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第三章

国境の谷とセクシーキャッツ⑦

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 とりあえず、鉱石の件は多少気になるものの、私の目的には何ら関係ない。
 アルを自国の城に帰す事だけに専念しよう。
 私はミーヤを引き離しつつ、荷物を肩掛け鞄に詰めた。

「ミーヤさん?
 最短距離の道案内をして頂きたい。や
 あと、松明を1つ頂きたいのだが。
 ここは闇が深すぎる。」
「まあ!ミーヤさんだなんて!
 すぐに案内します!もう生命に替えても!」
 「ミーヤ姐さん!マジっすか?」

 道案内だけで生命なくなる道って、どんなだよ。
 まぁ、私のせいで多少ラリってるかもしれないが。
 
「ナナシは寝なくても大丈夫だか?
 オラはとっくに一眠りしたども。
 少しは休んだ方がいいだべさ。」
「大丈夫ですよ。
 神経質なタチなので、闇が深いと不安になるんで眠れないんですよ。
 早く上に上がりたいんです。」
「お化けが怖いんだべか?
 顔はクールなのに、可愛いところあるべな!ははは!」
「そんなところですよ。」

 屈託ないアルの笑顔が私の心にチクリと刺さった。
 闇は私の嫌いな自分を浮き彫りにするから苦手なのだ。
 力など、今の私にはそれ程必要ではないのだ。
 むしろ、おぞましく恥ずかしいとさえ思えるのだから。

 追われるかの如く、私達はセクシーキャッツに案内されて、穴から出て川岸へやって来た。

「いまはまだ雨期じゃないんでね。
 川の水も浅いんだよ。
 元々水捌けの良い地質だから、こんなに地下にあっても湿気が少ないだろ。
 松明が湿気ないのもそれが理由さ。
 さ、川を渡るよ。
 足元の石にだけ注意して。
 ここの川底の石は硬くてツルツルなんだよ。」

 ミーヤは軽やかに水面に顔を出す岩に飛び移った。
 私とアルは靴を紐同士で結び、首に掛けてミーヤの後を確実に追って行った。
 確かにツルツルしていて少しぬるっとした苔も生えている岩を神経を研ぎ澄ませて川を渡った。
 アルも私も身体能力には自信がある。
 時折りソバカス女が川に落ちるのを助けつつ、数分で川を渡る事が出来た。

「アイーナ、ギミックを動かしな!
 兄さん、ちょーっと待っててくださいな。
 とっておきの秘密の経路をお見せしましょう。」

 ミーヤはアイーナにボウガンの矢を上部に放つように指示をした。

「まったく、女ってのは悲しい生き物なんす!
 仕方ないっす、もうっ!」

 ビジュ!トン!
 紐のついた矢は上部の足場の様に剥き出した板に当たった。
 アイーナはそこから垂れ下がる紐を引いた。
 すると矢と共に上下に板が揺れた。

 ズズズン。ガガガ。
 絶壁が何やら音を立てて揺れていた。

「浮遊石を知ってるかい?
 この谷の上までは上がらないものの、途中途中の穴に配置させてあるのさ。
 浮遊石同士は反発し合う。
 それを利用したギミックなの。
 作ったの商人だけどねー。」

 ミーヤの説明が終わると同時に、岩の一部がスライドして開いた。

 「一度に乗れるのは、成人3人まで。
 でも、ギミックを動かすにはアイーナが必要なんで、実質二人。
 兄さんと別れるのは残念だけど、見送りはここまでさ。」

 ミーヤはそういうと、私の顔を引き寄せて頬にキスをした。

「また、いずれ会いましょう。
 兄さんとは深い縁で繋がれてる気がするんだよ。
 私の女の勘は外れた事がないのさ。」
「縁ね…、それじゃ仕方ないか。」

 その勘が当たらない様に祈っりながら、開いた岩の中で光る円形の浮遊石に乗った。
 私から離れて一晩もすれば魅了の効力も消えるであろう。

「ありがとだべ!
 また会えるとええべなぁ!」

 両手を振りながらアルは純粋に別れを惜しんでいた。
 アイーナの先導で、スイスイと浮遊石を乗り継ぎ地上へと辿り着いた。
 まだ頬にミーヤの香水の、甘ったるい香りが纏わりついていた。
 昔の私の周りにはそういう女が大勢いたっけ。
 何が良かったのか今では全く思い出せない。
 むせかえる様な感覚を払うかの様に軽く首を振った。
 私達が地上に着いたのは昼前だった。
 陽の光が眩しく目を細める私の肌に、湿気の少ない乾いた風が吹いた。
 私はマントのフードを深く被って陽の光を防いだ。
 デルア国とは違い、ここは陽射しが強くて湿気が少ない地域の様だ。

「この先1キロメートル程先に国境警備隊駐屯所がある。
 金を沢山用意して、賄賂を渡せば簡単に通れるんだけど。
 この谷があるお陰で国境警備隊なんてほぼほぼ仕事がない。
 真面目に働く気力なんて無くなるらしい。」
「金取るの?
 自国に入るのにだべか。」

 アイーナの説明に、アルは目を丸くした。

「アル、自国を出て他国に入るにも、本来なら金やら証明書が必要なんですよ。
 デルア国にはさながら密入国ですよ、まったく。
 それに、国境警備の兵士に身分を証明する物を私達は持ち合わせていません。
 自国民かどうかの判断さえ出来ないでしょう。
 そんな輩を簡単に国に入れる訳ないじゃないですか。
 ましては、こんな貧しい身なりで『私がこの国の王様です!』なんて、頭がおかしい奴らと取られて牢獄行きですよ。
 それに、側近が国境の一般兵にまで、国王が行方不明だなんて事が知れ渡るなど認めないし、あってはならないはずです。」

 私はアルの耳元で、わかりやすいように説明した。

「じゃあ、金払えばどうにかなるんだか?
 けど、そんなにはエリザから貰ってねぇべ?」
「うっ、それは…。
 持ち金だけで入国審査パスとは行かないかもしれません。」

 言葉に詰まる私に、帰りかけたアイーナが谷に沿って南下する方角を指差した。

「この時期、ここを経由して大国を目指すキャラバンが幾つかやってくるっす。
 向こうにキャラバンの休憩スポットがあるっす。
 入国審査待ちの奴らもいるはずっす。
 紛れ込めば上手く入国出来るかも。
 じゃね。」

 キャラバンか。
 確かに利用出来そうだ。
 キャラバンは個々の審査は緩く団体受付みたいに、グループでの入国審査が基本だ。
 上手くやれば入国がスムーズにいくだろう。

 アイーナに別れをつげて、私達はキャラバンのスポットを目指して歩き始めた。
 
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