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第六章

詐欺師とナナシ①

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 バルコニーから木に乗り移れそうだな。
 木にさえ乗り移れれば、どうにかなるだろう。
 門まで行けば、門番が私を止める理由はない。
 私はバルコニーのヘリに足をかけて、近くの木に飛び移った。

「ていっ!」

 マントが広がり、ムササビみたいな飛び方になってしまった。
 他人に見られてなくてよかった。
 さすがに不恰好だっただろう。

 ザザザッ。

 木々を渡り、適当なところで地面に降りた。

「さてと、ここから門までもう少しだな。」

 者の手前まで来て、後ろの城を振り返った。
 
 アルは上手くやってくれてるだろうか。
 私のアドバイスが少しでも効いてくれるといいのだが。
 

「これはこれは、先程は失礼致しました。
 アルバック王を送り届けていただき感謝します。
 お帰りの道中、お気を付けて。」

 先程の門番だ。
 礼儀のいい言葉に私も笑顔で返した。
「こちらこそ、とても有意義な体験をさせていただき感謝しています。
 アルバック王とアルバ国に幸あれ…。」

 そう言って、門の外へ足を踏み出そうとしたその時。

 ウィーンウィンウィーン!

『警告、警告。
 半径規定外ニ移動。
 緊急モード発令。
 迷子確保機能ヘ移行!
 発動3秒前、2、1…』

「へ?何?何が…。」

 変な音と声がした。
 出どころは私の左手小指。
 さっきまで単なるガラクタだったはずのリングが煌々と赤い光を放ち、勝手に腕を持ち上げた。

「0!
 迷子確保開始!」

 グィン‼︎

「え?えええぇええー⁉︎」
「あ!大丈夫ですかー?」

 瞬時で門番の声が遠のく程に、物凄い勢いで私の小指と左手は城内へと私を引き入れた。

「うおーおおおお‼︎なんじゃこりゃ!
痛ぇ!うっ!だっ!ほわっ!」

 ズズズ!ガッ!バキ!ガッ!カッシャーン!ドカッ!ズズズー!

 待て待てー!痛い!痛ぇってば!
 色んなもんにぶつかってるって!
 足の小指がぁあ!

 左腕は勝手に持ち上がり私を引き摺りながら、奥へと進んだ。

 ガッ!バキ!ガッ!ドカッ!カッシャーン!ガラガラ!ボキッ!

 待て待て待てー!
 確かに嵌めた時、魔法などかかっていなかったぞ!
 痛っつ!
 落ち着いて考えを巡らせる事も出来ねぇ~!
 ア~ル~!ハメやがったな~!
 リングだけにな!

「うおおおおおお!てっ!おおお!」

 城の使用人達も驚きのあまり、あんぐりと口を開けて立ちすくんでいた。

 ガツガツとあちこちの角にぶつかり、調度品を破壊しながら、釣られたマグロの様に左腕に引き摺られ、廊下をマッハで駆け抜ける。

 悲しいかな、元魔王が引き摺り回しの刑になってる絵面は、おそらくどんな話にも出てこないだろう。
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