上 下
35 / 61
第六章

詐欺師とナナシ④

しおりを挟む

 大臣と助言師ともう1人はコソコソと玉の間を去ろうとした。

「お待ちください。
 全ての契約書類、一通り読ませて頂きたいのですが?
 構いませんよね、不正などあるはずがないのですから。」
「えっ、ああ、構いませんが膨大な量ですし、手間がかかるかと。」
「手間の調整など、自分で出来ますよ。
 御心配ありがとうございます。」
「わ、わかりました後日、提出させて頂きます。」
 
 この場は明らかに形勢逆転だった。
 奴らはとにかくここから出たくてたまらない様子でバタつきながら王の間の扉を全開にして出て行った。

 パチパチパチパチ!

「カッコいいべな!
 惚れ惚れしちまうなぁ!」

 バン!

 能天気に拍手をするアルを勢いよく柱へ壁ドンした。

「さ~て、本題はこれからです。
 じっくりと寝室で一晩かかろうとも、話してもらいますよ。
 コレ!何ですかね?これ!」

 血管がブチ切れそうなのを抑えつつ、左手小指のリングをアルの目の前で震わせた。

「あー、あははは。
 そだな、その話しは長くなるべ。
 とりあえず、部屋に戻るべなぁ。
 ははは。」

 アルは斜め上に視線をずらして、この先の尋問に唾を呑み込んだ。




「そもそも、逃げ出そうとしたのが悪いだよぉ。
 ここで待ってれば、あんな風にならなかったべ。
 ま、九分九厘逃げるとは思ってたけんど。」

 寝室の扉を閉めながらアルが背中越しに話し出した。

「何がだ!私が悪い訳ないでしよう!
 とにかくキチンと順番に話してください!」
「…そだなぁ。
 まずは、オラがここから出たところから話した方がいいべ。
 順番的にはそこからだ。」

 えっ?私に出逢う前?
 確かに順番って言ったよ、言ったけど、そこからってのは長すぎないか?
 私が1番聞きたいのは、この左小指の代物なんですけど!

 ちょっとだけ、自分の言動に後悔した。

「ナナシも気が付いたと思うけど、元々この国は貧乏で小さな国だっただよ。
 国分けの時に、くじ引きで決まったんだども、オラには充分な物だと思ってるべ。
 オラには大国を統治する能力は無いべ。
 だから、始めはコツコツ地道に再建しようと国民との交流も行ってたども、あの商人が来てから大臣達の態度が一変しただよ。」
「詐欺師だからですよ。
 不安を煽って、利用するなんていつもやってる仕事と大差ないですし。
 つまり、この国は不安でいっぱいだったって訳。
 周りを見なければ幸せだった物が、周りを見た途端に不幸に感じます。
 つくづく、人間ってのはアホですね。」

 私はマントをマント用のポールの端に掛けて、鏡台の小さな椅子に腰掛け、足を組んだ。

「ん、不安は人を狂わせる。
 魔王討伐で知ってたはずなんだが、上手くいかないもんで、役人達にまで疑心暗鬼が広がった。
 無能な王は勇者の名前だけで充分だと。
 オラは何もさせて貰えなくなった。
 城の外へすら出させて貰えなかった。
 ……で、デルアビドと出逢った時の事、思い出したべ。」
「デルアビド王、当時は奇才の錬金術師と呼ばれた男ですね。
 魔王討伐へのきっかけとなった人物でしたか。
 助けを求めに?」
「あー、違うべな。
 デルアとは国分けの時、簡単には助けないと釘を刺されたで、そこではなかったべ。
 デルアと出逢った時の様な『運命」に賭けてみようと思ったべ。」

 アルは私の方に向き直り、真っ直ぐに目を合わせて来た。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...