手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の我慢1

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久瀬と安東がひとしきり騒いで帰った後、僕は彼女のウェディングドレス姿の写真を見つめながらベッドの上に腰掛けて考えていた。

せっかく、多少甘えたり、イチャついたり出来ていたのに…いきなりシカトしろってったって…。
しかも…来週は入試や入試採点などあって生徒の休みも多い。
金井先生が出し抜いてくるだろう当然!
せっかくリードしてても、アッと言う間に追い抜いてカップル成立なんて事になったら…僕の間抜けっぷりはハンパない事になる。

でも…安東が僕の存在を増幅させるって…。
本当にそうなるのか?
そもそも、本当に僕が好かれてる保証はない。
勘違いのままシカトして…遠ざかってしまったら…。

くそっ!頭が回らない…。

ボクガスカレル…ソレハナイヨ…。

「えっ…。今の…。」

しばらく聞こえなかった…あの…声!
マズい!ダメだ!考えるのをやめなきゃ!

ボクハ、ソンザイヲキョヒサレテル…スベテカラ。
イラナイシ…イナイヨ…ソレガタダシイ…。

「うぉああ!」
身体中から気持ちの悪い汗が吹き出た。
鼓動が…息が…乱れる。
はぁはぁ。
意味がわからない…!何だあの言葉!
僕の心から発せられてるのに…まるで攻撃されてるようだ。

やめよう。
マイナスに悩めば悩むほど、頭の中がおかしくなる。
ここは、久瀬の言う事を聞いて見よう。
田宮の扱いは、おそらく久瀬が1番良く知ってるはずだ。
それに…僕は僕自身をコントロールするので精一杯って感じだ。
ここに来て、やたらと事態の急変がおきて、状況に着いて行くのがやっとだ。

僕は彼女の写真をそっと閉じると、ワークデスクの引き出しにそっとしまった。

僕はその夜、少しだけ彼女が僕を意識している姿を夢に見ながら、深い眠りについた。


翌朝、いつもの癖で早く起きたものの彼女から距離を置かなくてはならない為に、旧理科室には行けない。
どうしよう…以前のように旧理科準備室で彼女の様子を見るだけにしようか?
いや…以前と違って我慢出来る自信が無い。
昨日、金井先生とのデートの件も本当は気になって仕方ないくらいだ。
ああ!でも彼女を見ずに、視線を合わせずに今日一日を過ごせるかさえ不安だ。

こういう時こそ写真とか手元にあるといいが、僕の手元で持ち歩ける写真は、入学直後の証明写真のみだ。
手帳にしっかりと挟まれたままの。

そんな、憂鬱そのものの顔で僕は出勤して職員室に入った。
あ…白衣…旧理科準備室に置きっ放しだった。
田宮に会えないわ、白衣はないわ…踏んだり蹴ったりだ!まったくもう!

「おっす…怖っ!何だよその地獄の底に堕ちた様な生気のない顔は!
あ…バレンタインデーの件か…?」
「おはようございます。清水先生。
いえ、そんなんじゃないです。」
清水先生は隣りの自席に座つた途端、呆れた声を上げた。
「じゃ、何なんだよその面は!
こっちまで、滅入ってきちまう!
実力テストの返却でンな顔すんなよ!
勘違いした生徒が傷つくだろ!」
「はぁ。そうっすね。気をつけます。」
魂の抜けた様な返事を返した。

いつもなら、田宮の顔を見るか声を聞いて、元気を貰うんだが…今の僕にはそれが厳禁なんだ。
ってかいつまでなんだよ!
いつまで続けりゃいいんだよ!
まだ1日すら経ってない朝の職員室で、僕は既に限界を感じていた。

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