手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

実力テストの陰で…。

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1月最終日の水曜日、実力テストが行われる。
そして…その影で、僕らは葉月から詳細を聞く事になるんだ。
朝起きて、ワークデスクの引き出しから彼女のウエディングドレス姿の写真を出した。
「おはよう。今日は気合いを入れなきゃな。」
彼女に囁くように、言葉を発した。
実力テストの当日にさすがに、田宮とイチャつく訳にもいかないので、写真を通して彼女に意気込みを語ったのだ。
そして…昨日のキスを思い出す。
君のキス1つで僕は暗闇を抜け出せる…。

あいにく、昨夜からの雪で学校への道もいつもより時間が掛かってしまった。
葉月はおそらく、ギリギリに登校してくるはずだ。
その前に職員室で清水先生と軽く確認しておきたいな。

「あ、清水先生!おはようございます。」
指紋認証の出勤を記録してる清水先生に声を掛けた。
清水先生も今日は早めに出勤してくれていた。
「おう。今日だな。」
「はい。」
「気合い充分だね。
何かいい事あったか?」
「変わりませんよ。いつもと。」
「クールだね~。ったく。
大人に成長しちゃって可愛げねぇの。」
「随分前から、大人ですが。」
「そんなに言うなら、姫に大人の男の手ほどきしてやれよ。
得意なんだろ、大人の経験者は。」
お!大人の経験者…男の手ほどきって…。
昨日のキスがフラッシュバックした。
赤い顔で慌てて切り返した。
「はああ?バカですか?もう!」
「ははは。ま、気楽に力抜いて行こう。」

バンバン!
清水先生は僕の背中を叩くと自席に向かった。
きっと、清水先生なりに僕に気を遣ったんだと思う。
僕も自席に座って実力テストの準備を始めた。

「テスト終了後、お前や金井先生じゃ目立つから、俺が葉月を連れ出す。
ホームルーム後よりテスト終了後の方がいいだろう。」
「えっ、ホームルーム欠席ですか?」
「テスト終了直後は、生徒は気を抜いた直後とか、問題見直しする生徒が多い。
他人に注目する事が少ない。
だから、その隙を狙って会議室に連れてく。
お前は、葉月がいなくてもさっさとホームルーム終えちまえ!
生徒に突っ込まれたら、体調不良で帰宅させたとか何とかゴマかせ!いいな。」
考えてないようで、ちゃんと考えてんだなこの人。
「わかりました。」
「葉月には電話で休憩時間は、常に教室。
トイレは友達と必ず一緒に行けと伝えてある。
ま、女子は基本連れションだから、大丈夫だろ。」
「確かに…。」
昔から女子は何故トイレに集団じゃないと行けないんだろう。
永遠の謎だな。

実力テストか…まあ、今回は白紙答案はさすがにないだろうから、淡々とこなせばいいかな。
とにかく放課後の会議室での葉月の証言で、確実に事態は動くはずだ。
そして…この件がひと段落ついたら…《勉強会》だ。

彼女を救う方法はまだわからないけど…ヒントは掴んでる。
彼女に生きる目的を、どうにかして与えなきゃ。
そして…僕自身も…記憶の呪縛から脱してみせるんだ!

朝のミーティングで実力テスト中の注意事項の説明を受け、試験官の時間とクラスの確認をした。
前もって清水先生は自分が最終テストで、3組に行く事を調整していたようだ。
学年主任ならではだな。

ミーティングを終えて、自席に戻り実力テストの準備を始めながら清水先生に小さな声で話し掛けた。
「そういえば、登校拒否の生徒はどうなったんですか?」
「金井先生が調べてる。
メンタル的な事が大きいからな。
葉月の件が終わったら、様子を聞いてみよう。」
「はい。わかりました。」
僕と清水先生は職員室を出た。

実力テストを受ける生徒よりも、緊張感MAXで教室へと向かった。
なるべく葉月を意識しないように…自然にしなければ。
勝負の放課後まで…。
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