上 下
36 / 61
第六章

詐欺師とナナシ⑤

しおりを挟む

「『運命』にって…。」
「ま、行き当たりばったりと言えば、それまでだけんど、オラは自分の野生の勘とか、運の強さを信じてるだ。
 自力でというより、今まで周りの人達が何度となく都合良く助けてくれた。
 自分じゃ出来ない事も、その人達のおかげて成し遂げられたべ。
 『運命の人』を嗅ぎ分ける、嗅覚はきっと今回もオラを助けてくれるべ。」

 待て待て待て待て!
 頭がガンガンして来たぞ。
 『運命の人』って、つまりは…この、私なのかー?
 いやいやいやいや!無理無理無!
 もう、お腹一杯ですって!

 私はままだ話しの前半だというのに、耳を塞ぎたい気分になった。

「いや、だから、そのハズレってのもあるでしょう。
 百発百中なんて、ははは。」
「ハズレなんてねぇべ。
 大当たりだべ。
 こうやってナナシに出逢えた。」

 だから、その白い歯を見せて純粋に笑うなよ。
 どこから、その自信が湧いてくるんだ?
 私はお前が、倒した敵だぞ。
 仲間の生命を踏み台に、逃れ生き延びた、最悪の人だ。
 お前の期待してる聖人なんかじゃないんだよ。

『運命に任せてみるのも悪くないですぞ。
 全てが計算上にあるわけではございませぬ。
 だからこそ、生きるという事は苦しくても、辛くても、結果は楽しめるのです。』
 
 説教ジジイの戯言が耳に蘇った。
 
 コレが、そうなのか?
 それでいいのか?
 なぁ、答えてくれないか。

「…私は、無能だぞ。」

 振り絞って出た言葉だった。
 誰よりも私は、無能なのだ。

「オラだって、無能だべ。
 だから周りが助けてくれるんだべ。」
「‼︎」
「で、ナナシに出逢えた事でオラの目的はとりあえず達成したども、ナナシが大人しく、この先もオラの側で知恵を貸してくれるとも思えなかった。
 オラから離れたかったべな?」

 気が付いていやがったのかよ。
 まったく、コイツは。

「オラにも時間はないべ。
 そこで手っ取り早く、このリングを使う事にしたべ。」

 あ…やっとリングの件だ。

「コレは魔術などはかかってない様に思える様ですが…。」
「そだなぁ、コレは元々デルアが方向音痴のオラの為に、機械技工師ゲンナイが作った精密機械と錬金術を組み合わせた物だ。
 別れの時、破棄しようとしてたのを記念にとセットで貰ったんだべ。
 まさか、こんな使い方するとは当時は思わんかったけんど。
 操作や指示はオラのリングからしか出来ない。
 そっちはあくまで受信して反応する。
 だから魔法はかかってないし、ナナシに渡した時にリングに指示は出してなかったんだべ。」
「あ、なーるほど、ってなるかい!
 外せんぞ!
 早く外して下さい!」
「無理だべな。
 外し方はゲンナイとデルアしか知らないべ。
 しかも、2人同時じゃないと外せないべ。」

 テメェ!
 って事は最低あと2カ国の王と接見が必要って事かよ!
 マジか?なんて事を。

 グゥー。

「あ、腹が鳴ったべ。
 まあ、説明はそんなところだ。
 って、言い忘れたんだけんど、食事はこの部屋の隣の書斎でいつも独りで食ってたんだども。
 どうする?」
「王様が独りで書斎で食事ですか?
 何故です?
 食堂はないんですか?
 そこまで貧乏なんですか?
 王の間は派手でしたが。」
「んにゃんにゃ。
 食堂で食うとなると、めちゃくちゃ豪華な料理を無理して出して来るべな。
 しかも、大臣やら側近の分まで。
 干ばつもあるし、食料は大事にしたいんでな、書斎で食べるなら、独り分片手で食える分でこと足りるだろ。」
「アル、アル!
 それ、いい事なんだが、少しだけズレてますよ。
 はぁ。
 いいですか、それによって職を失う者も出てきます。
 バランスを考えて下さい。
 一方面からではなく多方面から状況をですね……あ。」
「ほぉら。
 やっぱり、ナナシはオラに必要だべ!」
 
 ああくそッ!降参だ。
 もう私はアルの手の上で転がされ始めているしゃないか。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。 胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。 いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。 ――――気づけば異世界?  金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。 自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。 本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの? 勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの? どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。 まだ、たった15才なんだから。 ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。 ――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。 浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。 召喚から浄化までの約3か月のこと。 見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。 ※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。 29話以降が、シファルルートの分岐になります。 29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。 本編・ジークムントルートも連載中です。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

魔法少女の異世界刀匠生活

ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。 ……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。 そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。 そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。 王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり…… 色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。 詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。 ※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。 ※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...