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第四章
国境越え、いざアルバ国入国へ⑦
しおりを挟む焚き火のそばで大の字で眠るアルを上から眺めた。
人間としていい奴でも、国王として良い王かは別か…。
「やっぱり、身に余る権力など持つ物ではないな。
お互い、意外と似たもの同士なのかもな。」
焚き火の炎がゆらゆらとアルの頬を照らす。
まだ若い貧しい青年に、王になる器などあるはずもない。
いきなり国王になれなどと勝手な民衆の戯言に振り回される身にもなってみろ。
私はふと、このままアルが自国に戻らない方が良いのではという考えが頭をよぎりかけて、ブルブルと頭を振った。
「くそッ!イライラする。
やっぱり私は独りが楽だ。
さっさとアルを城の大臣達に押しつけて、人里離れた場所に引き篭もるぞ!」
ストレスのせいか、思わず口から引き篭もり宣言が出て、小石を蹴り上げた。
「明日入国審査前に、水浴びでもして身体を綺麗にしたい。
くそジジイの臭いが染み付いてるような気がして吐き気がする。
確かキャラバン御用達の小オアシスがこの辺にあると聞いたな。」
私は闇の力を使って半系1キロをサーチしてみた。
大岩に隠れてるが、確かにオアシスのように、そこだけ水と草木が生えている場所があった。
どうやらこの大岩のおかげで陽に適度に当たらないようだ。
サーカスでもあの桶と柄杓を使って、ここの水を汲んでいたのだろう。
今から行けば、人目につかないか。
日が昇ってしまったら、キャラバンテントから水汲みに続々と人が訪れそうだ。
他人に晒すほどリッパなボディを持ってる訳じゃないし、ましてや私の身体には、例のあの時の傷が刻み込まれている。
アルに見られる前に水浴びをしなければ。
この傷を見せるわけにはいかない。
私は大岩の方へ向かって歩みを進めた。
雲が開き、月が顔を出した。
月の光が私の銀色の髪に反射するたびに、元魔王の血がざわめく。
月の光の魔力は闇の魔力とは少々異なるが、それでも私の魔力を増大させる。
私の肌はみるみるうちに白さを増し、青い血管が透けて見える程になっていた。
爪は先が尖り、唇は赤い実を咥えたように赤く艶やかになった。
小オアシスには深夜のせいか誰もいなかった。
水面も波一つ立たずに、月を映し出している。
「水は思いの外綺麗だな。
砂の目が細かいからか?
まあいい、水かさも腰くらいしかないな。」
私は衣服をそっと脱ぎ捨て、水面に足をつけた。
ほんのりと冷たく、それでいて柔らかく肌を包む水は私に少しばかりの気力を蘇らせた。
相変わらずメンタルには自信がない。
魔王だった頃からだ。
虚勢を張ってはいたが、メンタルは子供同様なのだ。
上手く感情のコントロールが出来ていたつもりだったが、アルとの再会でそうでもない事が判明した。
私は水面に顔を押し付け、息を止めた。
今の私は生きる事にさえ、迷走している。
アルには悪いが、何一つしてやれる事などないのだ。
…私は…無能だ。
私は水面に身を委ね、しばらくの間浮かんで月を眺めていた。
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