上 下
135 / 280
憎しみのパズルピース

第1話

しおりを挟む
 午後の体育の授業が終わっても僕はすぐに起き上がれなかった。

 気分がモヤっとしてるからか、自分でも動作がノロくなっているのがわかる。
 ナマケモノのごとく顔のタオルを取って、ゆらりと立ち上がった。
 変な脱力感のまま更衣室に向かうと、すでにみんな着替え終えて教室に戻ったようだ。

 「はぁ。気分を切り替えなきゃ。
 この顔じゃ、奈落に変な気を遣わせてしまう。」

 あ…れ…。

 着替えようとした僕の手にあったのは…。

 引き裂かれたワイシャツ…そしてネクタイ…。

 悪意…!

 それは悪意そのものだった。
 
 僕はそれらを近くのゴミ箱に思い切り投げつけた。

 宮地は…僕をどうしたいんだ…?
 怒らせたいのか…自分を憎めと言ってるのか?

「くっ!」

 ダメだダメだ!ダメだダメだダメだ!
 あんな奴の手に乗るな!
 こういう時こそ、冷静に…自分の目的に忠実に!
 ここで怒ったり、泣いたりしたら宮地の思う壺だ!
 彼は僕を弱いままの、努力をしない人間だと蔑んだ…!

 でも、違う…!
 僕はもう弱いままなんかじゃない!
 努力も惜しまない!
 石にかじりついてでも、この苦境を乗り越えてみせる…!

 僕は上は体操着のまま、下だけ履き替えてブレザーを羽織って更衣室を後にした。
 
 ワイシャツやネクタイは予備があるけど、この先の事を考えて少し制服用品を足しておこうかな。
 
 宮地のあの雰囲気…更なるイジメが起こるとも限らない。
 出来るだけの用心と準備をしておかないと。

「あ?」

 そう思いつつ、ブレザーのポケットに手を入れると…ICレコーダーが午前中入れたままになっていた。
 そして、偶然にも切ったはずのスイッチが何かの衝撃で入っていた。

 これ…ロッカーでの宮地の声が入ってるんじゃないか?
 けど…教室に戻らなきゃならない。
 聞くのは後だな。

 僕はICレコーダーのスイッチをオフにすると、ひとまず教室に急いだ。

 帰りのホームルームでは担任にまた、変な突っ込みをされて逆に気分が悪くなるのも嫌だったので、前かがみの姿勢で、なんとかごまかした。
 
 優越感に浸り、満足気な宮地のいやらしい視線を感じつつ、ホームルーム後、教室のロッカーの鍵を開けて貴重品袋を取り出して、鞄に押し込んで僕は早急に教室を飛び出した。

 宮地にはきっと逃げ出したように見えているだろう。
 本当は虎視眈々と僕が爪を研いでいるってのに、呑気なバカだ。

 駐輪場で複数の鍵を外して愛車を勢いよく、スタートさせた。
 
 僕は走り出してるんだ!
 自分の足で!自分の頭で!自分の手で!
 それを努力じゃないなんて、宮地なんかに言わせるもんか!

 僕は駅前目指して、一心不乱に自転車を漕いだ。

 坂道を超えて裏路地を通って、バス通りを横切って駅前の駐車場に自転車を停めた。

「おっ!早い!早い!
 ワイシャツ刻まれてヘコんでるかと思ったが、なんのなんの。
 平気そうだな!」

 僕の背後で、優しく暖かな、粗っぽい口調の奈落の声がした。

「奈落!」

 振り返るといつもの黒スーツの奈落がポケットに両手を突っ込んで笑っていた。
 思わす嬉しくて声が1オクターブ上がってしまった。

「おうおう!何だ?
 樹張りの声のトーンだなぁ。
 で、その格好のまま行くのか?」
「あ、そっか…急いで来たし。
 ジャージの方がいいかな…すぐに駅のトイレで着替えて来るよ。」
「だな!
 相手はスポーツマンだ。
 ジャージ相手の方が打ち解けやすいと思うぜ。」
「そっか…なるほど!」

 僕は奈落を待たせて、トイレで速攻でジャージに着替えた。

「お待たせ!」
「ん、バスで3駅先の曙高校前で降りるぞ、そこのファミレスで約束してる。」
「顔はわかってるの?」
「ああ、樹から写真も添付されて来た。
 ホラ、この爽やかボーイ。
 身長高いし、曙高校のジャージ着て待ってるらしいからすぐわかるよ。」
「本当だ爽やかボーイまんまだね。」

 奈落のスマホを覗いて、向井君の顔を確認した。
 よし!やるぞ!

 宮地のイジメのおかげで俄然やる気がふつふつと湧いて来ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...