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第9章

闇の知将②

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「疲れただぁ。
 王様なんて誰かに譲りてぇだ。
 今すぐ、ナナシにくれてやるべな~。」
「いりませんよ。
 簡単にやり取りする物でもないでしょうに。
 ほら!寝巻きに着替えて下さい。
 パン1じゃないですか!
 さすがに身の回りの事は使用人任せると、バカ王様に拍車がかかりからね。
 使用人への仕事は部屋の掃除くらいにとどめておきましょう。」
「バカ王様だとぉー?
 ま、反論出来ねぇべ。」
「いや、そこ!
 反論して下さいよ!
 プライド!最低限のプライド!
 明日からはちょくちょく、貴方に帝王学を学んで貰わねばならないようですね。」
「勉強は苦手だべ~!
 デルアも何度も教えてくれようとしたけんど、寝ると全て忘れてしまうべな。」
「リセットしすぎでしょうが!
 健忘症じゃあるまいし。
 まったく、貴方という人は、本当に誰かの助けだけで、ここまでのし上がったのですね。
 逆にお見事ですけど。」
「出た~。
 ナナシの小毒!」

 王の間での疲れが出たのか、アルは食事と風呂を終えて、ベッドの上でパンツ1枚で枕を抱えてゴロゴロしていた。

 だから、この角度だと見えない方がいいモノまで見えるから!
 早く寝巻きに着替えろよ。

 私はアルを母親が子供を寝かしつけるが如く、寝巻きへの着替えを急かした。
 そして、その間も私の耳のピアス穴にはあの糸玉がはまっていた。




 キュ。トクトクトク。
 ゴクリ。

 どうやら、デブラブは部屋でワインを一杯口に含んで、リラックスしてるようだ。
 これは、何か出そうだな。
 私はアルを寝かしつける支度をしながら、左耳をそば立てた。

「何者だ、アイツ。
 連合国の回し者かとも思ったが、そうではないようだ。
 あれだけの頭脳明晰で行動力がありながら、調べたが他国での噂は何一つ出てこない。
 ダック大臣、このままでは貴方を国王どころか、娘を王女にする事も叶いませんよ。」
「困ります。
 私が国王とならずとも、年頃の娘だけは是が非でも、良家いや一国の王に嫁がせなければ。」
「親バカもここまでくると、素晴らしい愛ですな。
 まあ、問題を抱えた娘を思いやるのは必然。
 確かに、それほどずば抜けた器量の良い娘ではないですがね。
 王女のハクが有れば、彩り緑でしょうな。」

 娘がブスだとかの理由で王位剥奪しようとしてんのかよー。
 バカなの?
 力を注ぐところソコじゃないだろ!
 てか、デブラブに容姿うんぬん語る資格あるのかよ?
 無いよね、微塵も無いよね!
 名ばかりの王様から、また名ばかりを求める王様になり変わってどうするんだよ。

「しかしながら、逆を返せば上手くナナシ殿を利用できるやも知れませんぞ。
 今回の干ばつの村の件も、この国の利益になるには変わりありません。
 ですから私は早々に、引き下がったのですよ。
 ナナシ殿が優秀であればあるほど、アルバック王の無能さを露呈してしまう。
 これは必然です。
 ナナシ殿を持ち上げ、かつアルバック王の信頼を下げる。
 その後、ナナシ殿の信頼を下げる罠を張るがよろしい。
 勝ち馬に乗ったふりをするのです。」
「上手く行きますかな?
 アルバック王の信頼を下げるのは容易いですが、あのナナシ殿の信頼を下げるのは…。」
「ですから、罠が必要なのですよ。
 私とて、手をこまねいて待ち侘びる気はさらさらございませぬゆえ。
 いずれは、この国を他国と合併させて、連合国規約を破棄し、大国を造るのが我が野望。
 その足がかりに過ぎないのです。」
「ですよね。
 この国は先への展望は望みが薄い。
 ナナシ殿の策でも、限度があるのは間違いないでしょうし。
 安定を望むなら小国ではなく大国にならなければ、戦争はなくともいずれは滅んでしまいます。」
「その通り。
 元仲間達とはいえ、国王という権限を一度手にすれば、欲望は増大する。
 それが人間の悲しい性です。
 1番落としやすいこの国を、取り合う事は目に見えています。」

 やはりな。
 不安を煽って、ダック大臣を操っていたのだな。
 ま、薄々は勘づいていたが。
 さてと、2人がつるんでいるとなると、キーマンは財務大臣とダック大臣の娘。
 この2人を崩すのが得策か?
 後で調べる必要がありそうだな。
 この2人を手中に収めるのを近々の目標としよう。

 しかし、私を罠にハメるなどと。
 知らぬという事は恐ろしいな。
 起こしてはならぬ赤子を揺り起こそうとは、自らの自滅を促す事に他ならないというのに。
 デブラブはこの国を狙っていたのではなく、その先にある未来の国を乗っ取るつもりだったとは。
 脳みそはどうやら脂肪で出来てるわけではないようだな。
 
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