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第七章

干ばつの村攻略作戦⓷

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 サツキ菜とは古代種野菜で、大きめなヨモギに似た葉に、根は太く長く地中深くまで伸びてしまう。
 隣り合わせに育てると、まるで、手を繋いでるかの様に、互いの根を張らせ、水分を分け合う。
 その為、少ない水分で生育可能だ。
 栄養価も高く、ほのかに苦味があり、薬草として古では使われていた。
 ただ、根が絡み合うので、柔らかい地盤では、一株抜けると全てのサツキ菜が抜けて土も掘り起こされてしまうし、葉だけを切ってもその根は地中に残る為、他の野菜が作れないとの理由から作られなくなった野菜だった。
 
「この地で多種多様な作物を生産して生活を維持するのは困難。
 だったら、このサツキで専売特許だ!」
 
 サツキ菜のサイクルは早い。
 生命力が強いので再生能力もずば抜けている。
 一度株が大きく育てば、わずかな水と肥料をまいて、後は葉を切り続ければいい。
 難点は一株枯れば全てが枯れるが、種を取っておけば、またすぐに作れる。

 これなら、地盤のかくはん後一株づつ苗さえ作っておけば、すぐに作業に入れる。
 水脈さえ見つかれば、小さな井戸は人力で可能だし、全てが同時進行可能だ。
 と、なると夜か。
 アルがこの村で寝てる間に魔力を使うしかないな。
 水脈探しの様な探査型の魔法なら、初級魔法だ。
 今の魔力でも充分探せるだろう。
 だが、距離に気を付けなければ。
 リングに引っ張られては、アルに正体がバレてしまう。
 それだけは絶対に避けなければならない。
 
 まったく、このリングは厄介だな。
 デルアビド王か…、ちょいちょい出てくるが全く実状が掴めない。
 確か私の討伐の際にいたはずなのだが、前面にいなかったせいなのか、私が覚えていたくなかったのか、今となっては姿形が全く思い出せない。
 とは言え、アルのあの白い歯の印象に全部持ってかれた感は否めないのだが。

「村長、今からこの種を一株づつ、別の入れ物で苗を育てて頂きたい、必ず別々で。」
「何だす?この種。
 随分といびつな形だすね。」
「サツキ菜です。
 古代種野菜ですから、あまりご存じないと思われますが、この土地にこれ程最適な作物はありません。
 騙されたと思ってお願いします。」

 私は持っていたサツキ菜の種を半分ほど村長に分け与えた。
 これは、私が逃亡した先の土地での生活の事を考えて、薪小屋から出る時に持ち出した物だった。
 こんなところで役に立つとは思っても見なかったが、運が良かった。
 
 村長はとりあえず、その種を村人達の元へ持って行った。
 そのあと私も作物倉庫を出て、日照りの続く畑を見た。
 全てを上手くいかせる事は無理だとしても、少しはマシになる。
 この日照りの対応はまずサツキ菜から利益が出た時点で、高度な技術をいずれ、入れなければならないだろう。
 それまでに財政を少しでも上げる事が今後の課題か。
 
 村長に大口叩いたが、今回は小手先の手当てで、本来はまだまだこの先時間がかかる案件だ。
 今回の目的はその為の基盤造りというところだろう。

 しかし、アルと知り合ってから魔力を使う回数が増えてる。
 身体がそれに慣れてしまわないように気を付けなければ。
 
 にしても、暑ぃいい。
 マジで。
 日光はマジで体力消耗するわ。

 私はふらふらになりながらアルの待つ村長の家に入った。
 
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