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情報とは最大の武器である

第12話

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 月曜になり朝から緊張してかなり早く起きてしまった。
 母さんは逆に今日から2日間休みに入るので、起こさないように静々と朝食と学校の準備をした。
 
 ICレコーダーの確認を何度もしてしまう。
 やっぱり、緊張する…。
 学校内ではもっと気が抜けないだろう。
 けど…これは使命だと自分に言い聞かせて、深く深呼吸した。
 
 多分、森園先輩の復帰まで先生方がピリピリしてるだろう。
 宮地達とは言え、そんな空気の中おおっぴらなイジメをするほど馬鹿ではないだろう。
 身の危険の無い今のうちに休み時間とか、廊下での噂話とかにも耳をそばだてよう。
 あと、樹さんから連絡が来れば、宮地の過去を少し知る事が出来る。
 とにかく、この一カ月は情報収集に徹しないと。
 じっくり考えるのはその後だ。
 
 材料さえ揃えば、何とか作品の出来る美術作品のように。
 素材をより多く集めるのが先決だ。

 ま、もし見つかっても…それはそれ。
 リスクは付き物だ。
 安全な場所から眺めていても、イジメは止まらない。
 窮鼠猫を噛む!だ。

 僕は拳を振り上げて気合を入れて、玄関をそっと出た。

 朝日が眩しい、目に刺さるようだ。
 僕は赤い自転車に電動アシストのバッテリーを差し込んで、自転車を走らせた。

 部活でもないのに、こんなに早く家を出るなんて。
 でも、この決心が鈍らないように、先に出来る事はやっておきたかったんだ。
 
「加納先生…今朝は来るかな?
 来てくれると、ゆっくりと話しが出来るんだけど。」

 加納先生は確かに頼りない感じではあるものの、決してイジメを許してる人ではない。
 他の見て見ぬ振りをして、ごまかしてる先生に比べれば、保健室に僕等を招き入れて、逃げ場を作ってくれるだけ、信頼できる先生だ。
 相談にもじっくりと耳を傾けてくれる。
 ただし、解決する事は少ないけど。
 
 加納先生なら森園先輩の事をよく知ってるはずだ。
 彼女も3月までは保健室に通っていたと土屋先輩か言ってた。
 でも慎重に話しを切り出さないといけないよな。
 自殺未遂発覚で学校の雰囲気が悪くなってるのも事実だし。

 そういえば、神谷先輩のメッセージの件、やっぱり…あれから連絡が無いって事は、特に意味が無かったんだよなぁ。
 幼馴染みって言ってたから、家が近所で嫌でも目に付いてしまうのかな。
 あと、きっと神谷先輩は優しいから、彼女を心配しているんだろう。
 来月、クラスの人達は反省して森園先輩をちゃんと受け入れてくれるのだろうか?

 自転車を漕ぎながら、そんな事を考えていた。

 学校へ着くと誰一人駐輪場に自転車を置いていなかった。
 
 「休み明けなのに、早すぎたかな。」

 そう、独り言を呟きつつ、自転車を駐輪場の端に停めた。
 しっかりと、鍵を掛けてから保健室へと向かった。

 閑散とした生徒用玄関や廊下を抜けて、保健室までトボトボと歩いた。

 物音しない学校…先生方すらまだあまり出勤していないようだ。
 
 保健室…空いてるかな…。
 少し不安になって来た。
 
 保健室の前に立ち、恐る恐る扉にに手をかけてみた。

 扉はいつもの様に自然に開いた。

「ああ、よかった。」

 ホッとして胸を撫で下ろした。

 保健室には朝陽が差し込んで、白いベットや仕切りに反射して部屋が眩しいくらいだった。

 辺りを見回してみると、見慣れない上級生らしき生徒が窓の外を覗いていた。
 
「あの…おはようございます。」
「おはよう。
 忘れ物を取りに来てね。じゃあね。」

 単髪で筋肉質っぽい…野球部っぽい彼は、そう言って手提げ袋を肩にかけると、僕の横を通り過ぎて出て行ってしまった。

「ん…どう見ても、イジメられる人じゃないよな。
 あれ…ん…?」

 何だろう。
 胸に違和感を覚えた。
 野球部とかスポーツ部に入ってそうな人なのに…なのに…足音1つしないで僕の横を通り過ぎた。

「あ!あのっ…!」

 僕は慌てて保健室の扉から廊下に顔を突き出して、さっきの上級生を探した。

「えっ…いない…。」

 …まさか…幽霊!?
 足はちゃんとあったよ!
 ゾクゾクと背筋に寒気が走るのを感じた。
 朝から…幽霊なんて…まさか…だよね。
 数分、僕はその場に立ち尽くしてしまった。
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