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第七章

干ばつの村攻略作戦⑤

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 とりあえず、夕食後に明日からの簡単な指示を村人にした。
 村人は知識もなく藁をも掴む勢いで、素直に私の指示に了解した。
 あとは、アルが寝込むのを待つだけなんだが。

「ナナシ!ナナシ!
 この野菜の形を見てみろ!
 おっぱいついてるべ!
 ギャハハ!」

 なんで、よりにもよってそんなにハイテンションなんだよ!
 サッサと寝ろよ!
 そして、朝まで起きるな!

 アルはニヤニヤしながらベッドに座って、干せっからびた野菜を人形がわりに遊び始めた。

「これがぁ、ノッポのデルアビド!
 で、この細い白ゴボウがナナシだべ!
 んで、この肩幅がやたらデカいのがゲンナイ、でぇ…。
 そこで、おっぱい星人とイチャイチャ~…。」
「野菜で何、人形遊びしてるんですか!
 まったく、しかも何かアルにしては、下品な遊びを…って。
 なんじゃ!こりゃ!
 水差しに白葡萄酒が!」
「ナナシがデルアビドにキーック!
 ドS対決だべ~!ギャハハ!」

 私は慌てて、窓の外から水差しの酒を捨てた。
 
 弱過ぎだろ、勇者が酒ごときでヘベれけじゃねーかよ!
 私は白ゴボウなのか?
 アルにはそう見えてるんだなぁ!
 ドS対決ってなんだよソレは!
 なんの戦いしてんの?
 元魔王と現国王!
 
 村人達が気を遣ったのだろう。
 確かにアルはもう少年ではないし、酒もたしなめる年齢だと思うが、ここに余興に来たのではないのだ。

「ゲンナイのロボットパーンチ!」

 酔ったアルが、干し大根を私の顔に押し付けた。

「うぐっ。
 はいはい、わかりましたから。
 タチの悪い酔い方ですね、まったく。
 …アルは仲間が大好きなんですね。」
「ん、…好きだべ。
 みんないいやつだべ。
 けど、だからと言って、きっとそのままじゃいけないんだべ。
 オラもみんなも成長しねばなんねぇべ。
 だから、会いたくても会わねぇ。
 今は、そん時じゃねぇべ。」
「アル…。」

 会いたくて仕方ないって顔してるよ。
 人間ってのはややこしいな。
 会いたいなら会えばいいのに。
 会えるだけマシなのだから。
 私など、この先何年も何百年も仲間には会えないのだ。

「みんな好きだべ…ナナシも大好きだべ…オラの大事な物だべ。すぅ。」
「はあああ?
 ば、バカな事…あ、寝た。
 はあ、最後の捨て台詞になんて事を放つんですか。」

 むず痒いやら、こそばゆいやらで、頭を掻きむしった。
 リズムが狂うんだよ。
 やっぱり、私は人間との相性が悪いと思うが。

 私はアルに掛け布団を掛けて、家の外に出た。
 気温が下がり夜風が頬を優しくかすめる。
 さて、これからは私の時間だ。

 私は目蓋をゆっくりと開いて、月夜を仰いだ。
 金色の瞳孔に月が重なって映る。
 銀の髪が逆立ち始めた。
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