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第一章

王様と乞食④

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 和やかに食事を楽しんだが、未だ互いの名は明かさずにいた。
 アルバックの考えは分からないが、私から名前を聞くのは自殺行為だ。
 名前を聞かれたとしても答えるわけにはいかない。
 出来ればこのまま、お互いに名乗らずに別れられれば良いのだが。
 
 食事も終わり、ぼちぼちアルバックを帰る様に促そうと立ち上がった。

「申し訳ありませんが、この後私は所用がありまして。
 お土産も無く心苦しいのですが、この辺で…。」
「そだ!アンタの名前聞くのすっかり忘れてたべ。
 おお!ってかオラも名乗るの忘れてたべ!
 オラ、アルバック。
 みんなはアルって呼ぶべな。
 で、名前は?」
「な…ま…、え?」

 唐突な切り出しに、脳みそが完全にフリーズした。
 答えを考える余裕も無かった。
 瞳孔が開き、汗が噴き出てきた。

 このタイミングかよ~!
 危うく逆ギレしそうになっただろうが!
 あぶねーくそッ!
 
 我が名は折れたツノと共に真の魔力の根源として封印してあるのだ。
 その名前を発する事は許されない。
 流石にカチカチにフリーズした私に気が付いたのか、アルバックが様子を伺う様に顔を覗いた。

「おお!わりいわりい。
 名前なんて無い奴もこの世界にはいるべな。
 うーむ、けんど名前が無いと友達としては不便か。」

 んんんん?
 と、友達だあー?
 フリーズどころか、脳みそがフルスピードで大混乱だ。
 いつ、どのタイミングで友達になったって言うんだ!

「…ナナシ!ナナシがええべな!名前が無いからナナシ!おお!完璧だべさ。
 アンタの名前はナナシ決定だべさ!」
「あ、はぁ。どうも。」

 はっ!思考回路が大混乱で容認してしまったー!
 くっそーコイツのペースに乗せられた!マジか?マジか?ダッセー名前だ!センスの欠片もない!
 この私の名前がナナシー!

 ダブルパンチどころかボディブローまで食らってダウン寸前の私はふらふらと、かけてあった黒い薄汚れたマントを羽織った。
 一刻も早くこの場、いやコイツから離れなければ。

「用事ってなんだべな?
 オラも着いて行くべな!」
「いえいえ、そんな大した用事では…月に2.3度やっている最低限の小銭稼ぎの仕事に行くだけです。」
「いやいや、一食の恩義を返さずにいられるべかな!
 よっしゃ!行くべな!」

 あまりの事態の急展開に頭がクラクラしてきた。
 もう、反論する気力も無い。
 仕方ない、ここは一つ仕事場である王立蔵書図書館で、隙を見てコイツを撒いて逃げよう。
 図書館は静かにしなければならない場所だ。
 コイツにペースを乱される事なく逃げられる可能性がある。
 それに、こう言う奴は図書館とは無縁の奴が多いし、退屈するに決まっている。

「わかりました。
 仕方ありませんね。
 ただ、私の行く先はここから1時間以上歩いた先にある街の中央にある王立蔵書図書館です。
 場所柄大人しくしていただければ。
 お手伝い出来る事があるかは分かりませんが、司書官長のエリザに話しを聞くと良いでしょう。
 では、いざ王立蔵書図書館へ。」
「この街の図書館は初めてだべ。
 面白れぇ事起こるといいべな。
 な!ナナシ!」
「仕事、ですよ。アルバック。」
「アルでええてばよ。アルで。」
「わかりましたアルでは、ご一緒に。」
 
 小屋に簡単な鍵をかけ、マントのフードを被り、私とアルは王立蔵書図書館へと足を運んだ。
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