手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
上 下
87 / 302
2学期

可愛い彼女

しおりを挟む
田宮はきっと僕を恋愛対象とは見ない。
逆に金井先生の方が意識してる分、恋愛対象になるのかもしれない。
僕は…よくいるいい人的な存在。

だからきっと、僕とは手を繋げたんだ。
金井先生に触れられるのは緊張するくせに…。
僕は安全ないい人…いい先生。
「はああ。」
また、彼女に振られた気分だった。
もう、何度も同じ気持ちにさせられた。
きっと、諦めた方が楽になるんだよな。

職員室へ向かう間、そんな事を考えて落ち込みながら歩いた。

職員室へ入ると清水先生と田宮が楽しそうに話していた。
僕の席に彼女は座って椅子をクルクル動かしていた。
「おっ。武本来ちゃったよ。」
清水先生が残念そうに言った。
「じゃあ。私、行きます。」
「でも、話し終わってないぞ。」
清水先生がチラチラとこちらを見ながら言った。
「すいませんね。お邪魔して!」
僕はちょっとキツめにイヤミを言った。
「田宮!ここ座れ!」
清水先生が自分の膝を指差した。
「こうですか?」
田宮も迷わず清水先生の上に乗ってしまった。
なんで、そうなるかなぁ!もう!
「こらー!ダメだろう!そう言うの!」
僕は慌てて彼女を引き寄せた。
「あははは~おもしれー!」
清水先生はゲラゲラ笑い出した。
「何か…ダメでした?」
彼女は全然理解していない様子だった。
「あのな…。お前は勉強出来るかもしれないが…変なところが子供すぎる!」
「先生から見ればどうせ子供ですよ!私。」
「うっ!」
彼女はペロっと舌を出して職員室を駆け出して言ってしまった。

「自分の上に乗っかって欲しいくせに!
エロいな武本は。」
清水先生が僕をからかった。
「清水先生こそ!彼女に何させるんですか!
あいつはそういう事まだ…。
純粋な生徒で遊ばないで下さい!」
「おうおう!ムキになっちゃって!」
本当…変なところ…純粋で…解ってなくて。
僕だって、どうしていいかわからなくなる。

可愛くて…守ってあげたくなって…抱きしめたくなって…。

僕は白衣を羽織って旧理科準備室へ向かった。
胸のモヤモヤが消えない。
旧理科準備室の中に入り、中扉の小窓を覗いた。
彼女は編み物をしてるようだ。青い毛糸…。
昨日のイルミネーションを思い出す。
僕は自分の手を見つめた。
僕が教えた手の繋ぎ方を田宮はどんな男と、どんな気持ちでするんだろう。
僕にとっては愛しい人との触れ合いなのに…。
彼女にとっては…単なる…恋愛指導。
想いが違い過ぎる。

彼女の純粋さが僕を苦しめる。
純粋に僕を先生としてしか見てくれない。
異性として…1人の男としては絶対に…。
ちょっと…辛いな…田宮…。

「!!」
えっ…何してるんだ?
編み物に飽きたのか、彼女は棚から天使の人形を五体を実験台の上に並べ始めた。
そして…一体づつにキスをして行った。
優しく愛おしそうにキスをする。
キス…の…練習か!?
「ははは。」
まったく…可愛い事ばっかりしやがって!
僕を振り回すだけ振り回して。
本当…可愛い…最高に可愛いよ。田宮。

また、明日人形を増やしてみようかな…。

僕はやっぱり何度振られても君が好きなんだ。
自分でも怖くなるくらいに。
バカみたいだけど…大好きだよ…。
久瀬が言った言葉を思い出した。
見返りなんてオマケなんだよって。
多分…僕も同じ気持ちなんだ。
逃げてるって思われるかもしれないけど…単に君が好き過ぎるくらいに、大好きなんだ。
だから…せめて諦めさせないでくれ。
このままでいいから…。
ずっと…君を好きで居たいんだ。

たとえ…君が、他の人の物になってしまっても。


マンションに帰った僕は、田宮に電話を掛けた。
「えっ…。お弁当ですか?」
「金井先生が食べたいって。
昨日のお詫びに作ってあげて欲しいんだ。」

僕は彼女の幸せの為に協力しよう。
彼女は僕を恋愛の先生と思ってるのだから。
僕が辛くても、君がちゃんと幸せになれば、君は死にたいなんて言わなくなる。

「でも…。」
「男ってのは好きな女の子からの手作り弁当が大好きなんだから。わかるか?」
「えっ…と。食べてくれなかったら。」
「大丈夫だよ。
この前のおにぎりもひとつ金井先生が食べたんだ。
美味しいって。」

僕が出来る、彼女を笑顔にする方法はこれしかないんだ…きっと。

「えっ…そうですか。てっきり…。」
「田宮…。ダメかな?」
「いえ。わかりました。
明日、作って持って行きます。
教えて頂きありがとうございます。」

田宮 真朝…僕は君の笑顔を見る為に僕は1人で泣いても構わないんだ。

「急だと思うけど…。」
「…おやすみなさい。」
「うん。おやすみ。」
僕はそっと電話を切って、携帯を胸に抱きしめた。


…ボクハキミニウソヲツク。
…ボクハジブンニウソヲツク。
…ボクハスベテニウソヲツク。
…ボクハソシテコワレテイク。

『世界を変えるには世界を壊さなきゃ。』
『どうやって?』
『だから、世界を壊す計画を今から立てるのさ。』
『秘密の計画だね。すごいね。』
『そうだろ。ワクワクするんだ。考えてるだけで…今が嫌でもそれを壊せると考えるとさ。』
『わかる!わかる!』
『2人だけの秘密のノートだよ。世界を壊す計画を考えよう。』
『2人だけの秘密だね~。』

昔、僕には親友がいた。
変わっている彼を、周りは冷たい目で見ていたけど…。
僕にはその、不思議な世界観がキラキラして見えてた。
まるで…他の世界に行こうとする彼の儚さに憧れた。

ああ、少し思い出した。
遠い…忘れていた記憶の欠片を…。
失った記憶の欠片を…。
大切な人の想い出を…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

想い合っている? そうですか、ではお幸せに

四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。 「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」 婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

処理中です...