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第二章

デルアビド王立蔵書図書館④

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 書籍管理整理室に入ると、数人の職員が個々に仕切られたブースの中、虚な眼で私達の存在など気にせず黙々と書類の山から書籍のデータをB5程の薄い紫で透明度の高い魔法石版に音声入力していた。
 デルアビド王の錬金術で作られた技術を駆使したシステムらしい。
 システムは素晴らしいが、それを使いこなせる者は数少なく、選りすぐられた職員のせいか仕事への集中力は半端ない。

「相変わらずここの職員の眼は死んだ魚の様ですね。
 つくづく常勤でない事に運の良さを感じます。」
「なんなら今すぐにでも特別推薦枠でお前を常勤採用してやりたいくらいだ。
 ナナシの知識量があれば、ここの仕事の消化率も飛躍的に上がるというのに。
 まったく、フラれ続ける彼女の気分だ。」
「かいかぶり過ぎです。
 知識はあっても、それを上手く使う術は持ち合わせておりません。」
「よく言うわ。
 白銀狐めが。
 まったく、お前は食えない奴だ。」

 私の方を腕組みして小さな溜息を吐きながら、上目遣いで視線を流すエリザに軽く笑みを送ってごまかすと、いつもの席へと移動した。

 室内の奥の奥、角のブースで目の前の書類に目を通す。
 乱雑に置かれた書類はまとまっておらず、バラバラの書籍データが山と積まれただけの状態だ。
 私はパッと見でザックリと書類をいくつかのジャンルに分類し、読み上げ易い順番に並べて揃えた。
 うむ、フルスピードを出せば四時間もかからない量だ。
 余った時間をアルバ王国の情報や入国経路など下調べでもしておくか。
 曲がりなりにも元敵の治める国だ。
 なんの情報もなしに乗り込むのは流石に抵抗がある。
 石板はデータを貯蔵魔法石へと送信出来るが、逆にデータを引き出す事も可能だ。
 詳細は本を取り出さなければならないが、ザックリとした概要なら閲覧出来る。

 何も情報が無いよりましだろう。
 アルに聞いても、まともに答えるとも思えないし。
 そもそも、アルは本当に王様になりたかったのだろうか。
 そんな欲望があったとは全く思えない。
 周りの人間に担ぎ挙げられたと考えるのが妥当などころか。

 元々この大陸の六カ国は個々の国王の政権で成り立っていた。
 それを私が統一しようと侵略侵攻した。
 だが、勇者達の阻止にその野望も潰えた。
 各国の王はその時すでに、自害していたか失脚していて、国の機能は麻痺状態だった。
 それを、勇者一行がそのままの国の形態を維持し、新たに再建する事になったはず。
 そして、統一ではなく連合国として協力して行く事を目指している。

 そんな事を考えながらも、自動書記状態で口は書面を淡々と読み上げ、データを蓄積転送して行った。
 一通り、仕事にメドをつけて私はいよいよアルバ王国の概要を検索し始めた。

[連合国規定により、各国情報は閲覧出来ません。]

「これはまた…。
 規制が掛かっているとは。」

 連合国の友好の為なのか?
 いや、それは無いだろう。
 真逆か?
 お互い、連合国に必要不可欠な場合以外干渉しない為の規約なのかも知れない。
 ならば、デルアビド王がアルに会わずに帰国させようとした真意が汲み取れる。

 突然、得体の知れないザワザワとした胸騒ぎが奥底から湧き上がって来た。
 直感的にこの件に関わる事への警告の様に思えた。
 仕方なくアルバ国への地形と経路についてザックリと調べる事とした。
 六カ国中1番面積も小さな乾燥地帯の国らしく、どうやら地形的にはやはり国境の谷が難関か。
 元々交流のあった国どうしではなかった関係なのか、大きな橋などの整備については何も情報が無かった。
 最悪、一度谷を降りなければならないかも知れない。
 まあ、この程度の覚悟は必要と心得た。

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