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保健室同盟(仮)と前期図書委員

第31話

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 『有意義』…。
 それは、物や行動とは限らない。
 時間もまた、有意義だと思った。

 僕は帰宅するなり、奈落へのメッセージを送った。

 『雨が降りそうだし、ランニングは中止。
 その代わり、僕が今から夕飯を作るから、一緒に作ってよ。
 もちろん、有料で構わないし、夕飯も一緒に食べて欲しいんだ。
 母さんが残業で遅いから。
 お願い!』

 送信。

 恥ずかしくて、今まで、こんな甘えた事なんて言った事無かった。
 けど、恥ずかしさよりも素直に甘えられる人に、甘えたかった。
 そして、それはとても大切な事だと、この数日で学んだんだ。
 他人がどう思おうと、これは僕にとって本当に有意義なお金の使い道だ。
 
ピロリロリーン。

『了解!
 有料だから、その分奉仕してやる!
 今からそっち行くから、準備しとけよ!』

 清々しい程の素直な反応…。
 下手に気を遣われるより、ずっといい。
 奈落はそこまで考えて、返信してるのかな。
 だとしたら、すごいなぁ。
 同情して貰っても、卑屈になってしまうような、イジメられっ子特有の性格には、奈落くらいの明るさと素直さが、眩しいくらいだ。
 有料だけど、ささやかな幸せな時間を記憶に焼き付けよう。
 
 僕はキッチンに立つと、エプロンを着けて、夕飯の下ごしらえを準備し始めた。
 
 あれ…なんか、この構図…。
 旦那さんを待つ、新妻さん…?
 新婚家庭かぁ?
 ん…少しだけ、女性の心理を掴めた気がした。
 
 自分で自分に突っ込みを入れつつ、奈落が来るのをウキウキ気分で待っていた。

  ピンポンピンポンピンポン。

 相変わらずの連打で奈落が到着した。

「いらっしゃい。」
「おう!雨降ってたから、少し遅れた。悪りぃ。」
「やっぱり、降り出したんだ。雨。
 濡れてない?
 入って入って!」

 奈落は軽いステップで、スリッパを履いて室内に入った。

「大丈夫。
 ヒミツの道具で到着したから。
 なーんてな。」
「ネコのポケット系…?」
「冗談だよ!冗談!
 爽が車手配してくれたんだよ。
 ま、その間色々あって遅れた。
 けど、ちゃんとこっちの様子は監視してたぜ!
 お前が鼻歌混じりに、米研いでたの。」
「あー。
 そっか、監視されてるって意識全然してなかった。」
「いいって、その方が。
 気にしちまうと、ストレスになっちまうぜ。
 こっちは流し見なんだし。」
「だよねー。」

 奈落はジャージ姿だった。
 本当に友達が遊びに来た感じだ。
 これも、さり気ない気遣いなのかな。

「さあて。
 冷蔵庫ん中見せて貰うぞ。
 余り物で作った方が、有村の母さんも安心して食べるだろう。
 冷蔵庫に入れとけば、遅く帰って来ても温めて食べるだけでいいし。」
「あ、うん。
 味噌汁は作った。
 お豆腐あったから。」
「おうおう!スキルアップしてんじゃん。
 ん…肉じゃがでもするか。
 ししゃもの残りも焼いちまおう。」

 奈落はテキパキと腕まくりをすると、青いチェック柄のエプロンを持参してきたようで、サッと身支度を始めた。
 髪もゴムでキチンと後ろで束ねた。

 トントントンと軽快に包丁捌きを見せながら、下ごしらえをしていく奈落。
 僕はサポートで、皮むきやら片付けに回った。

「そういえば、奈落。
 宮地の事だけど…。
 あのゲージみたいな物、あのまま旧校舎の教室に置きっ放しなのかな?
 結構目立つと思うけど。」

 ふと、あの写真の映像が頭に浮かんで来た。
 
「ああ、それ。
 アレって結束バンドは少し緩く締められてるみたいだぜ。
 つまり、折りたたみ可能。
 ぺったんこにして、カーテンの裏に隠してたぜ。
 ま、強度はかなり弱いだろうな。」
「ふうん。
 折りたたみで、強度はそれ程無いか…。」

 強度…?折りたたみ…隠す…。

 
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