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第六章
詐欺師とナナシ④
しおりを挟む大臣と助言師ともう1人はコソコソと玉の間を去ろうとした。
「お待ちください。
全ての契約書類、一通り読ませて頂きたいのですが?
構いませんよね、不正などあるはずがないのですから。」
「えっ、ああ、構いませんが膨大な量ですし、手間がかかるかと。」
「手間の調整など、自分で出来ますよ。
御心配ありがとうございます。」
「わ、わかりました後日、提出させて頂きます。」
この場は明らかに形勢逆転だった。
奴らはとにかくここから出たくてたまらない様子でバタつきながら王の間の扉を全開にして出て行った。
パチパチパチパチ!
「カッコいいべな!
惚れ惚れしちまうなぁ!」
バン!
能天気に拍手をするアルを勢いよく柱へ壁ドンした。
「さ~て、本題はこれからです。
じっくりと寝室で一晩かかろうとも、話してもらいますよ。
コレ!何ですかね?これ!」
血管がブチ切れそうなのを抑えつつ、左手小指のリングをアルの目の前で震わせた。
「あー、あははは。
そだな、その話しは長くなるべ。
とりあえず、部屋に戻るべなぁ。
ははは。」
アルは斜め上に視線をずらして、この先の尋問に唾を呑み込んだ。
「そもそも、逃げ出そうとしたのが悪いだよぉ。
ここで待ってれば、あんな風にならなかったべ。
ま、九分九厘逃げるとは思ってたけんど。」
寝室の扉を閉めながらアルが背中越しに話し出した。
「何がだ!私が悪い訳ないでしよう!
とにかくキチンと順番に話してください!」
「…そだなぁ。
まずは、オラがここから出たところから話した方がいいべ。
順番的にはそこからだ。」
えっ?私に出逢う前?
確かに順番って言ったよ、言ったけど、そこからってのは長すぎないか?
私が1番聞きたいのは、この左小指の代物なんですけど!
ちょっとだけ、自分の言動に後悔した。
「ナナシも気が付いたと思うけど、元々この国は貧乏で小さな国だっただよ。
国分けの時に、くじ引きで決まったんだども、オラには充分な物だと思ってるべ。
オラには大国を統治する能力は無いべ。
だから、始めはコツコツ地道に再建しようと国民との交流も行ってたども、あの商人が来てから大臣達の態度が一変しただよ。」
「詐欺師だからですよ。
不安を煽って、利用するなんていつもやってる仕事と大差ないですし。
つまり、この国は不安でいっぱいだったって訳。
周りを見なければ幸せだった物が、周りを見た途端に不幸に感じます。
つくづく、人間ってのはアホですね。」
私はマントをマント用のポールの端に掛けて、鏡台の小さな椅子に腰掛け、足を組んだ。
「ん、不安は人を狂わせる。
魔王討伐で知ってたはずなんだが、上手くいかないもんで、役人達にまで疑心暗鬼が広がった。
無能な王は勇者の名前だけで充分だと。
オラは何もさせて貰えなくなった。
城の外へすら出させて貰えなかった。
……で、デルアビドと出逢った時の事、思い出したべ。」
「デルアビド王、当時は奇才の錬金術師と呼ばれた男ですね。
魔王討伐へのきっかけとなった人物でしたか。
助けを求めに?」
「あー、違うべな。
デルアとは国分けの時、簡単には助けないと釘を刺されたで、そこではなかったべ。
デルアと出逢った時の様な『運命」に賭けてみようと思ったべ。」
アルは私の方に向き直り、真っ直ぐに目を合わせて来た。
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