手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

ヘタレ王子と魔女の交渉

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やはり、金井先生は危険過ぎる。
土日はその事ばかり考えていた。
田宮 真朝がここまで目立つのは田宮 美月にとっては不都合極まりない。
彼女に危険が及ぶ事が予測される。
確かに、表側では僕との約束を守って見せるだろうが…何か裏の手を使ってくる可能性は充分にあった。
「はぁ。せめて久瀬が同じ学校だったら良かったのに。」
改めて、久瀬の存在の大きさを感じた。
久瀬の協力がないとなると、清水先生に協力を仰ぎたいところだが、岸先生の件もあってこれ以上負担を掛ける訳にもいかなかった。
田宮 美月と僕の約束の事を金井先生にバラす訳にもいかない。
僕は行き詰まってしまった。

田宮 真朝から眼を離さないように、僕がしなければ…彼女を守る事が出来るのは僕だけしかいないのだから。

週明け、今週末の体育祭の為の配置や担当
などの説明を受けた。
マズいな。裏方の仕事を期待していたのに、案内放送の担当になってしまった。
体育祭の間だけでも、久瀬に来てもらってバックサポートをしてもらうしかないか。
「はぁ。」
ああ。身体が2つ欲しい。
体育祭後の振替休日の月曜日には、田宮の母親との面談が控えている。
僕の神経はいつも以上にピリピリしていた。

僕にはやらなくてはならない事があった。
早めに、金井先生に釘を刺しておかなければ。
田宮 美月は恐ろしい女だ。
僕は全体ミーティングを終えたその足で、カウンセリングルームに向かった。

コンコン。
「はい。どうぞ。」
ガチャ。
「金井先生、今日はあなたに、真面目にお願いしたい事がありまして。」
「武本先生。随分とかしこまって。どうぞ。」
僕は金井先生の正面の椅子に腰掛けた。
「実は…。」
「どうせ、真朝君の事でしょう。」
「どこまで、田宮の事を調べてるのか解りませんが。
田宮 美月は妹が目立つ事を良しとはしていません。」
「でしょうね。
…なるほど、真朝君に害をなす心配があると?」
「表立った行動はしないと思うんだが、なんせ…。」
「魔女ですか?」
「何故それを…。」
「清水先生とのお話しで出たキーワードですよ。
確かに田宮 美月は魔女そのものだ。
しかも人一倍プライドが高い。」
「そうです。
彼女にとっては…理由は話せませんが、妹に目立ってもらっては困るんです。」
「 ふ~~ん。
武本先生は田宮姉妹を、深く御存知のようだ。」
金井先生の眼の奥が光った。
「…特にって訳じゃ。」
「嘘がヘタですよ。
武本先生はいつも嘘をついてるのに…真朝君を女として意識してる事を隠してる。」
「!!」
「僕も田宮 美月の動向には注目してましてね。
…僕は僕のやり方で真朝君を守りますよ。
愛する人を守るのは当然の事ですよ。
ね。武本先生。」
「…話はここまでだ。」
僕はカウンセリングルームを後にした。
どういう形にしても、田宮 美月を監視の眼
で見てくれてるなら…。
田宮 真朝が好きなら…彼女を助けてくれる可能性はある。…そう思いたい。

僕はホームルームと1時限目を終えて、旧理科室に例の人形を置きに行った。
4体の天使が隠れるようにバランスを考えて置いた。
「まだ気づかれてないな…。」
僕は最初の天使の人形を手に取った。
?裏に何か書いてある。
A型…?もう1つの裏も見て見た。8月?
「彼女は気づいてるのか?この暗号は何だ?」
しかし、モタモタしていると始業チャイムが鳴ってしまうので、一旦戻して授業に向かう事にした。

昼休み、葉月に相変わらずベタベタされて食堂へ向かう途中で、僕を呼び止る声に振り返った。
「今日は私とお食事して頂けるかしら。
ねぇ。武本先生。」
田宮 美月…!何で僕を…!
「それとも、断られちゃうかしら?」
いやらしい言い方をしやがる。
「いや、僕も体育祭について、丁度聞きたい事があるし。
葉月、また今度な。」
「仕方ないですね。美月先輩が相手じゃ。」
田宮 美月は葉月に笑顔を振りまいた。
「ありがとう。葉月さん。
可愛い後輩を持って私、幸せだわ。」
葉月はその場を立ち去った。

僕は囚人の気分だった。
何せ田宮 美月の取り巻きに囲まれての食事は、味なんて判るもんじゃない。
田宮 美月はテーブルひとつをまんま僕と2人で使用して、周りのテーブルに取り巻きを座らせている。
「金井先生とはお会いになりました?先生。」
「やっぱり、金井先生が鼻に付くのか?」
僕は率直に聞いた。
「そうね。
金井先生というより…あの子が目立ちすぎなのよね。
道具の分際で。」
チッ!やはり田宮 真朝を目障りと感じてやがる。
「金井先生が彼女にちょっかいを出してるだけだ。
今朝、金井先生にも釘を刺しておいた。
しばらくすれば収まるはずだ。」
保証はないが…。
「さすが~。
武本先生はあの子の事となると仕事が早くて、私嬉しいわ。
…でも。」
「でも?」
「私の顔を潰す行為は許せないのよね。」
「約束を忘れたのか?
彼女には手を出すな。」
「手を出さなくても…いろんな事は出来るのよ。私。」
くそっ!こいつは本当に最低な女だ!
田宮 美月は挑発的な態度を取ってきた。
「僕に、何をしろと?」
「別に…要求はしないわ。
ただ、先生も心配なんじゃないかと思って。
あの子。
まだ男を知らないから。
早く手を付けた方がいいんじゃないかしら?」
相変わらず下品な物言いだ!吐き気がする!!
「そして、お前の仲間になれってか?
冗談だろ。
僕には利用価値はないはずだ。」
僕は鼻で笑って見せた。
「あら。素敵な交渉だと思ったのに。残念。
利用価値なんていくらでも作れるのよ。
使えない、あの子がいい見本。
でも…まぁ。
これ以上は言いませんが、
金井先生に手を付けられるのも時間の問題ですよ。
お気を付けてね。」
「これだけは言っておく。
僕は彼女をどうこうするつもりは一切ない!
今後、交渉は持ち込むな!
ただし、彼女に何かあったら僕にも覚悟がある。」
「ふふふ。あの子も馬鹿ね。
こんな近くの王子様に全く無関心なんて。」
「……。」
僕は田宮 美月を食堂に残してその場を立ち去った。
何を食ったかさえ判らないほど頭にきていた。
田宮 美月にも…金井先生にも…そして…きっと僕を知らない彼女にも…。

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