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第10章

ダック大臣の娘⑤

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「あ、えっと、その。」
「何かお困り事?
 僕で良ければ、話ぐらいなら聞けるよ。」

 口調は男口調。
 わざと?
 いや、こういう事は逆に想像したり勝手な憶測で判断するのは失礼だし、間違った方向に行くと修正が効かない。
 だとすれば、策は一つしかない。

 …正面突破だ!

 お茶を2人分注ぐと茶器を置いて、私の正面にライはゆっくりと腰掛けた。

「単刀直入に言います。
 間違えていたら、すいません。
 ライさん、いえ、あなたは、あなたこそライザさんですよね。」
「ふぅん。
 どうゆう推察で?」

 試すような視線を、私に投げかける。

「気になったのは、さっきの部屋の前での挨拶です。
 幼馴染みでボディガードという割には、相手に対する感情が無かった点です。
 おそらく彼女は、あなたの代わりに部屋で篭っている侍女。
 こうやって、出歩くのを隠す為のアリバイ作りに利用してるだけ。
 捨て駒扱いの人間に、親身になる感情は要らない。
 そして、先程あなたの後ろ姿をみて、骨格に違和感を感じました。
 肩幅も小さければ、足首にかけての流線形、そしてその…変な誤解をして貰っては困るのですが、骨盤が男性のものではなく、明らかに女性特有の骨格でした。
 この館を自由に出歩きし、お茶の支度もテキパキとこなす、そして女性なのに男性のフリをしている。
 総合しても、イライザ本人である確率が高いと思ったのです。」
「なるほど、僕の尻でそう思ったのか。」
「いや、だから骨格で…。
 セクシャルハラスメントするつもりはまったくありません。」

 そこだけは、マジでセクハラじゃないから、客観的意見だから!

「ははは。
 別に、逆に関心しているよ。
 大正解だからね。
 この国に貴方のような洞察力の優れた方が居るとは。
 改めて、自己紹介を。
 ダック内務大臣の娘のイライザです。」

 ライはソファに座ったまま、頭を下げて一礼した。

「どうも。
 しかし、何故こんな演出まがいの事を?」
「話すのは構いませんが、説明してわかっていただけるかどうか。
 実の父でさえ理解していない。
 彼は私が心を病んだ、可哀想な娘と思い込んでいるのでね。」

 ライ、いやイライザはカップの紅茶をひと口飲んで、私を見据えた。

「僕は別に男性になりたい訳ではないのですよ。
 まあ、動きやすさがあるので、この格好自体は好みですが。
 魔王政治下の中、あまりこの国に手をつけていなかった魔王は、財力の多少あった貴族などは利用する為に、それ程厳しい措置を取らなかった。
 
 貴族で土地を持っていた僕の母はそれを魔王に献上する事で、ある程度の地位を保証された。
 悪政の影響はあまり受けなかったのです。
 僕の母親は、父同様に僕を蝶よ花よと育てた。
 女らしく、高貴な方に嫁ぐのが女の幸せと。
 ま、金で魔王政治でも、ある程度暮らせる経験がそうさせたのかもしれませんが。
 僕の周りには、お陰で上品な可愛らしい女の子ばかり集められました。
 その中で磨き上げられると、信じていたのでしょうが、磨き上げられたのはそっちではなかったのです。」
「と、言うと?」
「女の子たちはある程度の年齢になると男性の話しで盛り上がりましたが、僕には不愉快でたまりません。
 それが、何故なのか?
 僕の初恋は女の子でした。
 それはとても気立の良い女の子でした。
 そして、その子も他の子と同様に僕の前で他の男を絶賛するのです。
 僕は男と同じ格好をすればと考えましたが、私に異常なまでに期待している病気の母親の前では、何も出来ませんでした。
 そして、程なくして母親が亡くなった。
 そして、偶然にも魔王が勇者一行により討伐された訳です。
 呪縛が解けた僕は、男装し女の子を追いかける様になりました。
 それを見た父は、僕が母親の死のショックで錯乱してると勘違いしたのです。
 なるべく、誰にも知られたくない父は私を軟禁状態にして、人気を避ける為に館の灯りを消し始めました。」

 大幅に予想外の方向に話しがズレてないか?
 何か、つまり娘の性癖に理解出来ない親が、強行策で御令嬢に仕立て上げようと、部屋に閉じ込めた?

「まだ、いくつかわからないのですが、ダック内務大臣は貴方を、どこぞの国の王妃にしたいと。
 それは、大臣と貴方のどちらの希望ですか?」
「言ったでしょ。
 父は私が心の病で苦しんでると勘違いしてると。
 私を軟禁状態にした父は、デブラブが来た際に助言を求めたのです。
 デブラブの助言はこうでした。
『彼女の病を治せる医者がいるとの噂を聞いた事がありますが、莫大な治療費がかかります。
 あと、心身の為の安住の地としてセキュリティの整った、優雅なる館。
 この国には無いものばかり。
 ですから、他国の王妃として嫁がせるのが最善の策かと存じます。』
 とね。
 嘘くさい口車に簡単にのせられたのだよ。」

 口がドーナツになったかと思うくらい、丸く口を開けてしまった。

 
 

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