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図書室の怪人と夜のデート

第7話

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 自転車を置いてすぐに、奈落にメッセージを送った。
 
『今から、すぐに着替えるからランニングに行こう。』

 送信。

ピロリロリーン。

『了解。こっちもすぐ行く。』

 僕はすぐにアパートに入ろうと、ドアノブに手を掛けようとした。

「見ぃ~つけた!有村!」

 …え…この声…しかも…バイク音…。

「あ…あなたは!か、神楽さん!?」

 振り返ると真っ赤なバイクにまたがった真っ赤なライダースーツを着た神楽さんが、僕を手招きしていた。

「ちょっと、あんたに急用があるのよ。
 付いて来て!」

 バシッ。
 そう言ったかと思うと、ヘルメットを僕の胸に投げつけて来た。

 えええええ~~!?

「あ、でも母さんや、奈落に連絡…。」
「奈落はジャマなの!早く!
 お母さんには後で連絡しなさい!
 時間は取らせないから!」

 神楽さんの勢いに圧倒されて、鞄を肩に担いだ格好で彼女のバイクの後方にまたがった。

「ほら!しっかり掴まって!
 落ちたら死ぬわよ!」
「ひいぃぃ!」

 僕は目をつぶって、神楽さんの腰にしがみついた。
 
 ブォーンブォオオン。

 エンジンがかかり、振動かお尻に伝わって来た。
 バイクが走り出すと、身体が浮きそうになり、さらに腰にしっかりと腕を巻き付けた。

 女の人に抱きつくなんて初めてだし、本当はすごく恥ずかしかったけど、そんな事を言ってる場合じゃなかった。
 …ただ、神楽さんは思ったよりも、柔らかくちょっと気持ちが良かった。

「そろそろ、奈落が慌ててるかしら?
 ま、見つかるのは時間の問題だからね。
 もう少しで着くからしっかり掴まっててよ!」

 バイクは車の間をスイスイと抜けて、とある居酒屋の前で止まった。

「神楽さん!ここ!居酒屋って…僕は未成年です!
 しかも制服だし!」
「お酒なんて飲まないわよ!
 私だってバイク運転してるんだから。
 酒さえ飲まなきゃいいのよ。
 ご飯食べるだけよ。」

 あ、確かに…。
 飲酒運転で帰るなんて考えただけでもゾッとする。

「入って、個室予約してあるから。」
「はぁ…へっ…こ、個室!?」

 ちょっと待ってよ!
 僕は女子ともまともに2人きりになった事ないんだよ!
 そんな僕がセクシーボディの神楽さんと2人だなんて!
 まともな会話なんて無理~!
 
「サッサと来なさい!
 奈落のバカに嗅ぎ付けられるでしょ!
 見つかる前に話つけたいの!」

 神楽さんは力づくで僕の腕を引っ張り、店内に入った。

「いらっしゃいませ~。
 あ…あ、姐さんです!姐さんいらっしゃいました!
 奥へお通しして!
 早くう~~!」

 神楽さんを見るなり、店員がザワつき始めた…この人の存在感威力って…。

 奥の個室に通された僕は、向かい合わせに着席して神楽さんと同じ烏龍茶を頼んだ。

「ほら、なんでも好きなもの注文して。
 私の奢りなんだから。」
「はあ…。」

 そう言われても、この状況で食欲なんて出ないだろう。
 早く奈落に迎えに来てもらうか、帰宅したい気分だ。

「あ~もう、イライラする!適当に頼むわよ!
 シーフードサラダと唐揚げ、五目いなりに、だし巻き卵。」

 慣れた感じでメニューから選んで店員に食事を注文した。

「あの、とりあえず母さんが心配するので連絡してもいいですか?」
「仕方ないわね。
 早くよ!」

 僕は鞄からスマホを取り出して、母さんに電話をかけた。

「あ、母さん。
 ごめん、アルバイト先の人と急に話しがあって、帰りが少しだけ遅れる。
 ん、帰りに連絡する。」

 母さんに連絡は入れたものの…奈落はどうしよう。

「奈落にメッセージ送っちゃダメよ!」

 ギクッ!

「あははは、送ってませんよ。」

 完全に読まれてる…。

「…ところで、僕に話しって…もしかして忍者衣装のロゴのことですか?
 土曜日に豊田さんにあってデザインが決まるので…。」
「ん…それもあるけど、単刀直入に言うとアドバイスが欲しいの。」
「アドバイス…ですか…?」

 僕の目は点になった。
 一体何のアドバイスなんだ?
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