手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

勉強会の傾向と対策その2

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過去の出来事を思い出し整理する。
コレには多分苦痛を伴う可能性があった。
しかし、僕は覚悟を決めて整理してみる事にした。
「昔…小学生からの友達の記憶だったと思うんだけど。
親友…?僕の方は親友だと思ってたはず。」
「名前…言えるか?」
「それが…顔は思い出したんだけど…名前は思い出せなくて…。」
「ビンゴだね。多分。」
「多分雨の降る日に何かが起こって…彼は傷ついて…僕は…。」

…ボクハイラナイ…ボクノソンザイハ…ナイホウガイイ…

「っ…くはっ。」
呼吸が苦しくなった。
「武本っちゃんストップ!
深呼吸して!目を閉じて!」
久瀬の焦った声が耳に響いた。
でも…ここでストップしたら…。

何か何か…思い出さなきゃ…。

「痛い!身体中が!痛い!ううっ!」
「武本っちゃん!おい!武本っちゃん!」
僕は床に転げ落ちてのたうち回っていた。
身体中が悲鳴をあげるほど痛かった。
これも…過去の記憶なのだろうか?

ものの10分ほどで痛みは治まった。
全身汗だくになってソファに倒れ込んだ。

「心理的な痛みだけじゃなかったのか…。」
久瀬の声が薄っすら聞こえてきた。
「武本っちゃんさぁ。
小学校の時どこに住んでたか覚えてる?」
「えっ…と引越したんで詳しくは覚えてないけど…学校名とかならわかる…。」
「ああ、無理すんな。
後でいいから。」
「すまない…。」
僕はそのまま、少しの間眠りについた。

僕は眠りながら考えていた…。
あの声は僕自身だ…しまい込んだ僕の心…僕の性格…。
僕は僕を否定していたんだ。

昼になり、少し体調も戻った。
とりあえず、《勉強会》については一旦中止して昼食を取る為に久瀬と外に出た。
「何食いたいですか?」
「何でもいいよ。」
「肉食ってよ。
武本っちゃん体力つけないと。」
「確かに…今後の事を考えると体力必要だなぁ。」
駅前のショッピングモールを適当にぶらぶらして見て歩く。

「あ…。」
久瀬の視線が前方200メートルくらいで止まった。
「何だよ。」
「田宮だよ!金井先生と一緒だ!」
「えっ…。」
僕は久瀬の指差す方向を目を細めて見た。
確かに金井先生が田宮を連れて歩いていた。
田宮は制服のままだ。
どうやら旧理科室からこっちに来たようだ。
金井先生はラフな格好で多分、直接田宮を呼び出した感じだった。

「どうする?
跡をつけようか?」
久瀬が僕を見た。
「いや…まだ僕等にはやる事が残ってる。
早く飯にしよう。」
「…やっぱり。
S男だ武本っちゃん。
なんか男っぽくて惚れ直しそう。」
「やめろ!」
僕等は2人に気がつかれないようにその場を離れた。

久瀬が肉、肉うるさいのでステーキハウスに入った。
「金井先生、クリスマスイブに向けてラストスパートかけてんのかなぁ。」
「かもな。」
「武本っちゃん。
なんか冷静すぎだよ。」
「仕方ないだろ。
僕はやる事もあるし。」
「いいのかよ。
クリスマスイブに田宮が金井先生の物になっても。
後悔するぜ。」
久瀬は肉を頬張りながら僕に詰め寄った。
「それが田宮の幸せならね。
あいつ、クリスマスケーキ食った事ないらしい。」
「そういえば、昔、そんな話し聞いたな。
って!ちょい待て!
じゃあ、田宮の初クリスマスイブは金井先生に取られちゃうじゃん!
クリスマスバージン!」
「ブッ!何だよその言い方。
下品すぎるぞ。」
「あながち冗談じゃ済まされないぜ。」
「…知るか…。」
僕は目の前の肉に集中した。
「こりゃ意外と以前よりも面倒くさいな。
S男の武本っちゃんって。」
「……。」
久瀬と僕はひとしきりステーキを食べ終えてマンションに戻った。

「さて…。
こっからは、さっきの情報を踏まえての傾向と対策を考えようか。」
マンションに戻った久瀬は腰に手を当ててやる気満々で立ち上がった。
「次回の《勉強会》はおそらく記憶に触る事が予測される。
ただし、武本っちゃんの状態がアレじゃあ直接には来ない。」
「つまり…?」
「田宮スキル必要だっての!
捻って来る!多分ね。
そして…ガス抜きが早急に必要な事も考えられる。」
「ガス抜き!?」
「言ったろ。
爆発寸前まで来てるって。
確かに寸前で覚醒して貰えるのが1番だったんだけど…予想以上だったんでね。
記憶がそれで戻ったとしても、自爆しちゃ意味がないだろ。
これ以上のストレスは危険だからね。
クリスマスイブなんて導火線だろどう見ても。」
「導火線って…。」
「ただし、問題はそのガス抜きは多分…。」
「何だよ。」
「田宮にしか出来ないだろうな。」
「へっ…。」
「って言うか、田宮にも難しいかぁ。
どおすっかな~。
………ああ!先生!銀子ちゃんの連絡先知ってる?」
「牧田の?
ああ、一応知ってるけど…。」
「ラッキー!助っ人登場だ。
銀子ちゃんに田宮を焚き付けてもらおう。」
「ちょっと待て!全然わからないよ!」

「はあああああ!」
久瀬は思い切りデカイ溜息をついた。
「武本っちゃんのストレスの原因は何?」
「えっ…とお。」
「倒れる直前、何があったんだっけ…?」
「金井先生の田宮へのプロポーズ…か?」
「正解!つまりは自分から田宮が離れる事があんたの最大のストレスなの!
わかる?武本っちゃん!」
「!!」
僕がこうなった原因は金井先生のプロポーズ宣言!?
「って事は田宮を近くに…前より近くに感じられればストレスは軽減する。」
「こら!こら!そんな事、無理くり田宮にさせられるか!」
「焚き付けるって言ったろ。
田宮にその気が無けりゃ彼女は行動しない。
逆を言えば…その気があれば田宮は乗ってくる。
武本っちゃん。
あんたの最大のストレスの元の原因は田宮の…気持ちが見えない事なんじゃないか?
少しだけ…田宮の気持ちが知りたいと思わないか?」
「それは…。」
知りたくない訳ないだろ…でも、それでいいのか?本当に?

久瀬は僕の携帯から牧田に連絡を取り、何やらコソコソと話していた。
僕は自分が金井先生のプロポーズ宣言にそこまでメンタルやられていた事実の方がショックだった。
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