手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

道化師と王子の密談その2

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「まず、彼と友達になった辺りからだな。」
久瀬の言う通り、そう事の始まりはそこからなんだ。
「僕は小学生の頃は劣等感の強い子供で、おそらく友達も多くはなかった。
その数少ない友達の中に彼がいたと思われる。
破滅的な彼。
多分、他の誰よりも気が合ったんじゃないかな。
世界を斜めに見るような反抗心の持ち主の彼が劣等感の塊の僕と共鳴した。」
「同じマイナス同士の友情ってとこかな。」
「そう思う。
その共感できる世界をノートに書き綴った。
他の人が見たら異常な世界だったと思う。
世界を壊す為の計画ノートのような内容だった。
だから、大人達は僕等を恐れた。
2人でいる事を反対し出した。」
「そこだ!武本っちゃん!そこに一つポイントがある!」
急に久瀬が僕を指差した。
「ポイント…?」
「要するに、ターニングポイントだよ。
2人を引き離す大人に対して、2人はどうしたか…?思い出せる?」
「えっ…と。
どうだったかな…。」

普通でいて…母親はそう言って泣いた…。
普通に固執する僕…。
なぜ普通に固執した?
失敗だと思ったから?
自分のして来た事を…。
自分の感情や好みを他人に知られてはならないと…そう判断したんじゃないか?
普通の仮面を被らなければならないと…!

「母親の泣き顔を見て、自分を責めた。
そして…自分の感情や気持ちを押し殺すようになった!」
そうだ!僕は彼から一旦離れてる!
「つまり…周りの言う事を聞いてしまったんだね。
優先したのは…大人達の言葉。」
「そうだ…僕は…友達を切り捨てたんだ。」
なんて最悪なんだ…!
これは…これこそが僕の罪なのか?

「うっ…!!」
急に僕は僕自身に吐き気を催した。
慌ててトイレに駆け込んだ。
「武本っちゃん!?」
久瀬の心配する声が背中に響いた。
「大丈夫だ…大丈夫。」
こんなとこで立ち止まってたまるか!
反応が出たと言う事は正解だという事だ!

トイレから戻ると、僕は一息つくようにソファに深く座った。
「…核心に迫ってる証拠だ。
久瀬…続けてくれ。」
「…了解。」
久瀬はダイニングからリビングに移動して来た。

「じゃあ、中学生になったばかりの頃は2人は友達ではなくなっていたんだね。
表向きには。」
表向きには…確かにその通りだ。
他人のふりをしなければならなかった…表向きには普通を装い、自分を欺いて。
それでも親友だと心の何処かで僕は思ってた。
都合のいい勝手な思い込みで。
それが…どんなに残酷な事なのか当時の僕にはわかっていなかったんだ。

「彼は孤独だったんだと思う。
家族からも虐待を受けて…クラスの中では異端扱いされて。
けど…僕のように嘘で装う事は絶対にしない…。
自分を曲げたりしない…誰にも侵食出来ない世界を彼は持っていた。」
ああ…だからこそ憧れた…側にいたかった。
僕には見えない世界を彼は見せてくれていたから…。
「ストップ!ここまで聞くと、彼がイジメにあっていたように聞こえる…。
実際はどうだったかな?」
「覚えてないけど…違うな多分…。
彼は黙ってイジメられるタイプじゃない。
刃物のように鋭くて…逆に誰も近づけない感じ…。」
「つまり…やはり彼は例の4人になんらかの恨みを持つほどの関係性は無かった…ということかな?」
「そう…なるかな?よく、わからない。」

「じゃあ…ワンクッション置いてならどうかな?」
「ワンクッション?どう言う意味だ?」
「武本っちゃんを介してって事。」
「僕を介して?えっ…。」
「4人はもしくは、それ以上の人間が彼に手が出せない…なら武本っちゃんを介して彼にダメージを与えようとしたならば…。」
「おかしくないかな?
僕は彼とは友達ではないフリをしていた。」
「何らかのトラブルで…化けの皮が外れた…。
可能性は無きにしもあらずだと思う。」
何らかのトラブルだって?何のトラブルだ?
トラブル…。

「すまない、パッと思い出せない。
イメージが湧かない。」
「そうだな…ここら辺で別角度からの考察が必要なのかも…。」
「別角度?」
「田宮ならって事だけど…田宮なら…固定概念を外すはず…うーんうーん。」
久瀬は頭を抱え出した。

彼女の思考は久瀬の上を行くのか…?
以前久瀬は田宮の真似事しか出来ないと自ら言っていた。
彼女の考え…。彼女の心…。
手を繋いで欲しい…。
今、ここに彼女の手があれば手…答えに辿りつけるような気がしてならない…。
《勉強会》あれば言葉だけじゃなく彼女に触れる事でより一層の意味があるのかもしれない。
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