手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子と学者のお話し2

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「どうせ、武本先生も誘ってるんでしょう。
バレンタインデー。」
「えっ…あ…それは…はい。」
僕は少し戸惑いながら正直に答えた。
「応えはもらえました?」
「いいえ…返事は待ってくれと言われてます。
まぁ、きっと無理かなって思ってるので…。」
そもそも、クリスマスと違って恋人じゃない者同士がバレンタインデーを一緒に過ごすなんて、おかしな話しだ。
僕だって、彼女をどうしたいというより…単に金井先生に彼女を取られたくない一心で、彼女を誘ったんだ。
単なる…嫉妬心なんだ。
そんな軽はずみな僕の願いを、彼女は聞くだろうか?

「武本先生はいつも、ズルいですね。」
「はい~?ズルいって…。」
何ですか?急にケンカ売ってるのか?
「いつも弱気で、自信無さげでいるのに、最後には美味しいところを持っていってしまう。
実際、羨ましいですよ。」
「あ、クリスマスイブの件は…牧田の手伝いがあったからで、自分の力では…。」
そうだ…いつも久瀬や牧田…清水先生に助けられてる。
情けないな。

「でも、弱気だからですかね。
放って置けなくなる。
そんなところが、武本先生の魅力なのかもしれませんね。」
「魅力って…。男としては失格でしょう。
恥ずかしいですよ、まったく。」
頼りがいのカケラもない。
金井先生みたく、全てにおいて完璧な人を見ると余計にヘコむわ~。

「僕は羨ましいんですよ、そういうの。
心理学的にも、他人に弱味を見せられる人の方が共感されるんですよ。
僕のように、他人に弱味を見せるのが下手な人間は、1人で大丈夫とか思われがちなんですよ。
本当はそんな事無いんですけどね。」
「そうなんですか?
…金井先生は完璧で泣いたり、弱音なんか吐かない人だと思ってました。」
「ほらね。
下手なイメージついちゃってるでしょ。
僕だって人間ですよ。
辛くて、悲しくて泣きたい時くらいあります。
誰かに側にいて欲しいと思う夜もあるんですよ。」
金井先生は窓辺に寄りかかり、白衣に両手を入れて微かに笑った。

そうだった…彼女がそうだ。
大丈夫って…いつも1人で全てを抱え込んで…。
僕は…もっと僕を頼って欲しくて…苛立った事もあった。
でも…それはひとえに、僕が頼りないだけであって…彼女は頼りたいと…心のどこかで思ってるとしたら…。

『そうですね。
もう少し食べてもらわないと…頼りたくても頼れないですね。』

あれは…本心だったのか?それとも…。
僕はどうすればいい…君の望む僕はどんなだ?
大丈夫…なんて言葉じゃなく…ちゃんと言って欲しい…。
僕は…君に何が出来る?
君が望むなら、僕の全てをあげるから…教えてくれないか?
なぁ…田宮 真朝…。

僕は切なさに胸が苦しくなった。

何度抱きしめても…何度キスしても…彼女が僕を好きになる理由にはならない。
そんなの…わかってるはずなのに…。

窓辺で黙ったままの金井先生もまた…切ない表情を見せていた。

バレンタインデー…彼女はどちらを選ぶのだろう…または…どちらも選ばないか…。

彼女は知っているだろうか?
大の大人が2人…君への想いで押しつぶされそうになっている事に…。
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