手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

黒姫とヘタレ王子1

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午前中の担当授業を終えた10時50分の中休み。
職員室に田宮 美月が入って来た。
卒業式の打ち合わせの様で3年の先生方と話し終えた後、僕の席まで近寄って来た。

「おはようございます。武本先生。」
「おはよう。放課後、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。
あら…そのベスト…。」
「…!」
そうか!姉だからこのベストを編んでるの知ってるのか…。
恥ずかしいいい!

「似合ってますね。
先生にピッタリの色。
淡い色で。」
「ど…どうも。」
くそっ!知ってんだろ!
もーわかってんならスルーしてくれよ!

「先生…。
あの子の時計…少しづつ動き出してる。
でもね、たまにはネジを巻いてあげないと。
アナログって下手すると止まっちゃうから、気をつけてくださいね。ふふ。」
「あ…そうか…。そうだな。」
田宮 美月なりのアドバイスだった。
それも、的確だ。
側から見たら、僕と彼女の関係はきっとイライラするくらいもどかしい物なんだろうな。

「放課後少し、早めに来ますね。
謝罪する方が遅刻なんて、礼儀に反しますし。」
「ああ、そうだな。
頼むよ。相手もその方が話しやすいだろう。」
「では、放課後に。」
「あ、田宮。」
「はい?」
「悪かったな…僕は今まで、君に失礼な態度を取って来たと思う。
不快だったよな。」
僕は素直に謝った。
「あははは。
先生、それは私が言わなきゃならないセリフですよ。
面白すぎますね…本当に。
ごめんなさい。
そして…ありがとうございます。」
そう言って笑う彼女の表情に、僕は醜悪を全く感じなくなっていた。
それどころか、清々しい爽やかな笑顔に感じた。

去って行く彼女を見て、安堵の表情を浮かべた途端に、清水先生の視線を感じた。
コーヒーを入れながら、こっちをニヤニヤして見ている。
僕は慌てて机に向き直した。

「おう、おう。風邪の調子はどうだ?
もうマスク取ってるが…朝はそんなベスト着てなかったよな…。」
やっぱり、田宮 美月との会話を盗み聞きしてやがったな!
このスケベ牧師!
「寒気防止です!他意はありません!」
「ほう~ほう~、どう見ても手編みだよなぁ。
お母さんに編んで貰う歳でもあるまいし…。
ぐふふ。陰で何してんだよお前らは。」
「むやみに顔を近づけないで下さい!
何もしてませんよ!
清水先生の想像してる下品な事は一切してませんよ!」
「下品な事って何だよ。
ディープキスしといて良く言えるな、お前。」
「ぐっ!そこは突っ込まないで下さいよ!」
「まあ、ラブラブなのはいい事だよ!
青春だね~。
ちゃんとした責任さえ取れるなら、俺は大賛成してやるから、安心して乳繰り合え!」
「だから、乳繰り合ってません!もう!」

そりゃ、僕だって男だから、そういうのを想像しないと言えば嘘になる。
けど…僕は田宮 真朝の時間に合わせたい。
本心でそう、思ってるんだ。
ゆっくりと、心地よい時間の中、2人だけの空間を感じていたい。
永遠に似た時間の中を。

昼休み、牧田からの報告電話が掛かってきた。
「ねー。私の連絡必要ないでしょ。
2人で視線合わせてニタニタしちゃって。
鼻の下伸びっぱなしじゃん武ちゃん!」
「うっ!気づいてたか。」
さすがは妖怪恋愛アンテナ。

「もう、ラブラブ光線出しっ放しなんだから。
真朝も成長したよね~。
凄く色っぽいし、艶っぽくなって!
女性ホルモンダダ漏れじゃんって感じ~!」
「えっ…マジ?あ、でもそれって僕に対してって確証ないかな…。」
「武ちゃん!武ちゃん!今更何ほざいてんの?
どう見ても、武ちゃんでしょーが!
お互いに、鈍感過ぎ!
安全運転し過ぎだよー!
恋は危険承知のハイスピードだよ!」
「お前、何言ってんだよ。
とにかく、もうシカト作戦終わりだから、連絡終了でいいぞ。
今まで、ありがとうな。」

「安心してないで、ちゃんと最後まで行きなよ!
バレンタインに金井先生に拐われない様にね~。」
「一言多いんだよ!わかってるよ!じゃあな!」
プッ。

電話を一方的に切った。
「はぁ。疲れた。」

けど…これで余計に自信がついた。
恋愛アンテナが保証してくれた様なもんだ。
ラブラブって事は一方的じゃないっていう事なんだから。
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