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第10章
ダック大臣の娘②
しおりを挟む「お、なかなか渋いデザインだべ。
ん、気に入ったべ。」
「ちゃんと、白シャツの襟を正して下さい。
あと、念のため剣は持参してください。
身の危険はご自分で、守ってください。」
「そういう時だけ、放置主義だべ。」
「そりゃそうでしょ。
曲がりなりにも、勇者上がりなんですから。」
ぶつくさと文句を垂れつつ、膨れっ面のアルは服を着替えて、剣を腰に刺した。
「ほら、スマイルですよ。
そんなに頬膨らまさない。
帰ったら、あなたの武勇伝を聞かせてください。」
「約束だべ!
たっぷり聞かせてやるべ!」
子供のケンカじゃないんだよ。
かわいい子供勇者を絵に描いたようだな、この人は。
とりあえず着替えて、髪をとかしたアルに私は指示を与えた。
畑の整備とサツキ菜の苗が出来たら、植える時の注意点、そして温泉開発については、初めは湯治場として整備する事。
なぜなら、ここでサツキ菜の販売促進をも可能にするからだ。
サツキ菜は薬としても使える万能の野菜だ。
そして鉱山で働く者や、猟師の多いこの国で広めるには1番の売りになるからだ。
アルは、私の話しを指折りしながら、頭に詰め込んでいた。
「やっぱり1日では終わらないべ。
2、3日はかかるべ。」
「仕方ありませんよ。
まあ、専任が決まればあとは任せられる事は任せるようにして下さい。
王が城を長々と開けておく訳にはいきませんし。」
2、3日かかってもらわないと私が困るんだよ。
こちとら、下手したら色恋沙汰にまで持ち込まなきゃならない案件だ。
そんな事をアルを挟んでやる訳にはいくまい。
どう見てもアルは色恋沙汰にうといタイプだ。
女の扱いだって、手慣れていないのは明らかだ。
失敗の可能性がある事は全てにおいて排除しておきたい。
ん?
そういえば、単純にアルはその手の経験はあるのか?
年齢は一応大人だと思うが。
まさか…この歳で?
「どうしただ?
オラの顔をじっと見てるべ。
寝起きのヨダレでも垂れてたべか?」
「へっ?
ああ、いえ。
アルって、そういえば何歳かな~なんて。」
「あ!
未成年ではねぇぞ!
れっきとしたピチピチの新鮮22歳だべ。」
「へ、ヘぇそうでしたか。
私はチャンポン種族なので年齢とか平均寿命が意味をあまり成さないので。」
「お!ジジイだったべか?
ナナシはお爺さんだべか?」
ボフッ!
「グホッ!」
「…人生の5分の1程度しか生きてませんよ。」
思わずボディブローをかましてしまった。
そりゃ、アルよりは長く生きてるさ!
ああ、もうかなりの経験値高いよ私は!
夜な夜な華麗なる経歴を語ってやろうか?
これでも、魔王としては若いんだぞ!たわけ!
「ぐっ、王様にボディブロー食らわす、家臣なんて聞いたことねぇべよ。
ドSどころかドドSだべ!」
まあいい、アルの初体験とか深掘りはいつでも出来る。
時間もないし、今後の楽しみに取っておこう。
支度も出来たので、アルは食事をさっさと済ませて、城から選抜兵士を引き連れて、ロン村へと向かって行った。
さて、これからが仕込みの始まりだ。
私は自室にて、身なりを整え、爽やかに香る香水を身に纏った。
相手が生娘とあれば、暑苦しい媚薬風の香水では逆効果だ。
好印象で清楚、ほのかに気にかかるイメージの男性を演じなくてはならない。
シンデレラストーリーの王子様なんて、本来ガラじゃないし、回りくどい落とし方も嫌いなたちだが、今回ばかりは仕方あるまい。
「蜘蛛よ!
ダック内務大臣の監視を命ずる。
これより私はダック大臣の私邸に潜入する。
奴に気が付かれては困るのでな。
逐一、動向を報告せよ。」
私はシャンデリアの上部にそう言い放った。
カサ、カササ。
「御意。
闇の覇王の仰せのままに。」
左耳の糸玉を通して、返事が聞こえ、すぐにこの部屋から出て行ったようだ。
さて、前髪をかき上げて、私はダック大臣の住む離れの屋敷に向かった。
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