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第一章

王様と乞食⓷

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 レンガ造りの小屋は、薪小屋だった為に部屋の半分は薪が詰まっている。
 小さな釜戸が狭い部屋の暖炉がわりともなっていて、狭い分テーブルや椅子など置く場所すらない。
 手作りの蝋燭の部屋の灯りだ。
 窓も薪に隠れて八割が閉ざされている。
 僅かに換気が可能なくらいだ。
 薄暗い部屋の中、く薪の上に布団がわりの布切れを被せ椅子がわりにしてアルバックを座らせた。

「洞窟生活思い出すべな。
なんかワクワクするべな。
 そだ、この大砂ネズミ死後硬直でちょびっと硬くなってるけど、なんとか捌けるべ。
 オラのナイフ貸したるべ。
 切れ味バツグンだべさ。」
「ありがとうございます。
 では、この板の上に。」

 まな板がわりの木の破片に大砂ネズミを乗せた。
 私は一度そのまま一片の薪の上にそれを置いた。
 そして、いつもの様に両手を合わせた。

「……!」
「………。」

 気が付くと、アルバックが私の向かい側で同じ様に、瞼を閉じて両手を合わせて首を垂れていた。
 
「オラの昔からの癖だべ。
 コイツは何も悪くないし、オラの為だけに死んでくれた。
 命を繋ぐには必要な行為だども、感謝の気持ちは表してやりてぇんだ。」
「そうですね。
 昔からとは尊敬します。
 私はつい最近まで、その事に気が付かずに生きて来ました。
 お恥ずかしい話しですが。」
「いんゃあ、恥ずかしがる事ねぇべ。
 ほとんどの人間が自分の周りの事だけで手一杯だべ。
 オラは単純だから難しい事考える代わりに生きる事に感謝を表してるだけだべ。
 考えるより行動が先に出ちまうで、深い意味はねぇべさ。
 ま、知り合いには貧乏臭いってバカにされっけどな。
 はははは。」
「御謙遜を。
心が広いということは、とても良い財産ですよ。
 さぁ、これから砂ネズミのステーキでも作りますか。
 山菜のサラダに干物から出汁を取ったスープを添えて。」
「おお!美味そうだ。
 オラ、素で焼くか煮るかしか出来ねぇべ。
 よろしくお願ぇしますだ。」

 白い歯をニッカリと出しながら、屈託ない笑顔を見せた。
 本当に純粋なんだな。
 純粋すぎて、なんだかコイツに敗れた私が本当に欲望まみれだった事を思い出した。
 何が世界を我が手にだ。
 何が天も地も我等魔族が統一するだ。
 薄汚い両手に余るほどの権力を欲しがるガキの戯言だった。

 肉を捌くのに時間が多少かかったものの、簡単な料理だった為短時間で料理は出来た。
 実は魔王であった頃から料理も多少の心得はあった。
 知識の一片として、女子供の行っていた家事の知識は一通り頭に入っている。
 私の側近は年老いていたが、その分世の中のありとあらゆる知識を得ていた。
 そして、国を統べるのなら知識は多い程に糧となると教えられた。
 知識は選んで得てもその効力は発揮できない。
 知識は数あってこそ、その中より選別し、効果的使い方が出来るとよく小言の様に言っていた。
 今なら、その意味の深さを感じる事が出来る。
 

 さて、外から大きめの葉でも取ってくるか。
 スープの椀はどうしたものか。
 何せ私独りで、食器をわざわざ使うのも不毛だと、常に鍋から直接食べていた。
 椀なども使わないし、コップがわりに柄杓からダイレクトに水を飲んでいた。
 客人などこの小屋に招いた試しはないのだ。
 そんな事を焼けたステーキと鍋のスープを見ながら考えるて、横目でアルバックを見た。

「グッドタイミングだべ!
 丁度、皿とカップが彫れたべな。
 肉も切れて、木工細工も出来る。
 流石、親父のナイフだべ。
 なぁ、ヤスリ石あるべかなぁ?
 なくてもええけど、ヤスリかけた方が口当たりはええんだども。」
「薪の切れ端を使ったんですか?
 器用ですね。
 そのナイフも手入れが行き届いて切れ味がバツグン。
 丈夫さも申し分ありませんね。
 あ、ヤスリ石なら丁度蝋燭立ての横に小サイズの物が。」

 私はヤスリ石を2つほど手に取った。
 互いに一つづつ取り、即席の木製食器にヤスリをかけた。
 
「おっと、忘れてたべ。
 知り合いの武闘家が持ってたもんを真似て持ち歩いとったんだわ。
 えーと、ハシとか言うやつ。
 ナイフやフォークより便利がいいべな。
 細い棒切れ2本でなんでも食える。
 アンタの分もあるべな。
 素手で食べるのが1番だども、衛生的に良くないんだと。
 アンタもこれ、使ったらいいべさ。」
「ハシですか?
 薄らと聞いた事はありますが、
 使うのは初めてです。
 どうやって使うんですか?」

 ハシの使い方などで、食事は盛り上がって、私も珍しく頬を緩めてしまった。

 
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