手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

学者と王子と魔法の解けた魔女4

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「なるほど…それで今のシステムを構築したんですね。」
金井先生が相づちを打った。
「そう。それもお金に困ってたり、悩みの深い子を選んだわ。
少しでも罪悪感を薄めようと思ったの。
そして、思った以上にバカな大人が次々と女子高生に大金を払っていった。
利用されてるとも考えないで。
私は、呆れて大人を腐った生き物にしか見られなくなったわ。
家に帰れば、母親は狂気を振りまくし、真朝と同じ…私にも居場所が無かったのよ。」

田宮 美月の心は既に崩壊していたんだ…僕が出会った時には…。
だから、僕は彼女に醜悪を感じていたのかも知れない。
大人への異常な嫌悪感。
全ては、大人自身が作り出した怪物だったんだ。
大人が彼女にかけた呪いだったんだ。

「だから…真朝が羨ましかったわ…。」
「えっ…?何で?」
田宮 美月の急なセリフに目が点になった。
「あの子は…どんなに大人に罵倒されたり酷い扱いを受けても、汚れない…。
あの子の心はどんな大人にも汚され無かったのよ。
強くて、美しくて、私には光り輝いてさえ見えたわ。
そして、そんな中…武本先生が現れた。」
「んんんんん?僕が…?」
僕の存在がで出てきて動揺した。
金井先生は人差し指を口元に当てて、黙る様に指示を出した。

「武本先生って…バカな大人以上にバカなんだもの…。
バカがつくくらいに…真朝を護ろうとして…。
自分は非力なくせに…そんなの構わないって身をていして。
私の周りにはそんな大人いなかったわ。
チヤホヤする人はいても…。
だから、少しヤキモチを妬いて虐めてしまったの。
私はあの子には敵わないって、本当はわかってたのに…人間的な物がまるで違う。
きっと、私…真朝に憧れてたんだわ。
本当はあの子の様に、強くて、鋭くて、柔らかくて、美しくて…そんな心になりたかったのよ。」
「ありがとうございます。
美月君の本当の声を聞けて良かった。
売春行為や売春斡旋は犯罪です。
しかし…それを求めたのは、悪い大人です。
自己の欲望で大切な物を見失った野獣の様な大人達がいる限り、今回の事を警察沙汰にしても、何の解決にもならない。
そう、僕は考えています。」
金井先生は真っ直ぐに田宮 美月に視線を合わせて説明を始めた。

「僕が1番大切なのは、これから大人に成長する子供達に、自分の目指した大人への在るべき姿を見失わない事を学ばせる事だと思います。
既に腐った大人に何を言っても無駄なのは歴然としています。
社会もその大人が作り出した物です。
しかし…この先の社会を作るのは今の子供達です。
あれほど嫌だった汚れた大人に、染まる意思の弱さに打ち勝たなければ、世の中は何一つ変わらないのです。
無理だからと諦めれば、目指した物に近づく事さえ出来ないのです。
反面教師だらけの世の中です。
だからこそ、自分を見失わないで下さい。
それこそが、唯一の明るい未来を創る糧となるのです。
汚い大人を忘れないでください。
あえて、胸に刻んで下さい。
自分がそうならない様に…染まらない様に…自分が目指していた崇高なる人間を目指し続けて下さい。
1人1人が、その志をもって大人になれば多少なりとも世界は変わり、動き始めるはずです。
私は、それを信じたいし、信じている大人の1人です。」
金井先生の願いを込めた言葉一つ一つが、ずっしりと重みを持って僕の胸にも、そして田宮 美月にも刻み込まれた。
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