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第七章
干ばつの村攻略作戦⑧
しおりを挟む馬小屋へ行く途中、村人達は大騒ぎで私の指示した作業を進めていた。
出会った頃のような諦め半分の表情ではなく、新たなる希望へのワクワク感からか、笑顔で汗を流していた。
しばらくの間は大丈夫そうだ。
活気あふれる時は、その流れに従う方が物事が進む。
「一旦、城へ戻って温泉開発のための人員確保など、やらねばならない案件が山積みです。
それに、詐欺師の…もとい、すでにデブラブと内務大臣の条件以上の成果も上げている。
ここからは、アルにも前面に出ていただきますよ。
あくまでも、私は補佐役で助言師です。」
馬小屋について、馬具を付けながら私はアルにそう説いた。
「わかってるべな。
その為に、オラはナナシを探し当てたんだべ。」
白い歯をキラキラさせながら、アルは馬に飛び乗った。
「急に勇者らしくなりましたね。
それでは、いざ戦いの地へ!」
私も馬に乗りアルの後を追いかけた。
さて、アルにああ言ったものの、あのデブラブの顔が脳裏をよぎる。
相手は詐欺師だ。
しかも、内務大臣を手の上のコマとして操るほどの男だ。
一筋縄で行かないのは必須というところだろう。
こちらも、事前に何かしらの手は打っておいたほうが良いのかもしれない。
馬をさっそうと走らせて、城下街まで来た頃、アルがふと呟いた。
「にしても、一夜にして大雨とか、温泉とかって奇跡が起きすぎじゃねぇべか?
魔道士や魔法使いは雇ってねぇし。
そもそも、そんだけの魔法使える奴を雇う金なんてねぇし。」
「んんん!それは…。」
もう、いいじゃんそこは!
掘るなよ、掘り起こすなよ!
神様に感謝して受け流せ!
やったの元魔王だけどな!
「た、多分干ばつで地割れが奥まで達して、間欠泉口を刺激したんですね~自然って凄い!
だから初めの噴き出しはとてつもない勢いで大雨の様だった筈ですよ。
あははは。」
もう、自分でも何言ってんだかよくわかんねーわ。
口から出まかせも大概だよ、まったく。
「なるほどなー、さすがナナシだべ。
オラにはちっともわからなかったべ。」
「……。」
アホに感謝。
単純だとこういう時には助かるのだが、だからこそデブラブみたいな悪党に丸め込まれる、隙を作ってしまうんだ。
「ああ、昨日でサーカスも終わっちまっただよ。
ほれ、あそこ。
もう片付け始めてるべ。
なぁ、ちょっくら挨拶行かねぇべ?」
「はいいい?」
アルの指差す方向を見ると、中央広場でクッキーサーカス団が後片付けをしている姿が目に入った。
また余計なモノを。
ってか、さっさと片付けて消えろよ!
タイミング悪すぎて、涙でそうだわ!
私が馬上で頭を抱えていると、ミランダがこちらに気が付いた。
あろう事か、団長にこちらを指を差して教えているようだった。
「団長ー!
出発前だかー?」
「うわっ!バカ!
何で手を振るんですか!」
団長がシルクハットを外し、大きなお腹を揺らしながら、こちらに駆けてきた。
仕方ないので、我々も一旦馬から降りて会釈しながら、挨拶を交わした。
「これはこれは!
お二方、ご無事で何よりですな。
と、まだしばらくはアルバ国に?」
「ま、あ、そんなとこだべ。
本当はせっかくのショーを見たかったけんど、残念だべ。」
「ありがとうございます。
私どもは、これから隣国のラチェット国へ向かいます。
そこではひと月の興行契約をしておりますので、もしご都合が合いましたら、いらしてください。」
「ラチェット…。
大賢者ラチェットの国ですね。」
「おう。ラチェ爺の治める国だべ。
あそこは食いもんに恵まれて、自然豊かだと聞いてるべ。」
「財政的には連合国内では最近、珍しく潤っているそうです。
ショーを売り物にしてる以上、景気の良い国で興行せねばと。
我がクッキーサーカス団も、連合国外の国からわざわざ出向いたまでです。」
ほっ、どうやら術はもう解けているようだ。
私は胸を撫で下ろした。
「お二方ならチケット代もいりません。
なんなら、旦那が女装していただけたら顔パスしますよん!」
舌舐めずりをして、手揉みで団長が顔を近づけた。
「するか!
私は趣味であんな格好した訳ではない!」
シュッ!ドカッ!
「ナナシ~!団長さんには手厳しいべ!」
反射的に回し蹴りを喰らわして、団長をノックダウンさせてしまった。
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