安定になるので、契約主の意志とは関係なく力を解放してしまったりし、正体がバレる危険がある為だと伝えられている。
しかしラリウスはこの内容に多少なりとも違和感を感じていた。もっともらしいことを言っているようで、何かを隠す…誤魔化しているような、そんな違和感。
「一応ティーナ達にも外出を控えるように言ってますのであなたも気をつけて下さいね」
ただ、ラリウスにはその違和感を調べるすべはなく、父親に伝えられた通りにするほかなかった。
「はいはい。俺は1人寂しく部屋で鑑賞してるよ」
「お願いしますね」
「じゃあ観賞用のワイン用意しなきゃな」
マディーナはそう言うとニヤリと笑いラリウスの方を見る。ラリウスはマディーナの言わんとしてる事がわかり小さく笑った。
「わかりました。ロードに言って用意させましょう」
「いつもありがとな」
「あまり飲み過ぎないように」
ラリウスの忠告にマディーナはわかってるよ。と言いながら3杯目のワインをグラスに注ぐのだった。
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