手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

オカン的恋愛相談

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そして…今、僕と安東はカフェで向かい合って座っているんだが…。
「そうですね~。
シカトも程々だと、相手には効果的ですが、度がすぎると呆れられますしね。
駆け引きと言うくらいだから、少し仕掛けをしてみてはどうですか?」
カプチーノを一口飲みながら、安東が落ち着いた口調で言った。
「仕掛け?」
安東から出てくるセリフとは思えなかった。
オカン…侮れない…。

「うーん。
そうだなぁ…女の子がキュンキュンしそうな感じ…。」

「キュンキュン!?」
イメージないわー!
田宮が僕にキュンキュンって…。

「2人だけにわかるもの…ん…。
アイテムっぽいのペンとか、指輪とか、時計とか…。」
「ペアのブレスレットならあるけど…僕が勝手に買ったやつ…。」
「ああ!それ!
ワザと学校に身に付けて行って下さい。
そして…授業中ワザとチラ見せするんですよ!」
「チラ見せ…効果あんのかなぁ?」

「いいですか?
そのブレスレットの意味は2人だけしか知らない。
そういうものを大事に身に付けてる、ってのは恋人達の良くある風景です。
しかし、授業中という特殊な場所でなら…周りの人が皆んな見ているのに、自分と彼女しか知らない秘密感を感じるってのはドキドキする物です。
周りの人の目に入ってるってのがミソなんですよ!
田宮さんの直の反応を実感出来ますよ。
あ、チラ見せでお願いしますよ。」

安東の的確なアドバイスに度肝を抜かれた。
久瀬といい、安東といい僕よりも恋愛経験豊富じゃねー?
…あれ?
「…安東。
お前って、その、振られたんだよな。」
失礼ながらも聞いてしまった。
「はい。
まあ自分の事が見えないのが恋愛でして。
それに、僕、騙されやすいんで。
人間が好きすぎて、無意識に嫌いになるようなところを見ないようにしてたみたいです。
久瀬には怒られましたけど。ははは。」
安東は照れながら、前髪を掻き上げた。
「確かに、懐が深いってのも難点だな。」

「僕の事はさて置き、その反応次第では田宮さんに急接近出来るはずです。
何せ、相手の気持ちの度合いが測れますからね。」
「そっか…。」
何か今からドキドキしてしまった。
田宮の直接の反応なんて、今までほとんど見れてない。
結果が良ければ、僕も自信がつくって訳か。
けど…。

それは入試採点後だよなぁ。
あと、今日を入れて3日後…。
3日も我慢か。

本当なら今すぐに呼び出して会いたい…。

「あ、そうだ。久瀬から頼まれ事が…。
このアンケートの答えのみを久瀬にメッセージで送って下さい。
今、やってる事に必要らしいです。」
「ん?アンケート?」
安東が差し出した紙を見た。

1、好きな色、嫌いな色
2、好きな季節
3、柔らかい、堅いどちらの感触が好き
4、目を瞑って出てくる漢字を5つ

「はああ?何だよこれ。
占いみたいだなぁ。」
「あはは。僕もそう思いました。
でも、これで答えが見えるって言ってました。
おそらく、田宮さんの指示かと。」
「田宮の…!」
そうか、勉強会の準備を久瀬に頼んでるのか。
これは、心理テストか何か…?

「まぁ、先生の恋愛が成就したら、今度は僕に女の子紹介して下さい。
こればっかりは久瀬には無理なんで。
あいつの周りの女子はあいつしか目に入りませんから。」
「そうだなぁ…。
って…。
前から疑問だったんだけど…。
久瀬のタイプの事…。」

「ああ、ゲイって事ですか?
もちろん知ってますよ。
入部して、すぐくらいから。」
「マジ?本物って知ってたのか?」
「ええ。でも、好みの問題ですからね。
取り分け嫌悪感はありません。
僕はノーマルですからね。
食べ物の好き嫌いみたいな違いですから。
人間的には久瀬はいい奴です。
相手に気を遣いすぎなところがありますけど。」
「オカン…最強だ…。」

久瀬の言う通り、安東の心は宇宙並みに広いと感じた。
そして…久瀬が彼に本気になる気持ちも少しだけ、わかった気がした。
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