忘却の魔法

平塚冴子

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『パンドラの箱』開放の世界

第13話

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「私は情報を受け止めなかっただけ。
情報や記憶は通常、流されれば受け止めようとしてしまう。
また、拒否しようとすればまた、その分の負荷が脳に掛かってしまう。
入ったデータは脳に入った分の処理をしようとする。
私は、以前からそれを『受け流す』あるいは自分の身体を『透過させる』事を瞑想などから訓練されていた。
『パンドラの箱』が開かれた時も同様。
もの凄い勢いで、情報が大波のように押し寄せて
くる。
それを受け止めて立ち続けるなんて無理なの。
だから、脳は受け止めきれずオーバーヒートを引き起こす。
だから…。
大量に流れる情報に逆らわず、受け止めず素通りさせたの。
いつもの瞑想の応用。
『無』になるのとは違うわ。
流れを止めずに素通り、受け流す感じよ。

少し海の中で苦しくなるような感覚になるけど、それを越えれば元の状態に脳が勝手に戻ろうとしてくれる。
だから、『パンドラの箱』の情報なんて覚えてないし、知識も得ていない。」
「じゃあ、それをしなければ…鈴も…。」
「脳みそパン!で…あの世行き…。」
あぶねー橋渡るなよ!

「そうでしたか…。
私の研究は間違っていなかったんですね。
自分のコントロールにより、能力を抑え、短命を少しでも長引かせる事が出来る。
能力も言わば制御をしなければ負担が掛かると言うのはわかってましたが、その方法に自信はありませんでした。
鈴に指導しながらも手探りで…。
良かった。
これでレポートに出来る。
同じ症例の子供を助けられます。」
相楽教授が優しい声で言った。

「『近藤 陸』いや『加藤 星斗』も、もっと早くに相楽教授に出逢えていたら救われたのかもしれませんね。
それこそ、これが彼の言う運命だったのでしょうけれど。」
電話を終えた金井が鈴の頭を撫でながら言った。

「何か…ホッとしたら…!
凄え!痛え!くそ!」
撃たれた肩が熱くて痛くてたまんねー!

「応急処置をしましょう。
ヘリコプター内に救急セットがありますから。」
金井は俺の肩に消毒と止血の応急処置をしてくれた。

気がつくと、鈴がずっと握っていた手が、いつの間にか指を絡めた恋人繋ぎになっていた。
「帰ったらケーキ食べような。」
「ん…食べる…。」
また、チンクシャ娘に戻った。
こっちの方が鈴らしい。

「あそこの、広い平地に降ります。
近くに民家も見えますから。」
相楽教授は目の前に広がる草原に、ヘリコプターを着陸させてくれた。

その後、俺達は金井が天堂に現在地を送り、迎えに来て貰った。
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