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図書室の怪人と夜のデート

第15話

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 ギリギリに近い感じで教室に辿り着いた僕は、立ち話しをしているクラスメイトの脇を抜けて、自分の席に辿り着いた。

 宮地の方が先に教室に到着していて、腕組みして足を机の上に投げ出して、こちらを睨んでいた。

 …これは…機嫌が最高に悪い状態だな。
 万全の体制と、心準備をしておかないと。

 僕は席に座るなり筆入れを取り出して、中のシャーペンを探すフリをしてICレコーダーのスイッチを確認した。

 しかし、ホームルームもすぐに始まる時間帯だったせいか、宮地は腕組みしたまま、こちらを睨んでいるばかりのようだ。
 刺すような視線の中、僕は背を丸くして警戒しながら考えた…。

 怒っている…昨日の事…?
 いや、あの時確かに宮地は満足な顔をしていた。
 心当たり…心…当たり…。
 
 僕と宮地の昨日の共通点…。

 ………早川さん!?
 
 もしかして、早川さんに僕が接触したのがバレた?
 可能性は高い。
 僕は宮地のクラスメイトだと言った。
 何の気なしに話したのかも…そして、その事で苛立ってるのかもしれない。
 自分の事を調べてるなんて知られたら、それこそボコボコに袋叩きだなぁ。
 かと言って、早とちりしてこちらから、何かしらの行動に出るのはマズイ。
 焦りは禁物だ…ここは知ら切り通すしかない。
 相手の出方を待ちつつ、知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。
 今までの苦労を水の泡にだけはしないぞ!

 手に汗をかきながら、僕は決意をしてホームルームが終わるのを待った。

 
「今日は話す事もそれほどでは無いから、ホームルームを早めに切り上げるぞ~。」

 よりによって、今日に限って担任はホームルームを短縮してサッサと職員室の方へ出て行った。
 1時間目が始まるまでかなりの余裕がある…来る!

 僕がそう思った瞬間!

 ガシッ!

 頭を鷲掴みにされた感触!
 振り向かなくてもわかる…宮地だ!

「おい!顔貸せ!」

 僕は遠隔のICレコーダーマイクを着ける暇がなかったので、筆入れからサッと小型ICレコーダーを取り出して、手の中に隠しながらスイッチをONにすると同時に制服のポケットに突っ込んだ。

 宮地は僕の制服の肩部分を掴みながら、僕を廊下へ引きずり出して、廊下の奥まったところまで連れて行った。
 田中や安村は付いて来ていない。
 1対1だ。

 ガッ!

 柱の陰に宮地は僕を押し付けた。

「お前、図書室を調べてんだってな!
 何が目的だか知らないが、迷惑してる奴がいる!
 調子に乗って変な事すんな!」
「迷惑…してる…?
 早川さんの事?」

 グッ!

 宮地は僕の襟首を持ち上げた。

「早川と話したのか?
 何話しやがった!
 まさか、俺の事チクッたりしてないだろうな!」

 えっ…チクるって…宮地は何を心配してる?
 図書室を調べられて…困る…早川さん…。

 早川さんが僕の口止めを、宮地に頼んだ…?

 グイグイと襟首を締める力が強くなって来た。

「とにかく、図書室だの図書委員だのに関わるな!」

 ヤバい!意識が落ちそう…。

 僕は力の抜けて来てる腕をなんとか上げ、耳たぶを掴み、奈落に合図を送った。

「うわー!マジ最近流行りのBL?
 リアルだぞ!」

 意識の薄れそうな中、変な言葉を叫ぶ声が聞こえた。

 …な…らく…?

「廊下の陰でホモ男子2人がイチャついてるぞ!
 や~らし~!」

 襟首の手の力が一気に抜けた。
 僕は崩れるように、その場にしゃがみ込んだ。

「ばっ!誰がホモだ!」

 焦る宮地を、逆に生徒達は興味津々で覗きに来た。
 そして、コソコソクスクスと下世話な話しで盛り上がり始めた。

「くそッ!誰だ!」

 宮地は拳を振り上げて、ざわつく周りの生徒を威嚇して蹴散らし始めた。

「何してるの?保っちゃん」

 冷静なのに、優しいそして周りの人のように決してふざけたりしていない声が聞こえて来た。

 …早川さんだ。
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