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情報とは最大の武器である

第3話

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「わかった…明日にでも…えっと連絡出来ると思う。
 連絡は直接は規約違反になるから…奈落を通してでいい?」
「おう。大丈夫だ。
 天童さんとこと、うちの契約はサポーターを通しての情報売買だからな。
 逆を言えば、俺を通せば樹の協力は幾らでも得られる。
 有料ありだけどな。」
「そうか…奈落を通して調査して貰ってたのも樹さんのいる事務所からだっけ。
 逆にこっちから申し出る事も可能なんだね。
 なんか心強いな。」
「そう…とも言えない…。
 規約違反とか、そういうのを…調べたりもするから…全員の不正調査もしてるから、そこは…慎重にして欲しいんだ。」
「だな。
 つまり、今回の実験における審判の判断材料も調査されてる。
 敵であり味方である位置だな。」
「僕自身も調べられてるって事だね。
 奈落も同様に。
 でも、不正をしなきゃ問題ないはずだよね。」
「そう…例えば…えっと、他の被験者を調べようとしたりはダメだよ。
 それを依頼した時点で、相手の実験を阻害する可能性が出て来ると判断されるから。」
「あくまでも、フェアに。
 って言うか、自分の実験に集中しろってこったな。
 他人の心配する暇なんかないだろ。
 実際は。」
「うん、無いね。
 自分の事でいっぱいいっぱいだ。
 僕が協力して欲しいのは、イジメを無くす事を目的とした調査だし。
 僕にとっては『有意義』な事なんだ。
 あと…これは出来たらでいいんですけど…。」
「ん?調査以外に何かあるのか?」
「…必要な物とか?」
「違うんです。
 その…樹さんが女性恐怖症を克服したって、奈落から聞いていて…。
 その話しが聞きたいんです。
 僕のやろうとしてる事に、何か参考になるんじゃないかって思ってて…。
 …ダメですか…?」

 僕はそっと、上目遣いで2人の顔色を伺ってみた。

「有村の言う通り、話づらかったら話さなくて全然構わないぞ。
 コイツはそんなんで、人を嫌ったりしない。
 むしろ、お前の心中を察してると思うぞ。」
「えっと…んっと…どうしよう。」

 樹さんは困ったようにモジモジした。
 やっぱり、メンタルな話しは負担を掛けてしまうのかも知れない。

「やっぱりいいです!
 すみません、無理な話しを吹っかけて。
 失礼でした。
 本当にすいません。」

 僕は正座したまま、頭を下げた。
 
「あ!…いえ…そうじゃなくて…どっから話していいか…えっと…。」
「樹、有村は神楽と遭遇済みだ。
 ウチの特殊な事情も大体は把握してる。
 思った通りに話せばいい。
 お前のペースでな。」

 奈落の言葉に樹さんは頷いて、ゆっくりと思い出しながら語り出した。
 僕は息を飲んで、耳を樹さんの声に集中させた。

「えっと…じゃあ…そうだなぁ…。
 僕はよく、奈落とマッキーに引っ付いて歩いてたんだ。
 居ない時はジキルとハイドって言う双子の男の子の後を付かず離れず…。
 とにかく、誰か側に居ないと不安でさ。
 誰かの服の裾を常に摘んでたんだ。
 そのうち、神楽やあかねの女の子達にからかわれる様になってね。
 ワザと僕を引き剥がして、吊るし上げるようになったんだ。
 華京院では昔から女性はかなり強いんだ。
 だから、ひ弱な僕は弾かれる。
 今になって考えてみれば、神楽達は社会に出ていないうちに僕を鍛え直したかったのかも知れないと思うけど。
 当時は単なる意地悪や、からかいだと思っていた…。
 奈落やマッキー達への当て付けとも…。
 だから、僕はドンドン女の子が怖くてたまらなくなっていったんだ…。」
「その気持ち…すごくよくわかります。
 卑屈になっていってしまうんですよね。
 思考がマイナスにしか働かなくなって…自分の価値もドンドン下がって行く。」
「そうなんだ…自信もないし…。
 そんな時、偶然に父に会いに来た情報部の天童さんと会ってね。
 こう言われたんだ。
 
『力のない者が敵を倒すには、まず相手の懐に入る事です。
 では、どうやって入るか?出来ないと思うかい?
 そりゃ相手を知らなければ一生懐には入れない。当然ですね。
 わかりやすいように言いましょう。
 未確認生物が目の前にいた…いきなり倒そうとするかい?
 私なら…観察するね。
 出来るだけの情報を集めるよ。
 相手の1番の弱点を見つけるためにね。』

 その瞬間、僕の目の前に立ちはだかっていた大きな扉が開いたんだ。」
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