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3学期
『勉強会』前日2
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旧理科室のドアを開けて中に入った。
暖房のスイッチを入れて、コートを脱ぎ、実験台の上に腰掛けて、僕は田宮を見つめた。
「田宮…。
もう、気が付いてたかもしれないけど…。
僕は、ずっと…4月から、ここにいる君を見ていた。」
僕は今までの自分の事を、正直に打ち明けた。
「先生…。」
「隣の旧理科準備室…。
あそこから…あの中扉の窓から、見ていた。
覗いて気持ち悪いと思われるかもしれないけど…。
当時、僕は君を守らなきゃって、本気で思ってたんだ。」
「私を…守る…?」
「一昨年の夏休み中に、君はここで密かにお姉さんの作品を作らされていた。
僕は偶然、それを目撃した…。」
「憶えています。
私…見られた事に、動揺してしまって。
旧理科準備室に入ろうとしたけど鍵が掛かってて。
棚の下段に入って、戸を閉めて貰ったんです。」
「ええっ!あの下に?」
「はい。うずくまりながら。」
「そっか。それは考え付かなかったな。
…で、推薦入試で君が、この学校に入る事を知った。
そして…偶然、お姉さんとの会話を聞いてしまった。
余計に夏休みに、君がここにいた事が、気になって…お姉さんに利用されてるのがわかったし。
君に何か危険が起きないように、旧理科準備室から監視するようになったんだ。
すまない…。
あんまり、気持ちのいい話しじゃないよな。」
「いえ。正直に話して下さって、嬉しいです。
だって、私の為なんですよね?
そんな風に考える人なんて初めてです。」
君の優しさ溢れる答えに、僕は安堵した。
【嫌い】という概念がないからかもしれないが、僕にとっては最高の答えだ。
「先生が正直に話して下さったから、私も正直に話します。
私…先生が怖かったんです。」
「怖かった…?僕が…?」
「はい…。
何て言っていいか…。
【危険】を感じたんです。
それは…自分にとても近くて、遠くて…ん。
えっと…鏡の向こうで反転してる自分の様な…。
そして…やはり死に近い位置に居ると感じました。
わからないですよね。
とにかく、感覚的には怖かったんです。
だから…突き放す行動を取ってしまって。
ごめんなさい。」
「今は…どう?
まだ怖いかな?」
「ふふふ。いいえ。
全然、怖くありません。
…安心します。
やっぱり、どこか似てるんでしょうかね?
私と先生。」
「それって、変わってるって事か?
ははは。確かに変わり者かもな僕等は。」
「そうですね。」
君は隣で、脚をブラブラさせながらクスクス笑っていた。
「田宮は絶対に否定するし、認めないと思うけど…。」
「何ですか?」
「僕は…田宮と出逢えたのは運命だと思ってる。
いや、思いたいんだ。」
「運命…ですか…。」
「いいんだ。君は認めなくて。
それでいいんだ。
僕がそう、思いたいんだ。」
「ん…。もし、運命だとしたら…どんな形になっても2人はすぐに、巡り合えますね。」
「えっ?」
「例えば…前世…、後世…、死んだ後も、絶対に巡り合えますね。」
「あ!うん!それがいい!」
僕が素っ頓狂な声を上げたので、君は声を出して笑い出した。
「あはは。
子供みたいですよ。
今の反応。
可愛いですよ。」
「可愛いってな…。
もう、僕もオジさんだぞ。」
「アラサーですか?
大丈夫です。
精神年齢が幼ければ。」
「ひっでぇな!もう…。」
毒のない毒舌も心地いい。
やっぱり、隣りは君がいい…ずっと…。
運命であって欲しい…前世も後世も、ずっと…。
「明日…宜しくお願いします。」
『勉強会』…急に現実に引き戻された。
「こちらこそ。宜しく。
手加減するなよ。」
「出来ればいいのですけど…不器用なので。」
僕は君の頬を寄せて、おデコに自分のおデコをくっ付けた。
「知ってるさ。それくらい。」
「はい…。」
キスなんかより、ドキドキした。
間近の君の瞳に、ハッキリと僕が映った。
僕以外…映らない瞳に…吸い込まれそうだった。
暖房のスイッチを入れて、コートを脱ぎ、実験台の上に腰掛けて、僕は田宮を見つめた。
「田宮…。
もう、気が付いてたかもしれないけど…。
僕は、ずっと…4月から、ここにいる君を見ていた。」
僕は今までの自分の事を、正直に打ち明けた。
「先生…。」
「隣の旧理科準備室…。
あそこから…あの中扉の窓から、見ていた。
覗いて気持ち悪いと思われるかもしれないけど…。
当時、僕は君を守らなきゃって、本気で思ってたんだ。」
「私を…守る…?」
「一昨年の夏休み中に、君はここで密かにお姉さんの作品を作らされていた。
僕は偶然、それを目撃した…。」
「憶えています。
私…見られた事に、動揺してしまって。
旧理科準備室に入ろうとしたけど鍵が掛かってて。
棚の下段に入って、戸を閉めて貰ったんです。」
「ええっ!あの下に?」
「はい。うずくまりながら。」
「そっか。それは考え付かなかったな。
…で、推薦入試で君が、この学校に入る事を知った。
そして…偶然、お姉さんとの会話を聞いてしまった。
余計に夏休みに、君がここにいた事が、気になって…お姉さんに利用されてるのがわかったし。
君に何か危険が起きないように、旧理科準備室から監視するようになったんだ。
すまない…。
あんまり、気持ちのいい話しじゃないよな。」
「いえ。正直に話して下さって、嬉しいです。
だって、私の為なんですよね?
そんな風に考える人なんて初めてです。」
君の優しさ溢れる答えに、僕は安堵した。
【嫌い】という概念がないからかもしれないが、僕にとっては最高の答えだ。
「先生が正直に話して下さったから、私も正直に話します。
私…先生が怖かったんです。」
「怖かった…?僕が…?」
「はい…。
何て言っていいか…。
【危険】を感じたんです。
それは…自分にとても近くて、遠くて…ん。
えっと…鏡の向こうで反転してる自分の様な…。
そして…やはり死に近い位置に居ると感じました。
わからないですよね。
とにかく、感覚的には怖かったんです。
だから…突き放す行動を取ってしまって。
ごめんなさい。」
「今は…どう?
まだ怖いかな?」
「ふふふ。いいえ。
全然、怖くありません。
…安心します。
やっぱり、どこか似てるんでしょうかね?
私と先生。」
「それって、変わってるって事か?
ははは。確かに変わり者かもな僕等は。」
「そうですね。」
君は隣で、脚をブラブラさせながらクスクス笑っていた。
「田宮は絶対に否定するし、認めないと思うけど…。」
「何ですか?」
「僕は…田宮と出逢えたのは運命だと思ってる。
いや、思いたいんだ。」
「運命…ですか…。」
「いいんだ。君は認めなくて。
それでいいんだ。
僕がそう、思いたいんだ。」
「ん…。もし、運命だとしたら…どんな形になっても2人はすぐに、巡り合えますね。」
「えっ?」
「例えば…前世…、後世…、死んだ後も、絶対に巡り合えますね。」
「あ!うん!それがいい!」
僕が素っ頓狂な声を上げたので、君は声を出して笑い出した。
「あはは。
子供みたいですよ。
今の反応。
可愛いですよ。」
「可愛いってな…。
もう、僕もオジさんだぞ。」
「アラサーですか?
大丈夫です。
精神年齢が幼ければ。」
「ひっでぇな!もう…。」
毒のない毒舌も心地いい。
やっぱり、隣りは君がいい…ずっと…。
運命であって欲しい…前世も後世も、ずっと…。
「明日…宜しくお願いします。」
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手加減するなよ。」
「出来ればいいのですけど…不器用なので。」
僕は君の頬を寄せて、おデコに自分のおデコをくっ付けた。
「知ってるさ。それくらい。」
「はい…。」
キスなんかより、ドキドキした。
間近の君の瞳に、ハッキリと僕が映った。
僕以外…映らない瞳に…吸い込まれそうだった。
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