手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

姫を囲んで…。

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職員室に戻って自席に座った僕に、清水先生が心配して話しかけて来た。
「お前、また倒れたんだってな?
身体に異常ないのか?
姫より先に死んだら笑えないぞ!」
「死にませんよ。
単なるストレスみたいな…。
ちょっと疲れて倒れただけです。」
「お前みたいなのは、ちゃんと飯作ってくれる奴と結婚しなきゃだな。」 
清水先生が含み笑いをしながらこっちを見た。
「け…け…結婚なんて!考えてません!」
「絵空事の写真だけって寂しなぁ。」
「もう!からかうの止めて下さい!」
「まぁ、でも飯は作って貰ってもいいんじゃね。」
「そうそう、しょっ中、弁当を作って貰う訳にいきませんよ。」
「弁当って限らないだろ…。」
「えっ…。」
えっと…いや…それは…。
確かに風邪の時は、お粥とか朝食作って貰ったけど…えー。
「理由なんて作り出すもんだぜ。」
ンな事を言ったって…。
別に付き合ってる訳じゃないし…。
あ…でもエプロン姿…見たいな…また。
似合うんだよなぁ…エプロン…。
「って…。
変な想像しちゃったじゃないですか!」
「裸にエプロンか?」
「はっ…て!ダイレクト過ぎでしょ!それは!」
「ま、何にしろ体調管理は大事だ。
これから魔女対策もあるってのに。」
「はい。気をつけます。」
そうだ…自己管理しなきゃ体調くらい。

僕は放課後に早々と旧理科室へと向かった。
彼女といると精神も安定する。
金井先生が居ようと、もう関係ない。

「田宮!いるか?」
ガチャ。
旧理科室のドアを開けた。
彼女は何やら慌てて後ろに隠した。
「武本先生…どうしました?」
彼女は右手を後ろにしたまま僕に返事した。
何を隠した?
僕は妙に気になった。
「あ…いや。」
「もしかして…また辛くなりました?」
彼女は右手を隠したまま、僕を覗き込んだ。
「いや。えーと、エネルギー補給?みたいな。」
「エネルギー補給ですか?」
彼女は目を丸くして不思議そうな顔をした。
僕はそんな彼女に、不意打ちをして軽くキスをした。

「!」
「補給…完了。」
彼女は少しの間固まった。
その隙に僕は彼女の右手から、隠した物を奪い取った。
「きゃ!先生ズルい!」
「隠すからだろ!はは。…て、これ。」
それは天使の置物だった。
僕が彼女に隠れて置いていた天使の置物。
なんだか恥ずかしくなって来た!

「どこかのイタズラ屋さんが、たまに棚に置いてくんですよ。ふふふ。」
わかってて言ってるな~!
僕は何も言えなくなった。

「可愛いですよね。
こんなイタズラ…まるで小学生みたい。」
「小学生言うなよ!」
あ…!
思わず叫んでしまった。
「あははは。あははは。」
彼女はお腹を抱えて笑いだした。
「やっぱり、わかってたんだな。もう!」
「拗ねないでください。
可愛いですよ先生。プッ。」
「可愛い言うな!25歳だぞ一応!」
「一応じゃダメじゃないですか。ふふふ。」
2人で笑い合っていたところで、旧理科室のドアが開いた。

ガチャ。
「おや。楽しそうですね。
僕も仲間に入れて貰えませんか?」
金井先生だった。
以前の刺々しい言い方ではなく優しい言い方だった。
「金井先生、昨日の続きですね。
今から出しますね。」
彼女は奥からジクソーパズルをそっと出して来た。
「武本先生も一緒にやりましょう。
結構ピースが多くて大変なんですよ。」
「あ、はぁ。」
そのジクソーパズルは太陽系の星々の絵が描かれていて。
かなり大きなものだ。
しかも、かなり難しそうだ。

僕等はまるで仲良し3人組の学生のようにはしゃぎながらジクソーパズルをした。
「武本先生、さっきから全然ピースを埋められてないですよ。
真面目にやってます?」
彼女に突っ込みを入れられた。
「仕方ないだろ、こう言う細かい作業は苦手なんだよ。」
「視野が逆に狭いからですよ。
視野を広めた方が逆にピンポイントでハマるピースが見つかりますよ。」
彼女の意見に金井先生が同意した。
「そうですね。
全体を見て少し離れた感じで見る方がいいですよ。」
「うっ…はい。」
2人に責められた気分だった。
僕は凡人なんだよ!

少しイジけたけど、結構進んで全体像が見え始めた。
こんな作業に集中するの…あの文化祭前の夜ぶりかな…。
僕は思い出し笑いをしながら彼女に微笑んだ。
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