222 / 302
3学期
白衣を君に…1
しおりを挟む
日曜日の朝。
朝早く目覚めた僕は、昨日葉月を助けられた達成感で心が満たされていた。
まだ、詳細は解明出来ていないものの担任の生徒を守る事が出来たのだ。
シャワーから出ると、ふと思い出した。
「白衣…。着古しでいいのかな?うーん。」
何でこんな物欲しがるんだ?
スーツの汚れ防止の為に着ていたから、それほど綺麗なものじゃないし…。
ま…バツゲームだから仕方ないけど。
言ってくれれば、新しいの用意したのに。
あれ…僕が着たから欲しいとか…。
いーや、いやいや!ないない!
ないわ~~それはあ。
…何か自分でヘコんだ。
「やっぱり…コスプレ気分だろうなぁ。」
とりあえず、クリーニングしてある白衣を紙袋に入れて鞄と一緒に、学校に持って行く事にした。
日曜日の今日、午前中はテニスが体育館での基礎練習なので、そちらに直行した。
けど…練習中も僕は彼女の事ばかり考えて、集中出来なかった。
テニス部の練習が終わり、僕は体育館を足早に立ち去った。
まるで思春期の学生だ。
好きな子に会いたくて、会いたくて仕方ない!
自分自身の心に正直になってから、僕は行動力が出て来た気がする。
僕はジャージから白いワイシャツと紺のスラックスに着替えると、上着代わりに自分も白衣を着て、紙袋を手に持って旧理科室を目指した。
廊下を走っちゃ行けないって、いつも生徒に言ってるくせに。
僕は軽やかに走り、彼女の元へと足を運んだ。
「田宮ー!いるか?」
ガチャ。
旧理科室を開けると、彼女と金井先生が向かい合っていた。
金井先生も白衣を着ていた。
…かぶってる…。
「こんにちわ。武本先生。
先生も白衣を着て来たんですね。」
彼女が僕の方に歩み寄った。
「あ、えっと…これ。」
僕は紙袋を彼女に手渡した。
「わ…ありがとうございます。
今着ても良いですか?」
「ええ?いいけど…。」
「こんにちわ、昨夜はお疲れ様でした。武本先生。
何です?その紙袋。」
金井先生が好奇心から紙袋を覗き込んだ。
「こんにちわ、お疲れ様です。
えっと、ゲームに負けたのでバツゲームです。
田宮が欲しがったので。」
ガサゴソ。
彼女は白衣を取り出すとすぐに着始めた。
「あら、少し大きいけど…学者っぽくて面白い。ふふふ。」
何だぁ?この絵面はぁ?
白衣3人が旧理科室に…って。
「では、実験を始めます。」
彼女が急に白衣のポケットに手を突っ込んで何やら始めた。
「何の実験かな?楽しみだ。」
金井先生が乗っかって喜んだ。
「…コスプレじゃないのか?」
僕は少し動揺した。
「ここに、真っ白で美しい卵があります。
これを茹でたらどうなります?」
イキナリ変な質問が飛び出した。
卵を茹でたら、ゆで卵だろ。
当たり前に…。
「白いゆで卵ができるんじゃないのか?」
「うふふ。」
金井先生と僕は点になった目を合わせた。
彼女は棚からビーカーやら三脚やら、アルコールランプを出して来た。
手提げから保温用の水筒を取り出してビーカーにお湯を入れて沸かし始めた。
グツグツと沸騰させると、卵をポトンと入れた。
「さっきから、何してるんだ?」
「実験ですよ。
こんなに白衣の人がいて実験の1つもしないなんて…。
『普通』だったら有りえますよねー。
この状況。」
彼女は両手を広げて笑った。
「へっ?」
「つまり…こういう事ですね。
知らない人から見ればこれは、明らかに普通の出来事です。
けれど…本人達にとっては普通じゃない。
視点が違えば…普通も異常も紙一重だ。」
金井先生がスラスラと答えた。
「さすがに、心理学者先生は理解が早いですね。
武本先生みたいに、動揺してくれた方が面白いんですけど。」
舌を出して、彼女はウィンクした。
「動揺ってなぁ!君はすぐに僕をからかう!」
「あはは。ふふふ。」
笑う彼女に同調してか、金井先生もクスクスと笑いながら僕を見た。
「武本先生。その反応が面白がられてるんですよ。くくっ。」
くそ!2人して僕をオモチャにして!
ふくれっ面の僕を横目に、茹で上がった卵を彼女が布巾の上に乗せて、僕に差し出した。
「どうぞ、殻を剥いて下さい。」
「……。」
何か、企んでる目だよな。
金井先生は薄々わかってる感じだ。
あ~~もうなんで、ドキドキしながらゆで卵の殻を剥かなきゃなんないんだよ!
朝早く目覚めた僕は、昨日葉月を助けられた達成感で心が満たされていた。
まだ、詳細は解明出来ていないものの担任の生徒を守る事が出来たのだ。
シャワーから出ると、ふと思い出した。
「白衣…。着古しでいいのかな?うーん。」
何でこんな物欲しがるんだ?
スーツの汚れ防止の為に着ていたから、それほど綺麗なものじゃないし…。
ま…バツゲームだから仕方ないけど。
言ってくれれば、新しいの用意したのに。
あれ…僕が着たから欲しいとか…。
いーや、いやいや!ないない!
ないわ~~それはあ。
…何か自分でヘコんだ。
「やっぱり…コスプレ気分だろうなぁ。」
とりあえず、クリーニングしてある白衣を紙袋に入れて鞄と一緒に、学校に持って行く事にした。
日曜日の今日、午前中はテニスが体育館での基礎練習なので、そちらに直行した。
けど…練習中も僕は彼女の事ばかり考えて、集中出来なかった。
テニス部の練習が終わり、僕は体育館を足早に立ち去った。
まるで思春期の学生だ。
好きな子に会いたくて、会いたくて仕方ない!
自分自身の心に正直になってから、僕は行動力が出て来た気がする。
僕はジャージから白いワイシャツと紺のスラックスに着替えると、上着代わりに自分も白衣を着て、紙袋を手に持って旧理科室を目指した。
廊下を走っちゃ行けないって、いつも生徒に言ってるくせに。
僕は軽やかに走り、彼女の元へと足を運んだ。
「田宮ー!いるか?」
ガチャ。
旧理科室を開けると、彼女と金井先生が向かい合っていた。
金井先生も白衣を着ていた。
…かぶってる…。
「こんにちわ。武本先生。
先生も白衣を着て来たんですね。」
彼女が僕の方に歩み寄った。
「あ、えっと…これ。」
僕は紙袋を彼女に手渡した。
「わ…ありがとうございます。
今着ても良いですか?」
「ええ?いいけど…。」
「こんにちわ、昨夜はお疲れ様でした。武本先生。
何です?その紙袋。」
金井先生が好奇心から紙袋を覗き込んだ。
「こんにちわ、お疲れ様です。
えっと、ゲームに負けたのでバツゲームです。
田宮が欲しがったので。」
ガサゴソ。
彼女は白衣を取り出すとすぐに着始めた。
「あら、少し大きいけど…学者っぽくて面白い。ふふふ。」
何だぁ?この絵面はぁ?
白衣3人が旧理科室に…って。
「では、実験を始めます。」
彼女が急に白衣のポケットに手を突っ込んで何やら始めた。
「何の実験かな?楽しみだ。」
金井先生が乗っかって喜んだ。
「…コスプレじゃないのか?」
僕は少し動揺した。
「ここに、真っ白で美しい卵があります。
これを茹でたらどうなります?」
イキナリ変な質問が飛び出した。
卵を茹でたら、ゆで卵だろ。
当たり前に…。
「白いゆで卵ができるんじゃないのか?」
「うふふ。」
金井先生と僕は点になった目を合わせた。
彼女は棚からビーカーやら三脚やら、アルコールランプを出して来た。
手提げから保温用の水筒を取り出してビーカーにお湯を入れて沸かし始めた。
グツグツと沸騰させると、卵をポトンと入れた。
「さっきから、何してるんだ?」
「実験ですよ。
こんなに白衣の人がいて実験の1つもしないなんて…。
『普通』だったら有りえますよねー。
この状況。」
彼女は両手を広げて笑った。
「へっ?」
「つまり…こういう事ですね。
知らない人から見ればこれは、明らかに普通の出来事です。
けれど…本人達にとっては普通じゃない。
視点が違えば…普通も異常も紙一重だ。」
金井先生がスラスラと答えた。
「さすがに、心理学者先生は理解が早いですね。
武本先生みたいに、動揺してくれた方が面白いんですけど。」
舌を出して、彼女はウィンクした。
「動揺ってなぁ!君はすぐに僕をからかう!」
「あはは。ふふふ。」
笑う彼女に同調してか、金井先生もクスクスと笑いながら僕を見た。
「武本先生。その反応が面白がられてるんですよ。くくっ。」
くそ!2人して僕をオモチャにして!
ふくれっ面の僕を横目に、茹で上がった卵を彼女が布巾の上に乗せて、僕に差し出した。
「どうぞ、殻を剥いて下さい。」
「……。」
何か、企んでる目だよな。
金井先生は薄々わかってる感じだ。
あ~~もうなんで、ドキドキしながらゆで卵の殻を剥かなきゃなんないんだよ!
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる